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2 —17

 ベルドは館までをゆっくり歩いた。隠さない首元はいい宣伝カーみたいなものだ。


 館に着いてからは計画通り。二言目には妻が、もしくはマキヨが、と悲壮な顔をしてベルドは探しているふりをした挙句、私といるとあなたも連れていかれるかもしれない、とファスティを脅して部屋へ戻らせた。


 ゆっくりとした足取りで部屋から部屋へと歩き回る。


「ベルド」

「んー?」


 地下へと入ったことをいいことにわたしは話しかけた。


「何するの?」

「隠し通路とかあれば面白いな、と思って」


 完全にふざけてるなぁ。そんなカラクリ屋敷ある?


 食糧庫に入る。なんもない。

 台所へと戻る。この間まで使ってたんだろうなって雰囲気が残っている。棚に仕舞われたお皿もグラスも綺麗に並んでいるし。

 ここ、使うならまた掃除しないといけなくなるだろう。料理人やメイドさんたちにとっては、さぞかし迷惑な話だろうな。この印章探しバトルの間ってお給料も出ないもんねぇ。


 ベルドは食器棚の下の扉を開ける。おや、と小さく呟いて、何かを引いた。


「レバーがある」


 カタカタと音をさせて横にあった壁の下の部分が開いた。ホラーか何かで見たことあるような仕掛けなんだけど。それ、入ったら死ぬやつじゃないの?


「面白い」


 中は暗い。覗き込むと梯子がついていた。ベルドは躊躇なく階段に足をかけた。ふと何かを見上げて引っ張っている。するすると扉は閉まった。


「下ですごいのが待ち構えてたりしない?」

「すごいの?」


 下を照らす。どうやら通路らしい。

 ゾンビとか、と言いかけて、この世界にゾンビはいないんだったと思い直す。あ、いや、前世にもいなかったわ、わたしが覚えてる限りは。


「蛇だらけとか」

「それは困るな」

「ベルドならなんとかしそう」

「俺を何だと思ってる」


 石畳の通路だ。わぁ、トンネルみたい。ベルドは懐中電灯をふりふり、歩いていく。通路は短く、すぐに扉に行き当たった。全く躊躇せずに扉を開けるベルド。もう少し怖がってほしいものだ。


「外に出た」


 懐中電灯の灯りを消して、ベルドは空を見上げた。夏の日差しが傾いている。後ろを見ると、館が上の方に見えた。ここ、館の後ろの崖下みたい。


「逃走経路だな。館が敵に攻め込まれた時のための」

「ほえー! すごいねぇ!」


 道はないけれど、歩いて行けそうな雰囲気のある草っ原だ。川も見えるし。

 ベルドは戻ろうかと言って来た道を戻る。


「虫がすごそうだ」

「それはイヤ」


 扉をきっちり閉めてあるから入らないだけで、開いてたら入って来そう。それこそ虫だらけになるじゃん。うわぁ、そういうのは想像したくなーい!


 静かな通路を戻り、梯子を登る。レバーを引いて、中に入った時だ。

 突如、ベルドの身体が引きずられた。


「貴殿か」


 見上げた顔はどっちか分からない。責めるような声ではないけど、呆れたような雰囲気はある。


「あぁ、アストロ様でしたか」

「侵入者かと思ったぞ」


 どうやらアストロの方だったらしい。マットがレバーを引いて扉を閉めた。ベルドを中に引き込んで倒したのは彼だったようだ。


「ここは避難経路だ。何かあった時のための。勝手に動かさないでもらいたい」


 昨日とは口調が違うなぁ。ちょっと厳しめ。密かに連携してるからだろう。バレたらいけないんだし。


「申し訳ございません。妻を探していたら、つい見つけてしまいまして」

「なるほど」


 アストロの口角が若干上がっている。半笑い状態だ。内情を知っているから、よくもまぁそんなことを言えたものだと思ったのだろう。

 ベルドは服を払って立ち上がった。


「印章は見つかりましたか?」

「貴殿に教えることは何もない」

「そうですか。残念です」


 アストロはちらりとマットを見て、ベルドに視線を移した。


「その首はどうされた」

「幽霊に絞められまして。ホクロのある、眼鏡の恰幅の良い男性です。ボウウェ様がおっしゃるにはお父上だとか」

「ふん。貴殿のような者がうろうろしていたら、父上もお怒りになるだろう。しかし……すごい色をしているな」

「見た目よりは大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 ベルドの声はいつも通りのものだったけど、顔は微かに笑っている。あー、これは誰かに聞かれてるんだなぁ。


「私はそろそろ。また暗くなると幽霊が出るかもしれません。お父上の怒りに触れないためにも、一度宿へ戻らなくては。あぁ、そうだ。これ、どうぞ」


 ベルドは懐中電灯を渡した。


「暗くなる前に帰りますので、私にはこれ以上必要なさそうです」

「……爆発などしないだろうな?」

「それは友人がくれたものでして。爆発したら友人の方に苦情を入れてください」


 さらっとレイストに責任をおっかぶせ、では、とベルドは歩き出す。


 台所を出たすぐのところでファスティが立っていた。もう少し立ち聞きを誤魔化そうとする気はないのだろうか。


「どうでしたか」

「避難経路を見つけただけです」

「それは我々も知っていますね」


 じゃあ言え!


「もしかしたら妻はあの扉から外に出されたのかもしれない……」


 憂鬱そうな顔と声はしてるけど、ちょっとベルドの方も楽しんでるね、これは。いかにバリエーション豊かにファスティに面倒そうな顔をさせるか、みたいな遊びだな。


 ファスティの方は、こいつ印章探さねーなと思ったに違いない。大きなため息をこれみよがしについて、今日はもういいですよと言った。うぇーい!早めに上がれるじゃん!


 ベルドは足早に館から出た。宿に帰る途中、おばちゃんに捕まったのは言うまでもない。

話の区切りの関係で今日の投稿はこの一話だけです。申し訳ないです。

明日はいつもどおり二話投稿しますので、よろしくお願いします。

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