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「レイスト、他に館を買い上げると言って来たところはないか」
「あったなぁ。キリアメント家に直接交渉しにいってステラ嬢にと言われて、さらにステラ嬢に交渉して私に打診してくれと言われて、私のところへきた家が。ガレンジ家だな」
「豪商だな。今までの死体もそうなんだろうな」
ベルドは通路を指差す。
「これに引っかかったガレンジ家の密偵が死んでたんだろう」
ちょっとずつ中に侵入しているマキヨ嬢が遠巻きに中を覗き込む。長くて暗い通路だ。奥には明るい部屋みたいなものが見えている。窓のない部屋かなぁ。普通の通路に見えるけど、今落ちるって言ってたよね。
「入るなよ、マキヨ君」
「わ、分かったわ」
近寄ることは許してもらえるみたいだ。慎重に進んだマキヨ嬢は、そっと入り口に寄った。
「どういう仕掛けかしら」
「床は実質ない。薄い板で乗ると外れる」
ベルドは片足だけ通路の床に軽く乗せてみた。数秒後、バンというさっきの音がして、暗闇が口を開ける。
「気付かない間抜けは落ちる」
気付かない間抜け嬢は悔しそうに唇を噛んだ。警備員さんがいるからおとなしいけど。
「普通の密偵ならこれくらいは気付くだろう。こんないかにもな仕掛けをするあの奥の部屋には、何かあるに違いないと思うだろうな」
マキヨ嬢がそっと通路の内側の壁に触れた。
「滑るわ」
「そういう素材を使ってる。できるだけ凹凸のないもの。壁に張り付いて行くのは難しい。何か道具があれば別かもしれないが」
「たとえば」
レイストが言う。
「ものすごく吸引力のある道具があって、それで壁に張り付いて行ったらどうなるんだろう?」
ふむと唸って、ベルドはマキヨ嬢を見た。
「マキヨ君、こっちへおいで」
マキヨ嬢の嬉しそうなこと。呼ばれただけだけどね。
ベルドはマキヨ嬢を伴って、隠し扉の近くから離れた。数秒後、書棚はすすーと閉じた。
「どうやら扉周辺で重さを感知しなくなると勝手に閉まる仕組みらしい。中に閉じ込められるだろうな」
「だが部屋には到達するだろう?」
楽しそうにベルドは笑った。
「あれはよくできた絵だから、壁しかないよ。明かり取り窓は上にあるようだが、人が通れないものだろう」
「……そうだったのか」
トリックアートってやつかな、前世風に言うと。レイストは再び書棚を開けて中を見ている。
「言われてから見ても分からないね」
「横から見るとバレるかもしれないな。でも通路は暗いし、見る位置が決まっているんだから、そういう風にしか見えないようになってる。窓から入る光は自然光だから、夜はこちらから明かりをかざして見るしかない。実際通路は見ているよりは長くはないだろうが、明かりは届きにくくて見に行こうとしたら落ちる」
ふぅむとレイストは腕を組んだ。
「では床が抜けることを知った侵入者が、板を渡せばいいだろうと……。いや、これだけ離れているように見える通路では板を渡そうとも思わないのか」
「そうだな。ロープでも同じだ。届かない距離なら最初から投げない」
いい侵入者ホイホイだな。ということは。
「これに引っかかったらどこへ行くのかしら」
これには執事さんが答える。
「おそらく使っていないゴミ置き場に。唐突に死体が現れるので不思議に思っていたのですが」
落ちて来ていたのですねぇと感心している。普通に死体が現れることを受け入れちゃってるのが、侵入者の多さを物語っている。
「警備はお一人ですか。この広い館で警備が一人はお辛いのでは?」
警備員さんがえぇと頷いた。
「侵入される前に捕まえることもあるのですが……。旦那様が、入りたい奴には入らせてやれと」
一直線に書斎や寝室に入られたらどうしようもないのだろうけど、館の主人の方針が殺すつもりだなぁ……。いいのか?それで。
メイドのアメリーナが戻って来て、派出所に人がいなかったので、そこの電話から知らせてきましたと報告する。まだ少しかかりそうだ。
「では、どちらか一人くらい、落としてみますか」
レイストが言うと怖ぁ!笑顔で言わないでよぉ。
「道なりに探せば車にでも監禁してあるだろ。ここに来るまでの山の中とか」
間抜け嬢がだらだらと汗をかきながら視線を逸らした。当たりらしい。
しかし不本意そうにレイストが返す。
「見つけなきゃいけないだろう。私は暇ではないからね。この大量の書籍だけでも大変なのに、余計予定を狂わされているんだ。少々やり返したい気持ちがあるんだがねぇ」
間抜け嬢の前に座り、圧をかけている。
「どの辺かだけでも教えてもらえますか」
うん、可哀想!その近くで一生懸命縄抜けしようとして余計こんがらがってる護衛。こっちも可哀想!
結局数分後、間抜け嬢がレイストの圧に負けて位置を教えてくれた。ちょうど警官が来て間抜け嬢たちを連れて行くと同時に、本物を探してくれることになった。




