2 —21
「ベ、ベルド、リル」
「マキヨ様、大丈夫ですから」
マキヨ嬢の顔色を見て、ぶっ倒れそうだと思ったんだろう。マットがベルドを下ろしてくれた。ちょっと話していけということだろう。ここでマキヨ嬢に倒れられたら、また要救護者が増えるだけだし。
ベルドはいつも通りの表情で、でも心持ち柔らかいマキヨ嬢だけに向ける顔で手を差し出した。
「マキヨ君」
マキヨ嬢が指を乗せる。泣きそうな顔をして。
マキヨ嬢の指先を、ベルドは握った。
「俺は死んでないだろ」
「置いていかないでって言ったのに」
「ごめん。でもマキヨ君を狙わせるわけにはいかない」
断固とした口調に、少し俯いたマキヨ嬢は何度か瞬きを繰り返した。そんなマキヨ嬢にベルドはわたしを掴んで押し付ける。
「リルを頼む。こいつ奇声しか発しない」
失礼な!否定はしないけど。
マキヨ嬢は少し笑ってわたしを受け取った。
「リル、ありがとう。ベルドを助けてくれて」
いやー、わたしにしては活躍したよねー!ベルドしか知らないところが悲しいとこだけどさー。
「リル、返事」
「えっ! いいの?」
「あれだけ動き回ってんのが見られてる。声も多少なりとも聞こえただろう。誤魔化しようがないだろうが。ここにいる方々も他言無用に願います。リルについては後ほど説明しますので」
「承知した」
アストロ1が応じた。
これ幸いとわたしはマキヨ嬢にべったり抱きつく。
「マキヨ嬢ー! 怖かったよーぅ!」
「そう? 途中から少し楽しそうだったわ」
「落ちた時はめっちゃ怖かったんだからぁ! そりゃ変な声も出るよ! むしろ無言で落ちたベルドの方がおかしい!」
ふんとベルドが鼻で笑う。
「あの奇声でかき消されたんだろ」
「絶対違うね!」
あぁ、ダメだとベルドは笑い出す。どうも彼はわたしの奇声がツボに入っているらしい。
「思い出したらひどい」
「うるさいー! 早く治療してもらっておいで!」
「あぁ。マキヨ君、リルを頼む。マットさん、お願いします」
マットはベルドを背負った。ウェッドが背中を支える。
それを追いかけてゆっくり歩きながら、マキヨ嬢はわたしの頭を撫でた。
「リルがいてよかったわ」
「そお?」
「いないと困るわ」
「そお?!」
嬉しい。単純に嬉しい。なんかいいよね!仲間とか家族とか友達みたいでさ!レシピとしてだけじゃなくて……よかったよね!
ところでエンデナ嬢がわたしをすんごい見てくるんだけど。目がキラキラしてるから、もしかしてお人形好き?
「その子は」
話が途切れたところで、エンデナ嬢はマキヨ嬢に話しかける。
「女の子ですか」
「そうですね、一応」
「一応ってなにさー」
二人とも、顔を見合わせて笑う。あぁ、マキヨ嬢の顔色もよくなってきたな。
「すごく可愛いわね」
あれ、可愛いとはあまり言われないんだけどな、外見的に。独特なんだけどな。目はボタンだし。ボタンもさ、糸がクロスしてるからおめめペケだし、色もわざわざボタンと違う色してるから目立つんだけど。
多分マキヨ嬢もそう思ったのだろう。そうですか?と完全に疑問系で尋ねた。
「中身は可愛いんですけど」
中身はって言うんじゃねぇ。外、可愛くないって言ってるようなもんだぞ、それ。
「あら、すごく可愛いのに」
もしかしてエンデナ嬢、審美眼は独特でいらっしゃる……?
「……レイストさんって方をご存知ですか」
「はい。よく出入りされていますし、旦那様もお世話になってます」
「レイストさんが売っていますよ。動きませんけど」
「そうなの? お人形だけでも買おうかしら」
売れないって言われてたけどなぁ。こうして妙に流行り出したら、わたしって最先端になるのかしら。
それはそれでレアだよねぇ。転生ものでは開発して流行らせる、はよく見るけど、わたしが流行るっていう。わたしが流行るって何?もはやよく分からない感じにはなっちゃうけど。
エンデナ嬢とマキヨ嬢が仲良く話すのを聞きながら、わたしはぬいぐるみらしく手足をだらんとさせた。
あー、疲れたぁ!あんな状況は心臓に悪い。高いとこ怖いし、足めっちゃ震えたじゃん。ベルドを助けるってミッションがなかったら、心折れてたに違いない。一人じゃ降りられなかったという意味では、わたしもベルドに命を救われて……。
そう考えて、ふと気付く。
わたし、幽霊なんだから落ちても大丈夫なのでは……?




