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「いつも通りですね」
髭を生やした警官は太鼓判を押した。周りの警官たちも手慣れたものだ。遺体を引き上げていく。
「いつも通りでなかったステラ嬢の方ですが」
カーラーが警察を呼びに行き、何事かと応接室から出て来たアップラー。アメリーナと料理人が別の地下への階段から上がって来た。なるほど、ゴミ置き場への階段はゴミ置き場にしかつながっていなかった。死体を回収するための階段だから、日常生活で使う階段とは一緒にできないのだろう。
警備員さん、トピさんだっけ?彼が騒ぎを聞きつけたらしく、慌てて走ってきた。彼は外にいたようだ。
死体になっているグラヘン以外に見当たらなかったのはステラ嬢だ。アメリーナとベルドが図書室に向かった。そして、アメリーナだけが戻って来て、ステラ嬢が気絶しているので医者を呼んでくると慌てて出ていった。
アップラーがすっごく見に行きたそうな顔をしている。でも、ベルドの指示をアメリーナが伝えた。動かないで。
やがて警察が来て、医者が来ててんやわんやだ。
「誰かに殴られたようですが、命に別状はないそうですよ」
「そうですか。ではグラヘン殿はどうして落ちたのでしょう?」
レイストが尋ねる。警官は首を傾げた。
「さぁねぇ。ただ、この家でダストシュートに落ちるということは、何か家にとって悪いことを企んでいた、ということですので」
そういう解釈をするように言われているのだろう。いいのか、それで。
もしくは侵入者がいたのかもしれないよね。フツーに偽者のステラ嬢がいたし、トピさんは警備に熱心ではないんだからさー。
どっちにしろ、警察としてはいつもの事故死として処理するみたいだ。
マキヨ嬢はわたしを抱いてそわそわしている。ベルドが戻ってこないからだ。殴られたステラ嬢を発見してからずっと。マキヨ嬢は所在なげに廊下の壁際に立っていた。
おそらくはレイストも気付いているだろう。マキヨ嬢に声を掛ける。
「ベルドを探しに行きましょう。もしかしたら捜査しているのかもしれませんね」
マキヨ嬢の不安そうなことといったら。責任とってもらわないとねぇ。
まずはアメリーナに連れていってもらったのは図書室。誰もいない。特に変わったところはない。
アメリーナはことんと首を傾げた。
「応接室ではアップラー様がお話を聞かれているはずですわ。そちらでしょうか」
応接室を覗く。確かにアップラーが警官に話を聞かれている。ここにもベルドの姿はない。
「あ、ちょうどいい、アメリーナ」
アップラーに話しかけられて、アメリーナは手短にお願いしますと言った。はっきりしてるなぁ。
アップラーもそう思ったのだろう。苦笑いで尋ねる。
「僕がここにいたのを、アメリーナは見てるよね」
「はい。お茶の用意をしたのは私ですから。少しお話して一杯だけお茶を一緒にいただきました。その後、キッチンへ戻ってすぐに、グラヘン様が落ちたとカーラーが」
「ではここにいたのだな」
警官がメモを取ってる。一応、取り調べはするらしい。
失礼しますとアメリーナは扉を閉めた。そしてレイストに失礼しましたと謝る。
「いえ、構いませんよ。申し訳ないのですが、一通り案内してくださいますか」
「えぇ、もちろんですとも」
一階を見て回る。いなかった。
二階へ向かう。いない。
となると。
「三階は客室や私室になります。お嬢様の部屋を覗いてみましょうか」
いないと思うと言外に滲ませて、アメリーナはステラ嬢の部屋へ向かう。おや、女性の笑い声が聞こえた。
扉の開いた部屋。アメリーナがノックを響かせる。はぁい、どうぞと明るい声が応じた。
部屋にはトピさんがいて、ベッド横の椅子にはベルドが。頭に包帯を巻いたステラ嬢がベッドに座っている。
べ・る・どぉぉー!
と思ったんだけど。
「レイスト、マキヨ君」
心底よかったって顔をしたから、多分嫌々引き止められてたんだな、これ。
「あ、レイスト様。ベルド様からお話は聞きましたわ。借用書が出てきたとか」
これですとレイストが書類を渡す。ステラ嬢が目を通している。
「まぁ! すごい金額ですわね!」
彼氏死んだのに明るくなーい?もしかして書斎か寝室から突き落としたんじゃなかろうな。
あぁ、でもそうか。彼女は図書室で見つかってるから、二階の書斎か三階の寝室でグラヘンを突き落としたあと、図書室へと走って行って殴られないといけないのか。
グラヘンが落ちてきて、わたしたちが一階に上がった時、そう時間は経っていなかった。あの時点で姿が見えなかったのはステラ嬢だけ。ステラ嬢が誰にも見つからないように図書室へ行くことは難しい気がする。すんごい走らないといけないだろうし。
その上、殴られることも難しい。アメリーナが共犯だったとしても、最終的に二人きりになったのはベルドだ。部外者がいたなら話は別だけど。
「ステラ。具合はどうだい?」
アップラーが顔を出した。ステラ嬢はにっこり笑った。
「大丈夫よ。少したんこぶができただけ」
「いや、それは大変だ。君の美しい額に痕が残ったらいけない」
「本当に大丈夫よ」
いつの間にかベルドはマキヨ嬢の隣に立っていた。レイストがうんざりした表情を隠して口を挟む。
「我々は今日はこれで。明日、また伺います」
「ごめんなさい、レイスト様。この家、泊まるところがなくて」
「いいえ、お気になさらず。我々は近くの宿に部屋を取っていますから」
泊まれませんよって最初来た時に言われたもんね。見たらすぐ分かったけど。
カーラーに見送られて館を出る。夏の終わりの夕焼けと冷めた青空が混じりあって広がっていた。




