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3 —17

「本題、ですの?」

「本題です。殺された商人ですが、彼には妻子がいました」


 そういえばそうおっしゃいましたわね、とステラ嬢は可愛さゼロの気の抜けた口調で言う。どうやら毒気が抜けちゃったらしい。


「突然夫が帰ってこなくなり、この館に問い合わせたら死んだと通知がきたそうですよ。まるで犯罪者扱いの文言だったそうです。そして彼女たちが住んでいた町では、商人が宝石を盗もうとして死んだのだ、という噂が広がったそうです。妻と子はその町にはいられなくなりました。あまりに噂が早かったそうなので、おそらくはあなたのお祖父様が流した噂でしょうね」


 あのおじーちゃんはやり手だったんだろう、こういうことに関しても。ステラ嬢もステラ嬢の両親も、みんなやり方がよく似ている。


「お金もなく、あてどなく彷徨って、落ち着けそうな村で妻子は過ごすことになりました。妻は働いて、小さな娘を養ってきたそうですよ。娘は商人だった父の話をたくさん聞いて育ちました。その無念の最期まで全て。そして妻は身体を壊し、亡くなった」


 かたんと音がした。光が差し込む。えっというステラ嬢の声がした。


「娘は父の無念を晴らすために、商人になりここまで来たんですよ」


 光に慣れた目に、ステラ嬢が見えた。椅子に座った彼女は凍りついている。そりゃそうか。動かした棚から人が見えたら。


 ベルドはステラ嬢を振り返った。


「この部屋は亡くなったリーリア様の部屋ですよ。あなたのお祖父様が盗み聞きをしたのもここです」


 レイストがシトリン嬢の手を取り、部屋へと入る。ベルドがマキヨ嬢に手を差し伸べた。マキヨ嬢は躊躇いなくその手を取る。


 思わずという風に立ち上がったステラ嬢は、感心したように棚を観察した。


「こんなところに……。あぁ、みんな聞かれちゃったのですね」

「あなたの場合は直接手を下していないので、私のルールからは外れますよ」

「そうだとしても……。私の不利には違いないのですわ。あの家は気に入らないと殺すのだと詳細に語られたら、お祖父様亡き今、太刀打ちできませんもの」


 ステラ嬢はシトリン嬢を見上げた。


「あなたのお父様のしおりは見つかって?」


 シトリン嬢は失礼しますねと断って、本棚に足を進めた。見上げて、一冊取り出す。赤いしおりが出てきた。何か文字が書いてある。

 そして彼女はポケットから古い紙を一枚取り出した。並べて示す。


「これですね。こちらが母の原案」

「あぁ……同じね。お店の名前は、あなたの名前なのね……」


 朝の紹介、ちゃんと聞いてたんだね!ある意味覚えてて偉い。


 はぁとステラ嬢はため息をついた。諦めた表情を浮かべてシトリン嬢を見上げる。


「あなたの望みは何かしら。お祖父様のしたことは、確かに正しくないことでしたわ」

「おや、意外ですね。認めるんですか、見たわけでもないのに」


 レイストの皮肉な口調に、ステラ嬢は唇を吊り上げて笑う。


「お祖母様の自殺は外には知られてないんですのよ。しかも落ちたところがどこかなんて、遺体を調べた人しか知りませんわ。お父様から聞いてたんですわ。あれはお祖父様が何かやらかした末の自殺だって。商人の死も殺しだったんじゃないかって噂も知ってます。彼だけ身元がはっきりした関係者でしたもの。説明されたら納得しかありませんでしょ?」


 一応ちゃんと考えることはできるんだなぁ。なんか勿体無い子だ。美人だしさ。


「ブルーダイヤモンドは差し上げられませんけど、他のことでしたらできるだけ対応いたしますわ」

「どうしてブルーダイヤモンドはダメなんです?」

「どこにあるか知りませんもの。ないものはあげられません」


 では、とシトリン嬢が口を開いた。ステラ嬢は緊張した顔で彼女を見上げている。


「本の買取を私にさせてください」

「それで、いいんですの?」

「えぇ」


 ステラ嬢は拍子抜けしたように、どうぞと答えた。もっとすごいことを要求されると思ってたんだろう。

 でも多分、この家はシトリン嬢にとっては宝の山だ。本の商人だもんね。本の価値が分からないステラ嬢は、シトリン嬢に任せきりになるはずだ。シトリン嬢は儲け放題できる。


「もう一つよろしいですか?」


 ベルドが小さく手を上げる。


「何かしら」

「私の妻に謝罪を。彼女は気にしていなかったようですが、妻への暴言は私が許しません」


 むっと唇を引き結ぶ。謝らなさそうーと思ってたら、ステラ嬢はぺこりと頭を下げた。おや。


「ごめんなさい。悪かったわ、馬鹿にして」

「ステラ様が……謝った……!」

「驚かないでもらえますこと? まぁ……。私は今まで謝りませんでしたけど……。お祖父様みたいにはなりたくない、と思ってしまいましたもの」


 おじーちゃんに怒られないかい、それ。と思ったら、おじーちゃんはベッドに座って、うんうんと頷いていた。どうやら、おじーちゃんも後悔してたようだ。


「お祖父様が、満足そうな顔をしておられますね……」


 マキヨ嬢も当然見えている。マキヨ嬢の視線を追いかけて、本当に見えてますのねと呆れた顔をするステラ嬢。


「羨ましくはないけど、いい能力ね。少なくとも、私はお祖父様の気持ちが知れて嬉しいですわ」

「あ、ありがとうございます」


 本当に憑きものが落ちたみたいな顔をしてるね、ステラ嬢。そういう顔してた方がよさそうだ。


 では、とベルドは本をどけて、本棚の奥に触れる。宝石箱を出してきた。


「こちらもお渡ししておきます。隣の部屋……裏から見た時に、これに気付きまして。謝ってもらえないようなら無視しようと思いましたが」


 宝石箱の中をそっと開けると、うわぁ!でっか!キレー!青いダイヤモンドじゃん、すごぉ!マキヨ嬢の拳くらいはある。ネックレスだねぇ!


 ステラ嬢は案外喜ばない。パタンと蓋を閉めた。


「これもちょっと考えますわ」

「それがよろしいでしょう」


 そう言ったベルドを眺め、ステラ嬢はマキヨ嬢に視線を移した。ステラ嬢の方が背が低いから見上げることになる。


「いい旦那様ですわね。羨ましい……」


 うふふとマキヨ嬢が嬉しそうに笑った。ステラ嬢はきょとんとしたあと、笑った。もしかしたらマキヨ嬢が笑うところ、見たことなかったのかもしれない。


「これはレイスト様に預けておきますわ。私は警察署へ行って、経緯をお話してきます」


 さっさと部屋を出ていき、アメリーナァ、ちょっとついてきてくださいましーという声が響く。宝石箱を押し付けられてしまったレイストは首をすくめて、これどうしましょうかと呟いた。

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