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3 —16

「教えてくださいます、ベルド様」


 おっと、声色が変わったなぁ。可愛い系が全部抜けちゃってるよ?


「あの黒髪の気持ち悪い女の、どこが好きなんです? どこからどう見ても私の方が可愛いのに」


 むぎゅっと頭を押さえられた。マキヨ嬢だ。飛ばないって、こんな狭いところで。


「私にはあなたよりずっと、マキヨ君の方が美しいと思いますよ」

「目、おかしいんじゃない?」

「あなたが美しいと思える目なら、潰したほうがマシですね」


 ベルドにしたらキツい言い方するね。マキヨ嬢を馬鹿にされて怒ってるな。


「どうしてあの女なの? どうして私じゃないの?」

「ご自分で考えられたらどうです?」

「分からないから聞いてるんでしょ! 答えなさいよ!」


 おーおー、激昂してる。怖い怖い。

 そうだなと呟くベルドの声は呑気だ。


「あなたとは一緒にいたいと思わないからじゃないですか」

「どうしてよ!」

「例えばですが。物を奪っておいて水をかけたり、返して欲しければ蟻を食べろと言ったりする人って、あなたはどう思います? 人を転ばせておいて、やめて欲しければ服を脱げと命令したり、髪を切ってきたりする女は嫌ですよね」


 ステラ嬢も覚えがあったらしい。黙り込んだ。


「私に忠誠を誓えと、人を試して死に追い込む女は嫌でしょ」


 今のはトドメだねぇ。うん。ベルドが少し笑った気がした。


「逆で考えたら分かりやすいですよ。そういう男がいるならと考えたら。そうだ、実際いた方で同じような方がいるんですよ。その方の話をしましょうか。すごく分かりやすいと思いますよ」


 昔の話です、とベルドは勝手に話し出す。


「裕福な男がいましてね。頑丈な館を建てました。その男は仕掛けの好きな男でしてね。あらゆるところに、いろんな仕掛けをしました」


 マキヨ嬢の手が、わたしの腕をきゅっと握る。ま、話しちゃうんだなって思うわな。


「男には美しい妻がいました。妻は本の好きな方でね。本を売りにくる商人と仲良くなりました。もちろん、本当に友人として仲良くなっただけですよ。商人にも妻と娘がいましたからね。お互い本好きの友人になったわけです」


 ところが、と続ける。


「男は妻が、商人と浮気をしているのではないか、と勘繰りました。だから仕掛けを使って盗み聞きをした。すると、どうやら一冊の本を探しているらしいと、話の流れで気付きます。秘密の本と呼ぶ本です。男はね、二人が秘密を共有していることに嫉妬したんですよ。そしてその本は、二人が浮気を楽しむための本に違いない、と決めつけた」


 それ、聞いた時も思ったんだけど、そんな本あるかぁ?えっちな本か?

 ふと上を向くと、マキヨ嬢がこっちを見ていた。だからなんで?口がきけたら、不埒なこと考えてたって突っ込まれるやつじゃん。


「商人はその日、本としおりを持って館に来ました。しおりはね、商人の妻がデザインしたもので、試作品です。一番に本友達である男の妻に見せたかったんですって。世界に一枚だけの試作品を、是非男の妻に使って欲しかった。妻は喜びました。友人がプレゼントしてくれた、世界に一枚だけの彼の店のしおりだから」


 でも男は違ったのだ。


「男は、妻が商人を好きだから、そのしおりを喜んだのだと思ったのですよ」


 商人はその日、自分の足で館から出ることはなかった。


「商人の死体はゴミ置き場から見つかりました。男が商人を呼んで、ダストシュートに突き落とした」


 ステラ嬢の、あぁと震える声が聞こえた。誰の話かくらい、分かるよね。


「妻は男を問い詰めました。男は言ったそうですよ。お前と浮気をしていた男だから落としたと。得意げにね。まるで虫を駆除したかのように。しかも商人が落ちたのは図書室の仕掛けから。あの仕掛けはね、一番高い位置から落ちるそうですよ。落ちる恐怖も衝撃も一番の場所。それを知っていて、中のボタンが動かないのだ、見てほしいと騙してあのエレベーターの中に入れたんです。商人は人当たりがいい、素直な男だったそうですからね。突然入り口が閉まり、パニックで叫ぶ声が聞こえて痛快だったと男は笑った」


 この話は、マキヨ嬢が降霊術でリーリアさんを呼び出して聞いた話だ。今朝、図書室で行った。リーリアさんは泣きながら、この話をしたのだ。


「妻は叫びました。秘密の本は、あなたが昔読んで面白かったと言った本よと。彼はそれを探してくれていただけで、浮気なんかしていなかったと。秘密の本と呼んでいたのは、密かに取り寄せて男を驚かせたかったから。何も、後ろ暗いところはなかったんですよ」


 それでもあのおじーちゃんは認めなかったらしい。そして言った。あの男が悪いのだと。


「私の意に反する者は死んで当然だと、おっしゃったそうですよ。忠誠を誓えない者は許さない、誰かと似ていますね。自分の過ちも認められないなんて」

「……妻は、転落死したはずですわ」

「えぇ。商人と同じ、一番高いところから。彼の意に反する者だから、と彼女はおっしゃっていました。彼女のせめてもの抵抗ですね」


 聞いてもいいかしら、と言った声は、少しマシになっていた。


「どうしてお祖父様は本を集めたのかしら」

「おそらくですが、秘密の本を探したのではないですか。でも悲しいことに、彼はその秘密の本の話を覚えていなかった。妻には何気なく話しただけでしょう。彼にとっては妻との会話なんてその程度だった。知っている本から買い始めて、しかし面白いと思った本は覚えになく、もしかして題名の覚えていない本かもしれないと本を買って、こうなっていったのでは」


 あ、黙っちゃった。反省したかな?


 では本題に入りましょうか、というベルドの楽しそうな声が聞こえた。

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