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「中に入っても?」
「入るのかい? ベルド。何もないよ」
レイストは嫌そう。ちょっと潔癖っぽいし、死体ばっかり出るゴミ置き場とか嫌だろう。
「真ん中には寄らないさ。何が落ちてくるか分からない。マキヨ君、君も穴の下には立つなよ」
「わ、分かったわ。壁際にいるわ」
「入った瞬間に天井が落ちてくるとかないだろうね?」
「しっかりした天井だから落ちないよ」
ベルドは中途半端な位置に設置された裸電球を眺め、まずは右端へ歩いていく。仄暗い部屋の隅の床に手をついた。
「これかな」
ひょいと四角い床を持ち上げる。下からは金属の箱が出て来た。同じ正方形の箱だ。中を開けると紙が出てくる。レイストに渡された紙は古そうだ。
「これはこれは……。ガレンジ家がディース・キリアメント殿から金を借りたと書いてある。莫大な金額だね」
「こっちは返した金の明細だろうな」
「うん、そうだ。まだ全然返って来てないな。ディース殿が亡くなった以上、ガレンジ家としては、あわよくば借金をなかったことにしたいんだろう。前々から忍び込んでいたのはこれ目当てか?」
「もしくは他にも何かあるのかもしれない」
あ、とカーラーが声を上げる。
「もしかして奥様の宝石でしょうか。希少なブルーダイヤモンドです。旦那様がお持ちなのは有名な話です」
「あぁ、そういう話を聞いたことがありますねぇ。今もお持ちなのですか」
「はい。奥様のものは全て大事に旦那様が保管を」
「じゃあ、借用書を盗むついでに宝石も持って帰れば大いに利益になるね。商人としては盗品はアウトだと私は思うけれど、ガレンジ氏は気にしない、というか、今は力も金もあるからなんとかなると思ってるのかもしれない」
しかしとレイストは笑った。
「こんなところに隠してあるとはね。あれほど本があるのだから、本の中に隠せばいいものを」
「最初は本の中に隠すことを考えたかもしれないけど、今は一番ここが安全だったんだろう。死体が見つかるゴミ置き場として有名だろ、ここは」
「あぁ、そうか。ガレンジ氏にも侵入者は地下室で必ず死ぬというのは伝わるのか」
「そう。むしろこの部屋は侵入者には危ない。だってみんなここで死んでるのが発見されるんだからな。近寄らない方が無難だし、そもそもこんなところにあると思ってないから近寄らない。書斎や寝室を調べる方が普通だ」
で、ひっかかっちゃうんだなぁ。
「しかし死体が見つかれば警察が調べるんじゃないのかい? 今まで見つからなかったのは何故だろうね」
「警察にとっても『いつものこと』だからさ。侵入者は地下室で死ぬ。いつも同じようにみんな死んでいる。侵入者に仕掛けを知られたら困るから説明まではしないだろう。けど、うっかりダストシュートに飛び込んで死ぬ侵入者というのは同じ。死に方も高いところから落ちていて、みんなそれも同じ。部屋はこれだけ物が無いのに探すものもない」
確かにこの部屋、何もないのが一目瞭然だ。わざわざ床や壁を剥がそうなんて思わないだろう。
「何より調べても名前すらよく分からない人物の死体と、地元の名士のディースさんの言い分、どちらを信じると言ったらディースさんになってくるだろう。ディースさんには彼らをわざわざ殺したくて殺す理由はない」
「勝手に入ってきて、勝手に死んでるということだからか」
しかしよく疑われないものだ。若手の警官が正義に駆られて調べ出したらどうするのだろうか。
「警察内部では口の堅い担当がいるんだろうさ。情報共有がされていて、ディースさんが殺していないことはみんな知ってるんだろう」
わたしが考えたことが聞こえたように言って、ベルドは箱から書類を全部出してしまうと、中身をレイストに預けた。レイストは持っていた鞄に仕舞う。ベルドは床を戻している。
「ディース殿の、信用できる人に探してもらいなさいというのは、ステラ嬢にはこんなところに入らなくていいということかな」
「そうだろう。あの感じだと寄り付きもしないだろうから」
あれ。ベルドにしてはわりと辛口だな。ベルドは女性には基本興味なさそうで、分け隔てなく優しいのがいつもの感じだ。興味ないから特にコメントすることはないように思ってたんだけど。
おそらくはレイストも引っかかったのだろう。視線を上げた時だった。
わぁーと叫ぶ声が聞こえた。どんという鈍い音がして、マキヨ嬢が身をすくめた。音がした方に身体を向ける。
突如現れたうつ伏せの死体は、グラヘンの格好をしていた。




