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今日はレイストの依頼でこの館に来ている。とある富豪が住んでいたという館だ。相続人である孫が、レイストに館の『片付け』を依頼して来たのだという。
孫にとっての両親が健在なのに孫に相続というのはどういうことか、もしや遺産相続がこじれにこじれてバトルしているのではと思ったのだけど、どうやら違うらしい。富豪の最期の言葉が、この館と館の全てを孫に送るという言葉だったのだそうだ。富豪は孫を可愛がりに可愛がっていたことを両親も知っているので、その言葉通り、館は孫が好きにしていいということになったんだと。
孫は、子供の頃はこの館によく来たのだという。でも一度孫が誘拐されかけるという事件があって、それ以来、富豪は館に孫を呼ばなくなった。
その代わり、毎週、孫が両親と暮らす館を訪れるようになった。富豪がぽっくり亡くなるまで、つまりつい最近までそれが続いていた。富豪に関する家族関係はどうやら良かったらしい。
富豪が亡くなり葬儀も済んで、館にいる執事から館を見に来てほしいと要請が来たんだって。そりゃそうだよね。旦那様が亡くなった状態だもんね。次の主人になるのは孫だ。館にいる人も含め、どうするのかという問題がある。
ただ館には不安要素があった。
この館、実は周辺では呪いの館と呼ばれていて、定期的に死人が出るんだって。しかも亡くなっているのは全員、館の人間に関わりのない、よく分からない人ばかり。男女比に差はなく、死因はどうやら頭や身体を強く打っているっぽい。
でも最終的には事件性はないとされているようだ。警察の偉い人にでもコネがあるんだろうか。
しかしあまりに死人が出るので近くに派出所、日本でいう交番か?そういうのが作られたんだってさ。今でも見回りに来るというから、今でも起こるかもと思われてるんだね。
子供の頃に誘拐されたこともあり、その辺も物騒だから、孫が自前の護衛を伴ってこの館に来るのはいい。でも孫には館にあるものの価値が分からない。なので、商人であるレイストに鑑定等々してもらおう、というところのようだ。
で、どうしてベルドとマキヨ嬢、わたしがここにいるのかというと、レイストに頼まれて来てる。呪いの館と呼ばれるくらいだから、何かしらあってもおかしくない。呪いは専門でしょうとわたしを見ながら言われてしまった。もちろん抗議した。誰が呪いの人形だ。
だから今回のわたしたちのお仕事は、……呪いが発動しないように、すること?レイストが安全に帰れるようにすることかな。
ということで、お嬢様とは館で待ち合わせしてたってわけね。
わたしたちの方が早く着いて書斎を見てたけど、まぁーすごい。応接室から娯楽室から書斎から、もう溢れんばかりに本、本、本。本棚に収まりきらずに増設したらしい前世で言うスチールラック風の棚に本を押し込み、さらに入りきらなかった分は積み上げて本の山がもう。がっしりした館の外見だったけど、本で底が抜けないようにするためだと言われたら納得する。
本に囲まれた応接室で、孫であるお嬢様、黒いヴェールを取らないままのステラ嬢はしょんぼりと向かいのソファに座っている。ヴェールを取らないのはお祖父様の言いつけらしい。可愛すぎるから男性の前ではかぶっておくように。祖父バカなのか過保護なのか。いずれにしろ顔は見えないから分からない。声は可愛いけどねぇ。
「お祖父様に怒られたことがございますわ。『書斎に入るな』『寝室に入るな』って怒られましたの」
お祖父さんとの思い出はと聞かれて、ステラ嬢は答えた。レイストがほうと唸る。
「何か大事なものでもあるのでしょうか」
「そうだと思います。あたくしは入ったことございませんので、分かりませんけど」
探してくださいます?と彼女は首を傾げた。後ろに控える護衛の大男は無表情だ。なんか妙にシュールな絵面ではある。
そう、それだけでもなんかシュールなのに、大きなおじーちゃんがその隣に座っているから余計にシュールだ。しかもめちゃくちゃステラ嬢を睨みつけている。ベルドとレイストには見えてないけど、わたしたちには見えちゃってる。
これは一体、どういう状況なのか。
「お祖父さんの写真とかお持ちですか?」
話が途切れたのをいいことに、マキヨ嬢が尋ねた。
「今日は持っておりませんけど」
「背の高い方でした?」
「えぇ、大柄でした」
まぁ、めっちゃ睨んでるおじーちゃんは大柄ではある。白い髭をたくわえていてダンディなおじさま感。
「他に特徴は」
「えぇっと……」
「マキヨ君」
ベルドが口を挟む。ちらっとベルドを見上げて見ると、どうやらその話は待ってくれと目で訴えたようだった。マキヨ嬢が口をつぐむ。
「先ほど二階の書斎で見た写真の方がそうなんだろう」
「……そうね」
「書斎、入られたんですか?」
ステラ嬢は興味津々に言う。えぇとベルドは頷いた。
「執事さんもメイドさんもあなた同様、入らないよう言われているそうなので、何かあるのかなと」
「そうなんですの? 何か見つかりまして?」
「はい。隠し扉が」
そんなのあった?わたしたちがレイストを驚かせている間、ベルドは全然動いてなかったけど。
まぁとステラ嬢は嬉しそうに手を合わせた。
「きっと何かあるんですわ。参りましょう!」
ノリノリだなぁ、ステラ嬢。ちょっと不謹慎じゃない?お祖父ちゃん死んだばっかでしょうが。遺産目当てで甘えてたんじゃなかろうな。
「鍵を返してしまいましたから、借りてまいります。少々ここでお待ちください」
ベルドは颯爽と立ち上がる。そっと控えていた執事さんが慌てて寄って来た。二人で行こうということになったらしく、連れ立って出て行く。
ところで、とレイストが切り出した。
「手紙には本を全て売り払いたいと書いてありましたが、それでよろしいんですか?」
「えぇ。あたくし、読みませんもの」
「さようですか」
「今の方はレイスト様のお知り合いの方でしたよね。どういった方?」
「探し物の得意なただの友人ですよ」
ステラ嬢はベルドが出て行った扉に顔を向ける。
「素敵な方ねぇ。ああしてテキパキ動いてくださる方って好きなの。平民なのでしょう?」
マキヨ嬢がむっとしたのが分かった。同担拒否ですね、分かります。
……それはともかく、平民でしょってちょっと失礼だよね。わたしはそういうのがなかった世界から来てるから偏見ないし、今まで会った人の中でそういうこと言う人いなかったから気にしなかったけど。そういう階級的なのあるの?
「後でお茶でも誘ってみようかしら。身分違いの恋って燃えるでしょ?」
オォイ!コラ、誰に言ってんだオラァ!マキヨ嬢、言ってやれ!私、妻ですけど?って言ってやれ!むぎゅうとわたしの手を握りつぶす暇があったら言ってやれ!
「彼はマキヨさんの夫ですよ」
レイストが言ってくれて、そうなんですのとステラ嬢は気が抜けた声を出した。マキヨ嬢を見て鼻で笑う。
「だったら言ってくださればよろしいのに。でも、障害は大きいほうが楽しいですわよね」
なんだとこの……!感じ悪っ!
わたしが心の中で罵詈雑言を自重したところで扉が開いた。
「行きましょう」
マキヨ嬢が憤然と立ち上がった。




