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3 — 5

 本物のステラ嬢はお祖母さん譲りの美しさを持つ、それこそヴェール外したら好きになってしまいそうな美少女だった。ふわっとした白金の髪に冴えるような青い瞳、桜色の唇、小柄で守ってあげたくなるような、そんななりをしている。


 まぁ、ヴェールは外してるけどね。普通に。お祖父さんからの言いつけは特になかったらしい。


 護衛と共に保護され、出直しましょうかと申し出たレイストをステラ嬢は慌てて引き留めた。私は暇ではない、を誰かが教えたのかもしれない。あれは半分くらいしかレイストの本心ではなかったと思うのだけど。

 軽く自己紹介をしたレイストに、ステラ嬢は頭を下げた。


「助けてくださって、ありがとうございました」

「助けたのは警察ですね」

「位置を聞き出してくださったのはレイスト様だとカーラーから……執事から聞きました。ありがとうございました、本当に」

「……どういたしまして」


 レイストは少々面倒になってるなぁ。思った以上に本がありすぎて嫌になった上にこの騒ぎだからだろうなぁ。


「お祖父様のことをお聞きしても?」


 ステラ嬢が少し涙ぐむ。後ろに立たせていた護衛の青年をちらっと振り返り、少し見上げた。おや、これは恋仲かな?


「素敵なお祖父様でした。毎週私に会いに来てくれていました。花やお菓子をお土産にして。父と母とも仲が良かったので、みんな喜んでいて……亡くなってしまうなんて」


 幽霊のおじーちゃんがあわあわしてる。このおじーちゃんが亡くなったお祖父様なんだね、やっぱり。


「私にはこの館をとおっしゃったのですけど、この館よりもお祖父様が生きていてくれる方がどれほど良かったか。会いに来てくださるお祖父様が、私大好きで」


 あぁー、泣いちゃった。おじいちゃん子だったんだね。

 泣き出したステラ嬢にレイストが途方に暮れる気配がする。ベルドが無表情でマキヨ嬢に視線を向けた。


「マキヨ君、何か見えてる?」


 マキヨ嬢は何故かたじろいだ。あの、と言いかけた時、涙をハンカチで拭いながら顔を上げたステラ嬢と目が合った。マキヨ嬢は凍りついた。わたしを持つ手に緊張が走る。どうした?

 こっそり手で指を撫でる。マキヨ嬢は思い出したようにわたしを見て、失礼しましたと口にした。


「白い髭の男性が。大柄な方で……、青い瞳の」

「きっとお祖父様だわ」


 ステラ嬢は無理やりのように笑った。目からはまだ涙がこぼれ落ちる。

 マキヨ嬢は座り直す。そしてステラ嬢を真っ直ぐに見た。


「あなたが泣いているので心配されています」

「あら、本当に? じゃあ、泣くのは、やめないといけないわ。分かっているんですけど、どうしても心が乱れてしまって」


 彼女は一生懸命涙を拭い、お茶を一口飲んだ。一つ深呼吸をする。


「私がこの館に来ていた子供の頃は、とにかく『書斎に入っちゃいけないよ』って。あとは寝室ですね」

「何かあるからじゃなくて、危ないからのようですね」

「えぇ、そうなんですの。危険だからって。お祖父様らしいですわ。危ない場所からはすぐに遠ざけてくださるんだもの。誘拐されそうになった時も、すごい勢いで走っていらしたわ。私は誘拐されそうになったことよりも、お祖父様のすごいお顔が面白くて笑ってしまって」


 おじーちゃんは腕を組んで、うんうんと頷いている。どことなく得意げだ。


「そういえばその頃は、ここまで本が溢れていることはなかった覚えがあります。図書室はご覧になりました?」

「我々はまだ、書斎しか」

「そうでしたの。図書室は怒られませんでしたから、きっと安全かと思います。壮観でしたわ。今も変わりなければいいのですけど」


 では後ほど拝見させていただきましょうとレイストが応じる。ちょっとやる気が出たのは、何かいいものでもありそうと思ったんじゃないかな。

 他には、とステラ嬢は目を瞬かせた。


「お祖父様がこの館を譲ってくださるという話をした時ですけれど。宝物があるから信用できる人に探してもらいなさい、とおっしゃって。私はその時、そんな話はしたくないと駄々をこねてしまいました」


 また泣きそうになって、ステラ嬢はそっと目元を押さえた。そしてちょっと笑う。


「私、すごく鈍くさいんです。運動はダメだし、勉強もそこそこですもの。背も小さいし。お祖父様もご存じでしたから、そういう風におっしゃったのかも」


 おじーちゃん、めっちゃ首振ってるよー?人間扇風機じゃん。


「それは違うんじゃないですか。あなたが探すまでもない、誰かに探させてしまいなさいという意味では」


 今度はめっちゃ頷いてる。要するに、お前は可愛いんだから、そんなことはせんでええ、下々にやらせておけというところだろう。祖父バカじゃん。

 頷いていますねとマキヨ嬢がレイストの言葉を補強する。ステラ嬢は口元を隠して微笑んだ。


「もう、お祖父様ったら。でも私も探そうと思います」

「いや、休んだ方がいいですよ」


 ベルドが口を挟んだ。


「監禁されかけたわけですからね。少しゆっくりなさった方がよろしいでしょう。護衛の方も」


 ま、その方がいいね。ショックだろうし。


「我々はその間、お祖父様の宝物とやらを探しますよ。これだけ本があれば本なのかもしれませんね。もしくは紙」


 その場合はゾッとするなぁ……。全部調べることになりそうで。


「もちろん、勝手に持ち出したりすることはしません。ご心配なら執事さんについてきてもらいますが」

「あ、いいえ。今のところ本しか見当たりませんし……。本の二、三冊であれば持って行ってもらっても」

「それはダメです。こちらは目録を作りますので。どの辺を売るか売らないか、確認してもらうことになりますので、一冊でも持ち出すことは許しません」


 レイストってきっちりなんだなぁ、商人としても。カナリアの部屋の件で綺麗好きなのは分かってたけど。


「では我々はこれで。行きますよ」


 レイストが言うとお宝探しじゃないんだよなぁ、どう聞いても。鬼上司感というか。もしかして目録作りに行こうとしてない?


 わたしを抱いて立ち上がったマキヨ嬢は、同じように立ち上がったベルドに近づいた。するりと手を繋ぐ。ベルドは何気ない顔でその手を見て、優しく握り返した。あら、いい感じじゃない?


 そう思ってこっそり見上げたマキヨ嬢は、浮かない顔をしていた。

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