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最初に書斎に入ったのはベルドだ。ステラ嬢と護衛が続く。
「マキヨ君とレイストはそこにいてくれ」
えー!わたしたちは扉の外ってどういうこと?
後ろを見ると執事さんとメイドさん、そしてこの家の警備をしているという男性が立っている。
「あなた方は入りますか?」
レイストが尋ねる。いいえと執事さんは首を振った。
「旦那様からきつく言いつかっておりますので」
「普段から? 掃除とかはどうされてるんです?」
「旦那様がご自分でされておりました」
「私は扉の横までは許されておりましたので、そこにいますね」
警備員さんが一歩中に入り、扉の横に立つ。別に特別な服を着ているわけでもないし佩刀しているだけだから、傭兵とか護衛みたいにも見えるな。
ベルドはさっき座っていた椅子、立派な机の前の椅子を引いた。机の下に手を入れている。
すると、後ろの書棚がすすーと開いた。人一人分通れるような通路だ。ステラ嬢が中を覗き込んでいる。ここからじゃ先は見えない。
「すごぉい。入ってもいいかしら」
「ご勝手にどうぞ」
少々冷たい物言いだけど、ステラ嬢は気にしてない。さっさと入って行って……。
ガンという大きな音と共に途轍もない悲鳴が上がった。わっという護衛の声も聞こえる。警備員さんが駆け寄る。
そっと一歩中に入るマキヨ嬢。見えたのは、床に這いつくばってる護衛と暗い通路、そして護衛のお尻を足蹴にしているベルドだった。
「今の状況、分かるよな。どうしてこうなってるかも分かるはずだがどうする」
「助けてくれ!」
「あなた方が大人しくするというのなら助けてもいい」
「助けて! 助けて! 落ちるぅー!」
ステラ嬢の騒がしい金切り声に護衛が怒鳴りつける。
「黙ってろ、このクソ女!」
「は、早く引き上げてよぉ!」
「どうする? 俺は蹴ってもいいんだが」
護衛は慌てて、大人しくする、約束すると叫んだ。
「引き上げましょうか。トピさん、お願いします」
警備員さんが引き上げた護衛を床に押さえつける。執事さんが細い縄を持って来て、ベルドはヴェールを落としたらしい普通のステラ嬢を縛り上げる。
「やはり彼らは不審者か。ステラ嬢と護衛ではない」
レイストが横で呟く。あ、そうなんだぁ。気付いてたぁ?マキヨ嬢。
見上げると、彼女もわたしを見ていた。ふるふると首を横に振る。知らなかったらしい。
「いたぁい! もっと緩くしてくれないと」
甘えた声をベルドは無視して護衛の方もしっかり拘束した。不満そうなステラ嬢(仮)。何様のつもりなの、この人。あんた不審者でしょうが。
「アメリーナが警官を呼んでまいりますので」
「ではその間に。本物のステラ嬢はどちらに?」
レイストがにっこりと微笑んで言う。営業スマイルだけど、なんか怖い。
ステラ嬢(仮)は焦ったような顔をした。護衛をちらちら見ている。護衛はものすごく顔を顰めているけど。
「し、知らないわ。あたしが本当のステラだもの」
「本名おっしゃってみてください」
「は?」
「自分の名前くらい、言えますよね」
ステラ嬢(仮)は言えるわ!と強気で言い返した。
「ステラ……キ」
「もういいです、失格。正解はステラリス・リーリア・アリオス・ベルカント・ボー・キリアメントですね」
名前なっが!
「ステラ嬢自身は長いのでステラ・キリアメントと名乗ることが多いらしいのですが。ちなみに名前の後ろの言葉は、リーリアと家名以外は全部美しいでできてます」
「リーリアはどういう意味ですか?」
「ステラ嬢のお祖母様に当たる方ですね。大層お美しい方だったとか。あぁ、あの絵の方でしょうか」
そうでございますと執事さんが応じる。大きな絵に描かれた微笑む女性は確かに美人だ。
「それだけ可愛がられている孫なのに、最初に聞かれたお祖父様との思い出が怒られた話じゃ浮かばれないな」
「大方、強引にお宝のありかを聞き出そうとして、何か言われてないかとばかり尋ねたんだろうね」
「しかもその疎遠でもないお祖父様の特徴の一つすら答えられないとは」
「お宝のことしか考えてなかったから気にもしなかったんだろうね」
「何よりこの部屋が危険だとを聞いてないことがおかしい」
「興味本位で入られたら困るからね」
ベルドとレイストに追い討ちをかけられて、二人はしょんぼり俯いた。ベルドたちは全く気にしてないけど。




