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2 —13

 床に倒れているベルド、ベルドの手を押さえていたと思われるアストロが立ち上がる。そしてメガネの……ウェッドだっけ。彼はベルドの足を押さえていたようだ。そしてマットはちょうどベルドに馬乗りになっていて、ベルドの首から手を離すところだった。

 首を絞めてた!なんてことを!


「エンデナ殿、すまないが口紅をお持ちではないか」


 飛び出そうとしたわたしの耳に、マットの言葉が入ってきて飛び損ねた。え?何?口紅?


「首を絞めるという話はどうなったのですか?」


 エンデナ嬢が首を傾げる。アストロが苦笑いを浮かべた。


「やはりリスクが高すぎるだろうということになってね。ベルド殿は構わないと言ったが、いくらマットが手加減を知っていても、ベルド殿を苦しめることに違いはない」

「確かに命はかかっているだろう。バレると困るというのも分かる。だが痕を残すには相当力を入れないといけないだろう。後々強い影響が出ることもあるのだ。余程の命の危機でない限り、こういうことはやめた方が良い」


 エンデナ嬢が床に倒れているベルドを覗き込んだ。寝てるなぁ。


「首は絞めていないのですね」

「あぁ。薬の効果が出て、首に手をかけた段階で眠ってしまった」

「そうでしたか。……それで口紅で?」

「うん、ウェッドの発案で。口紅は持ってる?」

「お義母様のものが隣にありますわ」


 エンデナ嬢は隣の部屋へ戻り、口紅を持って来た。その間にマットがソファにベルドを座らせたらしい。

 ウェッドが口紅を指に取り、ベルドの首に塗る。


「首を絞めた痕に見えるでしょうか」

「ぼやかせば見えますよ。ただこれは絞められた直後の痕に似せますから、明日以降は違う色ですね。紫と黒の色を絵の具か何かで足してそれっぽくしましょう」


 要するにハロウィンとかでやる傷メイクか。


「明日、私が体調を気にして訪れたという体で会いに行きますよ。その時にアザにしてきます」

「よくそんな技術を持っておられますね」


 感心するエンデナ嬢にウェッドは曖昧に笑った。


「いろいろな怪我を見て来ておりますからね。戦場では容赦ないものです。これで済むのなら、この方がいいに決まっています。マットの言う通りです」

「私も似たような方法で逃れたからな。ウェッドは本当に上手なんだよ」


 アストロに褒められて嬉しそうにしながら、これでどうでしょうとウェッドが手を拭う。おぉ!すごいすごい。上手に指形みたいなアザみたいになってる!


「ベルド殿も眠っているし、今のうちがいいな」


 アストロが言って、マットがベルドを背負うのを手伝った。身体を起こされたベルドはすぐに目を閉じてしまった。こっちも眠いのか。

 わたし入りの鞄を、ベルドの首にかける。持ち手が首に絡まらないようにだろう、鞄をベルドとマットの身体の間に押し込んだ。


「ではマット、ウェッド、頼んだ」

「了解しました」


 部屋を出たのだろう。暗くなる。

 歩いている雰囲気だけはある。この人、全然揺れないんだけど。本当に運ばれているのかすら分からなくなるくらい。


 暗い中、ベルドが降ろされる。布ずれの音がしている。下ろし方がすごい優しい。この人たち何なの?

 かすかな明かりの中で、ウェッドがベルドの上半身を支えているのが見えた。ベルドをゆっくりと寝かせる。

 そうして二人は去って行った。

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