表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/193

2 —11

 夜。わたしたちは館の廊下にいた。


 ボウウェたちはいない。幽霊が出るかもしれませんからとベルドが告げると、当たり前みたいな顔をして部屋に籠っているからと宣言された。こちらとしても一緒にいていいことなさそうだから、置いていく方がよかったのだろう。ベルドも異存なさそうだった。


 しかし夜中の冒険かぁ。この廊下も雰囲気あるぅ。夜の廊下って怖いよね!

 見下ろしてくる肖像画とかさー、不気味だよねぇ。それに気を取られてたら、ばぁんって窓が割れたり叩かれたりして、びっくりさせてくるみたいな。びっくり系って音にびっくりはするけど、途端に冷静になっちゃって逆ギレしちゃうから、わたしはあまり好かないんだけど。

 わたしとしては、突然人形が廊下のど真ん中に現れるとかの方が楽しい。進行方向で待ってた日にはもう!通りがかったドアから覗いてるとかもいいな。気付いた瞬間にぱぁんってドア閉まるやつ。


 ちなみに霊媒師たるマキヨ嬢がベルドの腕にくっついてるのは、俺から離れるなとベルドに言われたからだけでは絶対にない。妙に怖がりなんだよね。霊媒師なのに。幽霊の気配はないと断言しているから、怖いのは幽霊ではないらしい。

 おかげで、ベルドは片手に懐中電灯、片手に脱いだ上着とマキヨ嬢という賑やかな構成になってしまっている。それでもくっつくなとマキヨ嬢に言わないところは優しい。


 そのベルドは館を散策している雰囲気が強い。居間や広間を通り過ぎる。懐中電灯の明かりが鈍く謎の彫刻を照らした。


「面白い家だな」

「そうかしら?」


 一階の端っこの書斎にはボウウェたちが陣取っていて、二階の逆の位置にアストロたちのいる部屋がある。今は二階を歩いているけど、特に何も出会わない。


 そしてわたしは暇だ。喋れないし動けないし。特注の専用ケースに入っているから居心地はいいんだけどなー。


 ベルドたちが作ってくれたんだよ、わたし専用の鞄。持ち運びにマキヨ嬢がずっと抱っこしてくれるから申し訳なくて。マキヨ嬢が持ってると可愛いんだけど、手が空かない時にベルドに持ってもらうとねぇ。いくら男前でもわたしを抱いて歩くわけにはいかないとわたしは思うんだけどねぇ。


 効率の良さ重視のベルドは、あまり気にならないらしい。しかも外でもちゃんと抱っこしてくれるわけよ。頭鷲掴みとかだったらまだしも、腕に抱いてくれるのよ。

 で、二人とも手が離せない時は肩とかに乗っけてくれるんだよねぇ。ほんと、呪われててくっついてんじゃないのって言われそうな気がしてさ。


 こういうケース、作れないかなとお願いしたら、ふたの短い小さなランドセルみたいな良い革の鞄が出来上がってきた。しかも中はクッション付き。わたしが覗くための隙間も作ってある。ショルダーバックのような形で、二人とも肩から斜めがけにする。その方がわたしを落とさないからって。

 これを今回持ってきたわけだ。さっきまではマキヨ嬢を印象付けるためにわたしを持っていたけど、今は何が出るか分からないからって鞄に入れられてマキヨ嬢が持ってくれている。マキヨ嬢たちにとって楽なのは間違いない。両手が空くし、今のベルドの状態を考えればなおさら。


 しかしこの館も広いなぁ。前のメリルアの家もデカかったけど、それより大きい。大変だろうな、この家の執事さんとかメイドさんとか。全然見かけないけど。今は勝負中だから、全員締め出されてるっぽい。


 三階へと上がる。最初に入ったのは子供部屋。結構荒れてるのはボウウェあたりが探して荒らしたんじゃないかなという気がする。机は引き出しが全部出ちゃってるし、椅子が無造作に転がっている。荒れ果てた屋敷のようで不気味だ。

 次の部屋も子供部屋。同じように荒らされてはいるけど、一つの机は倒されているのに、ランプの乗っていない机の周りだけ綺麗だ。これは何かありますなぁ。もっとじっくり見たかったけれど、ベルドが歩き出したためにくっついてるマキヨ嬢も歩き出してしまったから見られなかった。


 その隣の大人用の寝室も同じ様相だった。泥棒に入った後みたいだ。実家だろうに、こうして荒らすのはいいのかね。あとあと大変なのは整える人なんだけどなぁ。


 ベルドは寝室の隣の部屋の扉を開けた。こっちは立派な柱時計が置いてある。クローゼットみたいなものがぼんやり見えたけれど、中には何も入ってなさそう。


 そっと、ベルドは扉を閉めた。暗い。ベルドの持ってる懐中電灯も、わたしの前世で売られていたような明るさじゃない。もっとぼんやりしているから、実質ベルドが気になって向けたものだけくらいしか明るくならない。


「あれは?」


 おや。さっきはなかったはずの小さな蝋燭の灯りが揺れている。さっき見た何も入っていないクローゼットの前だ。マキヨ嬢がひっと小さく声を上げた。あんた霊媒師じゃないの。


「黙っててくれよ。何があってもだ。いいな」


 多分これはわたしに対してのものだ。ぽんぽんと鞄を中から叩いたら、マキヨ嬢が分かったわと伝えてくれた。


 ベルドが蝋燭の前に立った時だ。蝋燭で光る白刃がベルドの首に突きつけられる。クローゼットの中に誰かいるのだ。マキヨ嬢が棒立ちになる。おそらく驚いて咄嗟に動けなかったのだろう。


「動くな」


 大きな声じゃないのに、逆らわせない張りつめた男の声。聞いたことのない男の声だった。白刃が引くと、今度は前からもう一人男が歩み寄ってくる。暗がりにライトが揺れた。


 唐突にベルドが倒れた。マキヨ嬢が手を伸ばそうとする腕を誰かが掴む。朧げに見えたのは注射器に見えた。マキヨ嬢も倒れ込む。男がベルドを担ぎ、もう一人がマキヨ嬢をお姫様抱っこした。


 あわ、あわわ、どうしよう。でもベルドは何があっても黙ってろって言ってた。これは想定内なんじゃないか?違ったらどうしよう?どうする?


 蝋燭の火を消し、ベルドの持っていた懐中電灯を消す。うえぇ、真っ暗じゃん。飛び出たらわたしの猫の目で見えるかもしれないけど。しかし『びょーん』って叫ぶわけにいかないしなぁ。

 そう思っていたら、男たちはランプを取り出した。わたしには気持ち見える程度だけど、さっきよりはいい。狭い通路を歩いてるみたい。

 うーん、どの辺かな?この通路、窓がないからどの辺の位置を歩いているのかが分からないや。


 一生懸命、鞄の中から覗いていたら、突然明るい場所に出た。ここは書庫かな?見たことのない場所には違いない。

 立派な机があるのはお昼に見た部屋と同じだけど、こっちには布を被った……鏡かな。机に乗ってるの。楕円の鏡みたいのの後ろ側が見えてる。何あれ。

 机の奥には窓。大きな四角い格子の窓の外は真っ暗で何も見えない。


「ごくろうさま」


 あぁ!このバカ息子!あ、いや、どっちだ?兄の方?


「少ししたら目も覚めます」

「じゃあその前に腕を後ろで縛ろうか。そっちの女性は隣のベッドへ」


 うわぁあん!やめて、ベルドに乱暴しないでー!これはいっそ、『びょーん』するしか。

 触れられたベルドの目が開いた。お、起きたわ!ベルドが起きたわ!起きて!起きて、そのまま!

 起きあがろうとしたベルドが、ぐったりと頭を落とす。辛そうに頭を上げると、虚ろな目がわたしたちの方を見た。


「マキヨ、君、リ……」

「ベルド殿、大丈夫だ。少し眠ってもらうだけだから」

「逃げない、と。ひ、は?」

「意識が混濁しておりますね」

「そうか。ベルド殿、すまないが両手を縛らせてもらうよ」


 双子のどっちかに身体を起こされて、ベルドはすぅと目を閉じた。あぁー、寝ちゃった。


「ウェッド、手伝ってくれ。マット、彼女を隣へ」


 ベルドの腕を背中に回し、腕を拘束している。少なくとも痛くはなさそうだけど……。


 マキヨ嬢の肩がけ鞄の中にいたわたしには、それ以上は見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ