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「宝石を持ってった人は、宝石箱に手が届かなかったらしい。その台を使ったようだ。クッションに乾いた血の跡が微かにある。生乾きの血を踏んだみたいな跡だ。あと台の裏、というか台の足だが、血の跡がある。指型のように見えるが」
わたしじゃなかった。わたしの乗ってるクッション付きの台だった。
「このクッションには何の意味があるのかしら?」
「猫がいるみたいだ、この家。だからそれは猫の寝床だろう。毛がシーツやクッションについてるから」
おぉ、思ってたよりやるじゃないか、ベルド。ただ不審な動きをしていただけではなかったらしい。
棚を調べた結果、他の宝石箱や鍵のかかる引き出しは全て、鍵がかかっていた。中に入っていたものは高価なものから、がらくたのようなものまで様々だったけれど、ベルドとマキヨ嬢の気を引くものはなかったようだ。
棚を元に戻し、ベルドは暖炉に目を向けた。おやと言って、暖炉の端に手を伸ばす。
「布がひっかかってた」
「何の布かしら」
「高級そうな布。……綿が少しくっついてる。あとは大量の紙を燃やしてあるな」
焼け残った紙をつまみ上げる。何も書いていない端の部分だったのかもしれない。
「あまり高くなさそうな紙」
ハンカチを取り出すと、そのかけらをつつみ、丁寧に畳んでポケットに仕舞った。
「あとはこの扉かな」
わたしが最初に見た扉。案の定、鍵がかかっていて開けてみると、そこは衣装部屋だった。ビッグサイズドレスがずらりと並ぶのは壮観だ。しかしベルドもマキヨ嬢も冷めた目でそれを眺めた。
「毎日の服選びは大変だっただろうな」
「管理も大変だと思うわ」
二人の感覚は案外と庶民的なようだ。
わたしは衣装部屋を出ると、死んでいるわたしの元へ戻った。鏡台に座るわたしを想像する。後ろから襲われたわたしは抵抗もなしに刺される。少なくとも後ろに立っていて腕を回してきても警戒しない相手だったんだろう。
わたしが右手側に落ちる。犯人はシーツを取る……いや、取っちゃいけないのか。枕元に行って……鍵か?でもまだ殺してもないのに、鍵を取る?いや、一撃で殺したと思ったのかもしれない。
だとしたら、わたしが逃げた方向がおかしい。犯人のいる方へ向かっていることになる。いくら人がいる可能性のある扉が近いからって、犯人側へ逃げるかな。
いや、死んだふりでもしておいて、棚を漁ってる間に隣への扉の方へ逃げたのか。そういうことかもしれない。とにかく、犯人は殺したと思って鍵を取る。
猫のおうちを足場に、棚の宝石箱を開けて宝石を盗む。後ろを振り返ったら、わたしがまだ生きていたのでシーツを取り滅多刺しにする。
で?鍵を戻して、凶器と宝石を持って逃げるけど、どうやって密室にする?ブローチは半開きのクローゼットにあった。隣との扉からは近いけれど、何かトリックがあるのだろうか。それこそ紐とか針とか使うような。
もしくは開いた窓から?それなら鍵束からは近い。でも鍵をサイドチェストに戻すのは……。ここは二階か三階かのようだし。
「凶器がどこにあるだろうな。とりあえず、全員に話を聞いてみようか」
ベルドの声に現実に戻る。
凶器ねぇ。隠されたりしたら難しくなるんじゃない?今は全員居間にいるらしいけど、証拠隠滅されたら……。
はっとわたしは顔を上げた。そうじゃん、わたし幽霊じゃん!幽霊ならどこだって行き放題だよね?誰の部屋だって無断で入ったって分からないんだし、鍵がかかっていようと入れるんだから、証拠探しにめちゃくちゃ適任じゃない?
そうなれば!とりあえず隣の部屋から!
わたしは隣への扉に向かう。扉をすり抜けようとしたその時だ。
とてつもない衝撃が、わたしを襲った。




