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3 —10

 ちょっと居酒屋風のレストランで、三人は静かに食事をしていた。

 そう、三人は静かだった。

 周りが騒がしい。フォークがお皿に当たる音、威勢のいい店員さんの声、陶器のビアマグ……っていうらしいけど、要するにビールジョッキで乾杯する人々。うん、酔っ払いが多数いるね。かなり酔っ払っているらしく、声も大きい。


「なぁ! 聞いたかい! またあの呪いの館で人死にだってよぉ!」

「まぁたかぁ! 何人死ぬんだ、あの館は」


 そりゃ、警官が慣れるくらい死ぬんだもんねぇ。そういう反応になるか。


「あの館は昔っからぁ! 人が死にすぎだろう。最初はなんだ、奥様だったかぁ?」


 奥様、っていうと、リーリアさんか?


「リーリア様でしょうね」


 レイストがぼそりと呟く。


「違う違う、その前から何人か出てただろう? あー、えっとぉ、商人とかもいたっけなぁ?」

「怖いねぇ、とっつぶしちまえばいいのによぉ」

「それがさぁ、孫が来てるらしいよぉ。綺麗なご令嬢だってさぁ」


 女性の高い声に、男性たちの声がおぉと湧き上がる。


「聞いた聞いた。えっらく綺麗なねーちゃんらしいなぁ」

「あれかぁ、週一で会いに行ってたやつか?」

「そうそう! あの呪いの館はそのお孫ちゃんのもんだってさぁ。男連れて来たらしいよぉ?」


 その男が死んだんだけどね。そこまでは噂になっていないらしい。


「嫌だねぇ、都会の小娘なんざ、こちらの生活は合わないだろうに」

「遺産さ遺産! 売っぱらうんだろ? 業者が来てたってよぉ」

「次は業者が死ぬんじゃないかぁ?」


 ぎゃはははと笑う声が響いた。


「行きましょうか」


 食事を終えていた三人は立ち上がる。もちろんわたしも連れて。


 さっきの騒がしさは幻だったように、外は静かだ。夜道を歩きながら、レイストはベルドに尋ねた。


「で、ステラ嬢はなんて?」

「図書室で後ろから殴られた」

「それだけかい?」

「そう、それだけだ。あとは一人だとまた襲われるかもしれないと言って離さない。襲われた直後だから仕方ないだろうと思ってたらトピさんが来て、お役御免だと思ったらグラヘンが亡くなって辛いからいてほしいとゴネて、その後はずーっと自分語りと己の美しさ自慢だった」

「うぜぇ」

「……リル、聞こえてるわ」


 おや、ずっと元気がなかったマキヨ嬢が少し笑った。これはいい。


「俺もそう思う」

「ベルド」

「あんなに一緒にいたくないと思った女性は初めて……いや、二人目だな」


 めっちゃ嫌ってんじゃーん。珍しー。


 マキヨ嬢は歩調を緩めた。ゆっくりと足を止める。


「あの、ベルド」

「なんだ」


 マキヨ嬢はベルドを見上げて言い淀む。ベルドは、眉間に皺を寄せて黙り込む彼女の、耳元の後れ毛を指で揺らした。


「どうした」


 その声の優しいこと!よくそれで好きにならないようにしてると言ったね、君は!ガッツリ特別だと思うよォ?

 ぱ、とマキヨ嬢はベルドの指を掴む。


「くすぐったい、わ」

「そりゃあ悪かった」

「い、嫌じゃないわ」

「なら良かった」


 マキヨ嬢の手を握り、ベルドは上着のポケットに手を突っ込んで歩き出す。恋人じゃん、もう。いいぞ、もっとやれ!


 恥ずかしそうに少々顔を赤らめながら、でもマキヨ嬢は躊躇いながら言う。


「あの、あの……お話したいことがあるの。他愛もないことなんだけど」

「聞こう」

「宿に戻ってから。レイストさんも、聞いてくれますか」


 前を行くレイストがちらりと振り返って笑った。


「私もいいんですか? いいんですよ、私抜きでイチャイチャしてくださっても」


 揶揄う口調にマキヨ嬢が耳まで赤くする。何か投げつけられないかと考えたのか、手元にあるわたしを見た。


「イイヨー」

「……ダメよ。リルは大事だわ」

「マキヨ嬢、だぁーいーすきぃ」

「マキヨ君、二股はいただけない」

「でも片方は選べないもの」


 その時だ。少年が駆け寄って来て、ベルドさんですかと尋ねた。ベルドが応じると、少年はベルドに紙を渡した。ベルドが呆れたような、そういう雰囲気で眉を上げる。


「これもいただけない。レイスト、紙とペンを貸してくれ」


 ベルドはさらさらと何かを書く。少年にコインと一緒に紙を渡した。


「君の依頼主に届けてくれるかい」


 いいよと少年は快く引き受けてくれた。走り出す。


「何の連絡ですか」


 レイストの問いかけにベルドは紙切れを渡した。思わずという風に鼻で笑うレイスト。不愉快そうな響きがある。


「なんて書いてあるの?」

「……君たちには早い単語だな」

「えっ! えっちなことが書いてあったの?」

「リル!」


 小声なのによく聞こえてますこと。ベルドが苦笑する。


「昼間よりは直接的なやつだな。ステラ嬢からだ」

「君たち向けに要約すると、寂しくて眠れないし怖いから来てほしい、でしょうかね」


 マキヨ嬢が俯く。


「で、なんて返したんだい?」

「レイストに雇われて護衛してるので、依頼主を放って出かけるわけにはいかない。寂しくて眠れないについては愛する妻がいるのでお断りする」

「すげないお断りで」

「親しくもない相手にそういうことを言ってくる方がどうかしてる」


 歩き出すベルドに手を引かれて、マキヨ嬢も歩き出す。ちょっと嬉しそうな顔をしてるのは。


「愛する妻って、ちょっと素敵ね」


 マキヨ嬢はわたしに囁いた。君のことなんだけどなぁ。先は長い。

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