2 —12
わたしは内心おろおろしていた。
マットと呼ばれた男はお昼に見たアストロの護衛だ。丁寧にマキヨ嬢をベッドに寝かせた。わたしの入った鞄を、女の人がマキヨ嬢の身体から外す。
「あら、ぬいぐるみが入っているわ」
「随分凝った鞄だな」
ふ、不審がられてるしめっちゃ見られてる!わたしはぬいぐるみ、わたしはぬいぐるみ……。
「大事なぬいぐるみかしら」
「枕元に置いて差し上げたらいいでしょう」
そうしましょうか、とすごく丁寧に枕元に置いてくれた。あ、いい人かも。
二人は連れ立って部屋を出て行った。
さて!どうしよう。マキヨ嬢は寝ちゃってるしなぁ。わたしは鞄から出てもいいけど、突然隣から人が来たら困るし……。
とりあえず、鞄開けるだけなら許されるっしょ!そーっと鞄を開けてみる。
明るい部屋だ。緑の扉……一個だけ。さっき二人が出て行ったとこだよね。ということは、そっちからの逃亡はできない。窓は……はめ殺しの窓じゃん。
そもそもベルドを置いて逃げるわけにはいかないしなぁ。ひどいこと、されてないといいけど。
でもベルドの態度からして、少々何かあると分かってた感はあるんだよなぁ。今のお姉さん、エンデナ嬢でしょ?エンデナ嬢が裏切ってない限り、さっきのはアストロお兄ちゃんだよね?
「よいっしょ」
足で鞄の中のクッションを蹴って身体を持ち上げる。べろんと鞄から脱出した。ふわふわのベッドが受け止めてくれる。
わたしは起き上がると、そっと立ち上がった。誰も!いないよね!よし。背伸びして見えなければ大丈夫だろう。あまりベッド端に寄り過ぎて、ベッドから落ちちゃうとアウトだからね。『びょーん』で復帰できるかもだけど、びょーんって声が聞こえちゃうからね。
わたしはマキヨ嬢の頬をぺしぺし叩いた。
「マキヨ嬢! 起きて!」
小声で呼びかける。マキヨ嬢は小さく唸って目を開けた。透明度の高い真っ黒な瞳が、ぼんやりとわたしを見る。
「リル?」
「おはよ! どこかおかしくない?」
「眠いわ」
睡眠薬みたいな……えっと、眠くなる何かを注射されたんだな。ちょっと目の焦点があってないもんね。
「腕がね、ちくっとしたわ。誰かが私を押さえてたの。うーん、ベルドはどこ?」
「隣の部屋。わたしじゃ開けられないし、あっちには人が何人かいたよ」
「うーん、そう。眠いわ」
あー、ダメだこりゃ。
「マキヨ嬢」
胸の上にのぼってぺちぺち叩く。マキヨ嬢の腕がわたしを押し倒した。胸に抱かれてしまう。くそぅ、わたしが男なら大喜びだぞ!ぬいぐるみな上に女だし動けなくなっただけだから、今は嬉しくない。
「マキヨ嬢ってばー」
「眠いのー。もう少し寝るの……」
すぅすぅと寝息を立てている。これは起きないか。這い出るしかないな。匍匐前進で!
しかしぎゅっと抱きしめられて、彼女は寝返りを打った。おぅふ!半分体重が乗っかっちゃって、いつも以上に出られない。
ひぃひぃ言いながら這い出た時には、かなりの時間が経過していた。あぁ、疲れた。マキヨ嬢がすやすや眠っている横に座り込む。酷い目に遭ったとも思えるが、可愛い顔して寝ちゃってるからなんか怒れない。
ガチャ、という音にわたしは固まった。誰、誰か来た!扉にお尻向けちゃってるから誰が入ってきたのか分からない。
「あら?」
エンデナ嬢だ。わたしを取り上げる指は細い。そっと鞄に収められて逆戻りだ。
「気に入ってる子なのね」
マキヨ嬢の頭を撫でている。優しげなその手つきは、どう考えても酷い目に遭わせようとする感じじゃない。
隣への扉が、ほんの少し開いた。エンデナ嬢はわたしの入った鞄を持って隣へと向かう。
そこで見た光景に、思わず尻尾の毛が立った。




