4 — 4(少々お汚い表現がありますのでご注意ください)
※ 嘔吐の表現があります。苦手な方はご注意ください。
わたしは座敷牢の端っこに座っていた。そうすることしかできなかったからだ。
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地下にはずいぶん立派な座敷牢があって、中には後ろ手に縛られたベルドがいた。石花の護衛以外、全員中に入ったから、不安に思ったわたしは一緒について牢に入った。どうせ誰にも見えてないんだから。
「静かにしていてくださいね」
微かに笑ったレイストが言う。畳の上に座らされたベルドは視線を逸らし、大人しくしている。牢は狭くなかったけれど、石花やらレイストの部下らしき人やら取り囲むようにしているし、ここを突破できたとしても、外には護衛がいるから逃げ切れないだろう。
顔を隠した一人が深い桶をベルドの前に置いた。一人はベルドの横に座った。
レイストはベルドの後ろから顎を掴んで上げさせた。ベルドの顔を固定して、口を指でこじ開ける。手の空いている一人が小瓶を取り出し、ベルドに何かを飲ませた。ベルドはもちろん抵抗する。けど、レイストが無理やりベルドの口を閉じさせた。
慌てたわたしはレイストに体当たりした。けど、わたしが尻餅をついただけで、レイストに変化はなかった。ソファやドアと一緒だ。本体だけだと、わたしの方が負けてしまうのだ。
「ひどい味がしますが、すみませんね」
それをほとんど飲み込んでしまったらしい。数分もしないうちにベルドの顔色は悪くなり、嘔吐し始めた。どうしようとおろおろしたけれど、わたしにはどうしようもない。
苦しそうにするベルドを見た石花は、嬉しそうに笑った。
もうほんっとうにぶっ……。あんまり怒るとマキヨ嬢が言葉が悪いって怒るから言わないけど。……絶対に許さない。
「あぁ、臭い臭い。人のものを盗むドブネズミだから仕方がないな」
鼻を押さえて、見下して笑う。ベルドには聞こえてたかすら怪しいけれど。
レイストはいつも通りの顔で石花を見上げた。
「あとはやっておきますよ。いい薬ですから、何度か飲ませればおとなしくなります」
「そうか。薬漬けにすれば文句も言えなくなるからいいな」
これはマキヨ嬢を取り返そうとするだろうベルドに対する手段、ってことかな。しかし薬漬けはよくない。どうにかしないと。
「癪だが綺麗にしておけよ。あの方に差し上げるのだから、喜んでもらわないといけないからな。きよの居場所を掴んでくださった方だからな」
あぁ、まだ何かいるのか。わたしは思わず唇を噛んだ。マキヨ嬢を探していたこいつに居場所を教える代わりに、ベルドの身柄を要求した誰かがいるってこと?
「えぇ。清めておきますよ」
レイストが応じる。石花たちは満足そうに去って行った。
レイストと顔を隠した二人だけになるやいなや、レイストはベルドの腕の拘束を解いた。
「すみませんね、脱がせますよ」
ベストとシャツを脱がせる。顔を隠した一人がベルドの下半身にタオルをかけた。ズボンが汚れないようにだろう。レイストにもう一枚タオルを手渡す。レイストはベルドの肩にタオルをかけた。
レイストがベルドの背中をさする。
「もう少し、頑張ってください。苦しい思いをさせてすみませんね」
その言動に、わたしは眉を顰めた。レイストは何がしたいんだろう。間違いなくベルドたちを嵌めたのはレイストだ。こうして苦しめてるのも。でも気遣いはある。今まで一緒に行動してたから?誰かに引き渡す『商品』だから?
ベルドはゆっくりと目を瞬かせた。吐き気が止まらないみたいで、見てるこっちも苦しい。これじゃ、抵抗どころじゃない。
わたしはため息をついて部屋の隅っこに落ち着いた。ベルドがかわいそうだけど、これを止めることはわたしにはできない。外出られないし。ぬいぐるみは置いてきちゃったし、あってもレイストがいるから難しい。
とにかく、わたしはベルドのこの状態がどうなるのか、見ておかないと。いたずらにマキヨ嬢を心配させるわけにはいかない。
レイストが敵か味方か、という点も曖昧だ。敵なら石花と一緒に排除しなくちゃいけないだろう。
でもねぇ。わたしが、ぬいぐるみが動くということをレイストが知っているのがね。不意打ちにならないんだよ。防がれたら終わり。そこをなんとかしないと。
顔を隠した片方が、優しくベルドの口元を拭う。この人たちもなんだろう?ベルドに薬を飲ませたこと以外はひどいことはしてない。レイストの部下、だろうけど、こちらの人?
「鼻血」
言葉はこちらの人だな。
鼻を押さえて、と部下がレイストに指示する。レイストはベルドの頭を少し下に向けさせて、彼の鼻を摘んだ。しゃべらない方の部下が箱から脱脂綿を取り出す。
「口で息をしてくださいね。苦しかったら言ってください」
「血を飲まないようにして」
こういう処置はちゃんとしてるな。鼻血はしばらくして止まったようだ。
「良さそうだ」
ベルドの顔を覗き込んで部下は言う。レイストに寝かせるよう指示した。この人、もしかしたら専門家かな。レイストはベルドを担ぎ上げて、布団に横向きに寝かせた。しゃべらない方は桶を片付けている。
「しばらくすると効果が出る」
「ありがとうございます。後遺症はないですね?」
「副作用は出るけどね」
わたしはベルドの前に回った。ベルドは目は開いているけど、どこか虚ろだ。吐き気と鼻血は止まったみたいだからよかったけど……。
出ましょうとレイストが立ち上がる。二人も立ち上がり、牢の外に出た。鍵の閉まる音がする。
ベルドはゆっくりと瞬きを繰り返している。ちょっと異様な雰囲気はあるな。息苦しそうだし、目が虚ろなのもあるだろう。
あれ、なんの薬だったんだろ?薬漬けにするって言ってたけど、結局一回しか飲ませなかったし、レイストは後遺症を気にしていた。薬漬けにするつもりはなかったってことでいいの?
どうしよう。分からないことだらけだし、レイストは敵か味方か分からないし、ここからどうやって逃げるかも思いつかない。千代子ちゃんとスミエさんがいなかったら、もっと混乱したに違いない。




