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とりあえず書斎と寝室は何もないだろうことが確定している。だから、行くなら他の場所だ。
どこから行こうと話をしていると、ステラ嬢とお付きの護衛のお兄さん……グラヘンとか言ったかな。二人の声がホールの方から聞こえた。なんか揉めてる?
どうせ許可を取らないといけないからと、レイストがホールの方へ向かう。ステラ嬢とグラヘンと、知らない男性が一人。執事さんが困った雰囲気を醸している。もしかして修羅場か?グラヘンがステラ嬢の前に出て庇うようにしているから、よくない人なのだろうか。
ステラ嬢はわたしたちに気付いて、取り繕うように笑顔を浮かべた。
「レイスト様、ベルド様、マキヨ様も」
「どうかされたのですか?」
「幼馴染みのアップラー様が、私を心配して来てくださったのです」
アップラーという人が、こんにちはと人のいい笑みを浮かべて挨拶した。なんだ、友達か。
と思ったら、グラヘンが噛み付くように口を開いた。
「お嬢様、もうよろしいでしょう。参りましょう」
「あ、あ、そうですね。アップラー様、ごゆっくり。カーラー、アップラー様をお願いね。私たちは図書室へ参りますから」
承知しましたと執事のカーラーが頭を下げる。グラヘンに連行されるようにステラ嬢は立ち去った。
アップラーは困ったような顔でわたしたちを見る。
「ええと、あなた方は業者の方ですか?」
「はい。私はレイストと申します。彼らは私の護衛兼助手です」
レイストが軽くベルドたちを紹介する。会釈を返しながら、アップラーはベルドを見た。
「もしかして、あの死神探偵ですか? ベルド・カンパネルラ殿?」
あ、知ってるんだねぇ。最近気付いたけど、死神探偵って都会でしか知られてないみたいなんだよね。この間のど田舎のヘイリオン領、あそこでは門のところで名前を記入したけど、別に騒ぎにならなかった。
ということは、この幼馴染みは都会の人なんだね。この大きなお家はどっちかっていうと田舎のお家だから、ステラ嬢も都会から来たんだな。その割には、レイストがさらっと自己紹介した時に何も反応がなかったけれど。
ベルドはそうですと応じた。そう言うしかないわな。事実だし。
「今日は探偵としては呼ばれていませんが」
「しかし探し物をしているのではないのですか?」
ある程度、状況を知っているらしい。
これにはレイストが答えた。
「そうです。ですが、どちらかというと助手ですね」
現状、何も探してないしねぇ。
そうですかと言いながら、何故か不満そうなアップラー。なんだろう?探してないから?
カーラーがアップラーに、どうぞこちらへと勧めたので、話はここまでになった。アメリーナが颯爽と寄って来てくれて、アップラーを案内していく。
残ったわたしたちにカーラーは尋ねた。
「皆様はどちらへ?」
「……図書室は邪魔をしたら悪いですし、他にしましょうか。どの部屋を見せてもらいましょう」
「じゃあゴミ置き場の部屋がいい」
おや、ベルドにしては悪趣味な部屋を選んだものだ。
「君が言うからには何かあるんだろうね。では、よろしいですか」
私も参りましょうとカーラーがついて来てくれる。地下へと降りがてら、レイストはカーラーに話しかけた。
「先ほどのアップラーさんはカーラーさんも顔見知りですか」
「えぇ、幼い頃に何度か。今は立派な青年になられて……」
何故か戸惑い気味だ。レイストも気付いたらしい。
「先ほど何か?」
「それが、グラヘン様が何をしに来た、こんなところまでステラ様を追いかけて来てどういうつもりだ、と」
「ステラ嬢は心配して来てくれたのだとおっしゃってましたね」
「えぇ。ですがグラヘン様の言いようでは、まるでお嬢様をつけまわしているようでしたので。アップラー様はそんなつもりはないよと否定しておられましたが」
おやぁ、やっぱ修羅場?つまりグラヘンの主張では、アップラーはストーカーなんだな。アップラーはそんなつもりはないと。グラヘンが彼氏っぽかったから、心配する幼馴染みにマウント取りたいだけじゃないの?
でもステラ嬢も曖昧な態度だったからなぁ。どっちが悪いという風じゃなかったし。やきもち焼きな彼氏だから従うけど、幼馴染みとも仲良くしたいから、ってところ?はっきりしないから、ややこしいね。
しかし地下というのはなかなか不気味だ。でもこういうところで出くわす怖いのって、なんていうかなぁ。スプラッターなイメージの方が強い気がする。地下室ってそうそうないしねぇ。やっぱ窓ないし、驚かすにも暗いイメージがつきやすいんだろうなぁ。
こういう場はわたしはあまり好きじゃない。驚かせるのになんか気が進まないもん。そりゃさー、拷問器具みたいなの置いてりゃ雰囲気は出るよ。出るけど、そういうんじゃないんだよなぁ。
扉がギギィと鳴った。雰囲気あるぅ。怖くないけど。かちという音がして、淡い光が部屋を照らす。
部屋は結構広かった。壁も床も石造りだ。壁は煉瓦。床は正方形の石を並べてあるらしい。ワイン樽でも置けば似合いそうだけど、何もなくて、がらんとしている。中央に一枚だけ、黒いヴェールが落ちていた。
天井も石だけど、真ん中にポッカリ穴が空いている。ここから落ちてくるわけね。
部屋の作りに気を取られていたわたしは、突如現れたおじーちゃんにヒッと小さく声を上げてしまった。お、驚いてないし!別に!
「どうかしましたか、マキヨ様」
カーラーはマキヨ嬢が声を上げたのかと思ったようだ。マキヨ嬢もおそらくはおじーちゃんに気付いたのだろう。いつの間にか歩みを止めていた。
「あ、先ほどの男性が立っていましたので、驚いて」
「旦那様ですか? 旦那様がこちらに来ることは死体が出た時だけでしたが……」
おじーちゃんは中央付近で上を見上げている。ひどく複雑な顔をしていた。嬉しいような、悲しいような、笑ってるのに冷めきったような。何かあるのかな?




