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何回死ねば気が済むのか。ふとそう思う。だって三回目だよ?人から猫、猫から幽霊。もっとまともに転生したかった。
よくよく思えば最初の死のことなんか覚えてすらいない。もしかしたらもっと前から死にまくってる可能性もあるな。
次こそは普通の人に転生できますように。
「リル」
ベルドを道連れにしてさぁ。本当に悪かった。ベルドだけでも、どっか引っかかってないかな。
「リル!」
「は、はい!」
ちちち、と鳥の声がした。わたしは鞄から顔を出す。
「あ、あわわ、わ、わ! 高いよー!」
「高いの苦手か」
「にがっ、苦手じゃないけど、あんまり高いと、高いからさぁ……」
下には大きな木々。緑は敷き詰められてるけど、受け止めてくれる感じじゃない。
で、切り立った崖にところどころ、木が生えている。こんなところにも木が生えるんだなぁ。自然ってすごい。
わたしは上を見上げた。ベルドが片腕一本で木の幹にぶら下がってるのが見えた。わたしは慌てて、でも慎重に外に出る。
「わ、わたし何したらいい?」
「動けるなら助かる。ロープを木にかけてくれ」
うわ、よく見たら左手で掴んでるじゃん。手袋をしているとはいえ、さっき剣を掴んでたから怪我してるかもしれない。わたしはロープの先を両手で掴む。
「ちょっと待て」
ベルドの右手がロープの先をつかみ、くるりとわたしの身体にかけた。片手で軽く結んでくれる。わたしの胸のところにバッテンを描くロープ。これなら落ちないね!命綱あるとないでは気持ちの持ちようが違う。
「落ちて木にぶら下がった衝撃で左肩が脱臼してな。動くと痛いから右腕があまり上げられない。右手に乗れるか?」
手の甲に乗せてもらって、肩へと運んでもらう。わたしはベルドの頭を登り始める。普段の登頂がこんなところで役に立つとは。
頭の上に乗って手を伸ばす。う、嘘だぁ!
「届かないよぉ! あとちょっとなのにぃ!」
飛んでみる。わたしの跳躍力、低すぎ……!
いや、でも鍛え上げた『びょーん』で飛び出せば……。いや、角度的に幹に当たっちゃうな。当たって折れたりしたらヤだな。上を越えたいんだけど、真上に飛んだら落ちてくるだけだろうし、相当うまくやらないと。あ、いや、上も斜め上も飛び出したら、他の木に引っかかる可能性まであるな。
「リル、悪いんだが」
「なーに?」
ベルドの頭に膝をつき、顔を覗き込む。彼は上を向いていた。綺麗な明るいエメラルドグリーンの瞳がわたしを見ている。
「ちょっと振り回していいか? ロープ離さないから」
どうやらわたしを重石にして、遠心力で枝を乗り越える作戦らしい。そっちのが楽そうだ。
「いいよ!」
わたしはおそるおそるベルドの頭から降りて、ベルドの手元に戻った。わたしにつながったロープを少しずつ、他の枝に引っかからないように調整して下ろす。わたしはしっかりとロープに手を当てた。
ゆーらゆーらと、ふりこのように揺れる。わぁ、これはちょっと楽しい!ブランコじゃん!爽やかな青空も相まって、気分も晴れやかー!
「行くぞ」
「はいよぉ!」
ふわっと身体が浮く。ぐるんと景色が回った。
「アーアアー!」
わたしは無事に幹を乗り越えた。ベルドの後ろ頭に激突して張り付く。
「成功だね!」
「おまっ、お前、本当に奇声しか上げないな」
ベルドは笑いを堪えているらしい。声が震えている。
「今のは様式美だよ。ちょっと違うけど」
「リルの世界は大変だな……! あぁ、笑うと痛いんだがな、笑いが止まらない」
ツボってるじゃん。
「結ぶよー? てゆーか、そんな悠長にしてて手ェ大丈夫なの?」
「うん? あぁ、手な。どちらかというと上着とシャツの袖が幹に引っかかってる。穴空いてるかもな。手でももちろん幹は掴んでるんだけど。そうじゃなけりゃ、もう落ちてるだろ」
「怖いこと言うじゃん。どうしたらいいの?」
ベルドの指示で紐を持った。片手でもできるっていう結び方で、なかなか外れないというものだ。わたしみたいな持つだけしかできない人形でも、ベルドの頭やら手やらを足場にしてなんとか結ぶ。ベルドも動ける限り、ロープを結ぶのを手伝ってくれた。
ベルドは何度か引っ張って強度を確かめた。
「大丈夫そうだ。ありがとう、リル」
「どういたしまして。お役に立てて何より」
「リルがいなけりゃ、俺は死んでただろうな」
わ、わたし、ぬいぐるみに転生しててよかったぁ!
わたしを鞄へ戻すと、ベルドはロープを足先に引っ掛け、右手でロープを持った。左手を離し、上着を幹から外す。少し顔を顰めている。痛かったらしい。
「ゆっくり降りるんだよ。ざーって降りたら、手袋してても手が大変なことになるからね」
「気をつける」
本当にゆっくりと降下する。こういう時のベルドって慎重で安心感がある。焦らないんだよね、とにかく。妙に冷静というか。
木々が近くなってくる。下に人がいるのが見えた。
「ベルド殿ー!」
手を振ってるのはアストロだなぁ。おや、下でシーツ広げてくれてるじゃん。
「飛び降りてください! 下に枕と藁が敷いてありますからー!」
確かにロープは足りてないんだよね。少々高さはあるけど、シーツを張ってくれているし大丈夫だろう。アストロとー、マットとウェッドとアストロ。
うん?アストロ多くね?
二度見するけど、やっぱりアストロが二人いる。ボウウェか?こういう時くらい働けみたいな?でもさっきの感じだと協力してくれそうな気配、なかったけどね。
えっ、じゃあ飛び降りた瞬間に手、離されたりとかしない?大丈夫なやつ?
「飛びます!」
ベルドはひらりと飛び降りた。また妙な声が出そうになるのを我慢する。
ぼふっとベルドがシーツに沈む。藁がカサカサ音を立てた。ベルドは起き上がる。
「いって!」
そりゃそうだ。肩外れてるんだから。
「ベルド殿、怪我は?」
アストロ1が話しかけてくる。
「肩が外れまして」
「手も怪我してますな。これはちょっと縫わないといけないかもしれません。処置しましょう。立てますか」
ウェッドとマットが手を貸してくれる。ベルドは少しふらついた。
「これは梯子は辛かろうな。ベルド殿、担いでよろしいか」
マットの言葉に、どうやらここは避難通路の扉を抜けた先なのだと気付いた。ベルドが落ちるのを見て、みんな慌てて降りて来てくれたんだね。
ということは……。あー、マキヨ嬢が。エンデナ嬢に支えられて、顔面蒼白で立っていた。




