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ベルドは館までをゆっくり歩いた。隠さない首元はいい宣伝カーみたいなものだ。
館に着いてからは計画通り。二言目には妻が、もしくはマキヨが、と悲壮な顔をしてベルドは探しているふりをした挙句、私といるとあなたも連れていかれるかもしれない、とファスティを脅して部屋へ戻らせた。
ゆっくりとした足取りで部屋から部屋へと歩き回る。
「ベルド」
「んー?」
地下へと入ったことをいいことにわたしは話しかけた。
「何するの?」
「隠し通路とかあれば面白いな、と思って」
完全にふざけてるなぁ。そんなカラクリ屋敷ある?
食糧庫に入る。なんもない。
台所へと戻る。この間まで使ってたんだろうなって雰囲気が残っている。棚に仕舞われたお皿もグラスも綺麗に並んでいるし。
ここ、使うならまた掃除しないといけなくなるだろう。料理人やメイドさんたちにとっては、さぞかし迷惑な話だろうな。この印章探しバトルの間ってお給料も出ないもんねぇ。
ベルドは食器棚の下の扉を開ける。おや、と小さく呟いて、何かを引いた。
「レバーがある」
カタカタと音をさせて横にあった壁の下の部分が開いた。ホラーか何かで見たことあるような仕掛けなんだけど。それ、入ったら死ぬやつじゃないの?
「面白い」
中は暗い。覗き込むと梯子がついていた。ベルドは躊躇なく階段に足をかけた。ふと何かを見上げて引っ張っている。するすると扉は閉まった。
「下ですごいのが待ち構えてたりしない?」
「すごいの?」
下を照らす。どうやら通路らしい。
ゾンビとか、と言いかけて、この世界にゾンビはいないんだったと思い直す。あ、いや、前世にもいなかったわ、わたしが覚えてる限りは。
「蛇だらけとか」
「それは困るな」
「ベルドならなんとかしそう」
「俺を何だと思ってる」
石畳の通路だ。わぁ、トンネルみたい。ベルドは懐中電灯をふりふり、歩いていく。通路は短く、すぐに扉に行き当たった。全く躊躇せずに扉を開けるベルド。もう少し怖がってほしいものだ。
「外に出た」
懐中電灯の灯りを消して、ベルドは空を見上げた。夏の日差しが傾いている。後ろを見ると、館が上の方に見えた。ここ、館の後ろの崖下みたい。
「逃走経路だな。館が敵に攻め込まれた時のための」
「ほえー! すごいねぇ!」
道はないけれど、歩いて行けそうな雰囲気のある草っ原だ。川も見えるし。
ベルドは戻ろうかと言って来た道を戻る。
「虫がすごそうだ」
「それはイヤ」
扉をきっちり閉めてあるから入らないだけで、開いてたら入って来そう。それこそ虫だらけになるじゃん。うわぁ、そういうのは想像したくなーい!
静かな通路を戻り、梯子を登る。レバーを引いて、中に入った時だ。
突如、ベルドの身体が引きずられた。
「貴殿か」
見上げた顔はどっちか分からない。責めるような声ではないけど、呆れたような雰囲気はある。
「あぁ、アストロ様でしたか」
「侵入者かと思ったぞ」
どうやらアストロの方だったらしい。マットがレバーを引いて扉を閉めた。ベルドを中に引き込んで倒したのは彼だったようだ。
「ここは避難経路だ。何かあった時のための。勝手に動かさないでもらいたい」
昨日とは口調が違うなぁ。ちょっと厳しめ。密かに連携してるからだろう。バレたらいけないんだし。
「申し訳ございません。妻を探していたら、つい見つけてしまいまして」
「なるほど」
アストロの口角が若干上がっている。半笑い状態だ。内情を知っているから、よくもまぁそんなことを言えたものだと思ったのだろう。
ベルドは服を払って立ち上がった。
「印章は見つかりましたか?」
「貴殿に教えることは何もない」
「そうですか。残念です」
アストロはちらりとマットを見て、ベルドに視線を移した。
「その首はどうされた」
「幽霊に絞められまして。ホクロのある、眼鏡の恰幅の良い男性です。ボウウェ様がおっしゃるにはお父上だとか」
「ふん。貴殿のような者がうろうろしていたら、父上もお怒りになるだろう。しかし……すごい色をしているな」
「見た目よりは大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
ベルドの声はいつも通りのものだったけど、顔は微かに笑っている。あー、これは誰かに聞かれてるんだなぁ。
「私はそろそろ。また暗くなると幽霊が出るかもしれません。お父上の怒りに触れないためにも、一度宿へ戻らなくては。あぁ、そうだ。これ、どうぞ」
ベルドは懐中電灯を渡した。
「暗くなる前に帰りますので、私にはこれ以上必要なさそうです」
「……爆発などしないだろうな?」
「それは友人がくれたものでして。爆発したら友人の方に苦情を入れてください」
さらっとレイストに責任をおっかぶせ、では、とベルドは歩き出す。
台所を出たすぐのところでファスティが立っていた。もう少し立ち聞きを誤魔化そうとする気はないのだろうか。
「どうでしたか」
「避難経路を見つけただけです」
「それは我々も知っていますね」
じゃあ言え!
「もしかしたら妻はあの扉から外に出されたのかもしれない……」
憂鬱そうな顔と声はしてるけど、ちょっとベルドの方も楽しんでるね、これは。いかにバリエーション豊かにファスティに面倒そうな顔をさせるか、みたいな遊びだな。
ファスティの方は、こいつ印章探さねーなと思ったに違いない。大きなため息をこれみよがしについて、今日はもういいですよと言った。うぇーい!早めに上がれるじゃん!
ベルドは足早に館から出た。宿に帰る途中、おばちゃんに捕まったのは言うまでもない。
話の区切りの関係で今日の投稿はこの一話だけです。申し訳ないです。
明日はいつもどおり二話投稿しますので、よろしくお願いします。




