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3 — 1

「わたし、リル。今、あなたの後ろにいるの」

「怖くありませんよ」


 本棚の前にいるレイストが振り返る。そこには誰もいない……。


「いないじゃないですか」


 そう言って、顔を戻した時だ。


「ばぁ!」

「うっ!」


 本と本の間から身を乗り出して目の前に現れたわたしに、レイストは後ずさった。わーい、騙されてやんの!

 レイストのスーツに飛び移り足を滑り降り、てってけ走り出す。本棚の裏側にいたマキヨ嬢が迎えに来た。わたしを抱き上げる。


「楽しかった?」

「うん!」


 レイストって驚き方が新鮮でねぇ。驚かしがいがあるんだよねぇ。

 仕掛けられた本人は呆れた表情を浮かべている。


「マキヨさん、リルに甘くないですか?」

「あら、全然? この程度、リルのいたずらにしては可愛いものですもの」


 マキヨ嬢は陰から覗いてるタイプの、ベルドはいつの間にかいる系のいたずらが一番驚いてくれる。最近は慣れちゃったけどね。


「引き出しを開けた時にリルが出て来た時の衝撃に比べたら」


 最初はあの黒いテカテカしてカサカサする虫を見つけたみたいな悲鳴を上げられてしまった。わたしは微動だにしなかったのに。ベルドが何事かと走って来て、マキヨ嬢にすんごい怒られた。


 ちなみに二人にいたずらをして見つかると、一定時間拘束される。

 マキヨ嬢の場合はしばらく抱っこされる。離してもらえないけど、ずっと抱っこしてもらえるという意味ではちょっと幸せだったりする。

 ベルドの場合は目の届くところにいろと注意される。この間は目の届くところならどこでもいいよねと、仕事してるベルドの左腕に乗っかっていたら、書類仕事を手伝わされた。それはそれで楽しかった。


 レイストは今のところ、いたずらしても何もないからやりたい放題できる。


「大体、今のどこから出て来たんです。ここにあった本は?」

「裏からマキヨ嬢に抜いてもらった」


 本棚と言ってもスチールラックみたいなのに本を並べてあるから、簡単に裏から抜けるのだ。抜いてとジェスチャーすると、彼女にしては悪い笑みを浮かべて、裏の本を退け、わたしの声に合わせてレイスト側の本を退けられるように待機していた。


「私が振り返ったと同時に本をそっちから抜いて、リルが顔を出していたというわけですが。上手に抜きましたね」

「リルの幅は任せて」


 これは、とレイストが呟く。さっきから椅子に座って動かないベルドを見た。


「君も苦労するね」


 おや、最近のマキヨ嬢との連携プレーがバレてしまった。マキヨ嬢に引き出しを開けてもらうと、スムーズにいたずらが可能になります。

 でもベルドはものすごく冷静に返した。


「そうでもない」


 バレるんだよねぇ。ふと、リルはどこだって探すのよねぇ。で、見つかるのよねぇ。

 この場合、ただのかくれんぼになってしまう。ちなみに見つかっても拘束されるから、完全なわたしの負けだ。


「慣れると楽しい」

「楽しめるまでの境地になるには遠そうだ」


 レイストが遠い目をした時、ノックの音が響いて、お嬢様が到着いたしましたとメイドさんが知らせてくれた。

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