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3 —15

 落ちるの当たり前、って言われてたから、あんまり違和感なく受け入れてたけど、そうか、グラヘンって殺された可能性もあったんだっけ。

 なんだかな。警察もさー、あっ、いつものですねー事故死でーすで済ませちゃうし放置してたけど、普通ならもっと大ごとなんだよね。


 そういやステラ嬢が殺したんだと思ってたんだっけ。そうか、図書室にいたなら、あのエレベーターの仕掛けがあるから殺せるのか。どうやって押し込んだかが問題だな。


「いやだ、人聞きの悪い。私にグラヘン様を殺せると思います?」


 ステラ嬢が面白がるような上品な声で言う。マキヨ嬢の話を聞いた後だと、殺せるような気しかしないけどね。


 でもこれ、いいのかな?殺人か殺人未遂の告発は他人に聞かれたら犯人は死ぬんでしょ?これってステラ嬢は死なない?……まぁ、死んだら惜しいかと聞かれたら、いいえって言うかもしれないけどさ。寝覚め悪いじゃん。


「誰も殺したとは言っていませんよ。仕向けただけ。あなたとしては、仕向けたというよりは試したんじゃないですか?」


 そういやマキヨ嬢も言っていた。忠誠心を試したり、って。


「そもそもあなたは人を信じていない。だから一度、この家の仕掛けで試すんでしょう? 私たちもそうでしたね。最初に来た時、仕掛けのある書斎にわざわざ通された」


 あ、そうじゃん。あれ、ベルドが見てたから平気だったけど、うっかり触って仕掛けを動かしたら入ったかもしれないじゃん。

 カサカサと紙の音がした。


「カーラーさんに借りました。あなたの手紙です。レイストという商人一行を書斎で待たせるようにと書いてあります」

「たまたまですわ」

「あれほどお祖父さんに書斎に入るなと言われていたのにですか? そこは危ないと、あなたも知っていたでしょう。つまり最初から家の物に手を付けるような相手なら、殺していいと思っていたということです」


 ……思ってた以上に、エグい性格してるんだね。これから世話になるかもしれない相手に、まずは命かけろってさ。


「私たちにした同じことを、あなたはグラヘンさんにしたんじゃありませんか?」

「私、そんなこと……」


 声だけ聞いたら、それはもう虐められて困るみたいな可憐な少女の声だ。こういうのに騙されたのがグラヘンだったりアップラーだったりするのだろう。


「私たちと話した時に、書斎と寝室には入ることを祖父から止められていたと言いましたね。危ないところから遠ざけていてくれたのだ、とも」

「えぇ。申し上げましたわ」

「どうして図書室を抜いたのです?」


 一瞬、ステラ嬢は黙った。


「図書室は、入ってはいけないと言われませんでしたもの」

「でも絵には触るな、と言われたはずですよね?」


 また沈黙。そしてまたステラ嬢は答える。


「図書室のことは忘れていたんですわ」

「図書室は怒られませんでしたから安全かと思いますと、あなたは言いましたよ?」

「絵の仕掛けを忘れていたんですわ。だから図書館は安全だと思い込んでいました」


 なるほど、とベルドは一度納得した。


「図書館で殴られたのでしたね?」

「え、えぇ! 後ろから。痛かったですわ」

「誰に殴られたと思っていますか?」

「わ、分かりません。アップラー様かしら。グラヘン様とアップラー様は私をめぐって、よく喧嘩をなさってましたから」


 声に自慢が滲み出てるよ……!私っていい女だから感出さなくていいのよ、ここで。

 ベルドの方は変わりない。絶対零度だ。


「アップラーさんではありませんね。グラヘンさんが落ちてきてから、私たちが地上に上がった時にアップラーさんは応接室にいましたよ」

「走ったんじゃないかしら? あのエレベーターは上がり切って人が落ちるまで時間がかかると聞いていますわ」


 図書室の仕掛けのこと、しっかり覚えてるじゃん。


「アップラーさんはアメリーナさんとお茶を飲んでいたそうですよ。アメリーナさんも認めています。それに彼、あなたがどこを殴られたかすら知りませんよ。『額に痕が残ったら』と言っていたじゃないですか。自分で後ろから殴ったのに、前も後ろも分かりませんか?」


 あぁ、そうだそうだ。君の綺麗な額に跡が残ったらって言われてたなぁ。あの時、ステラ嬢は大袈裟に包帯を巻いていた。どこに怪我したか分からなかったんだろう。額だと思い込んだんだろうね。


「じゃあ……、侵入者がいたのではありません?」

「では侵入者がいたとして、あなたを殴ったとしましょう。その後、グラヘンさんを落として何の得があるのです。そもそもあの仕掛けは自発的に中に入らないと難しいものですよ」


 確かに。中に押し込もうと思ったら、それこそ縛り上げて押し込まないといけないだろう。騒ぎを起こさずに男性一人を押し込むのは難しすぎる。


「では……、グラヘン……様」

「そうですね。では何故、グラヘンさんはあなたを殴る必要があったんでしょうね」

「それは……分かりません」

「どうして彼は絵の仕掛けを見つけたんでしょうね。あの仕掛けは絵を動かさないと分かりません。ただ見る分にはただの絵です。何かを探した者だけ、見つけるものです」


 あー。黙っちゃった。


「試しましたね? あなたは私の彼氏だから特別に教えてあげるとでも言って。あの絵の後ろには仕掛けがあって、エレベーターはブルーダイヤモンドを隠している部屋に繋がっているのだ、と嘘をついた。彼がどんな反応をするかを試したんです」


 グラヘンに忠誠心があるなら、本当に愛があるなら、彼は仕掛けに触らない……。ブルーダイヤより私でしょ?そうなんだ、で終わり。ブルーダイヤを盗ったりしないわよね?

 でもグラヘンはその場で行動を起こした。ステラ嬢を殴り、エレベーターに乗った。


 それはステラ嬢にとって、屈辱的だっただろう。彼女はブルーダイヤに負けたのだ。


「この家では、欲をかく者は死んでしまう」

「そう、ですわね。どうして彼、私で満足してくださらなかったのかしら」


 ま、そういう男だったとしか言いようがないよね。そもそもステラ嬢のお家はお金持ちみたいだから、そっち目当てだったんだろうね、としか。


 ステラ嬢もさ。自分自慢ばっかだし、グラヘンのことちゃんと見てた?って感じはする。私に惚れてるでしょ、当たり前でしょって思ってたんじゃないかなぁ。だからこんな、裏切られるんだと思うんだけど。

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