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2 — 8

 宿へ到着すると、二人で一部屋を取った。いつも通りだけど、他から見ると新婚だからに見えるだろう。

 部屋は出窓のある部屋だった。景色はいいけど日差しが強く明るい部屋だ。白いシーツのかかったベッドが二つ並んでいる。あっさりした椅子と机が置いてあって、質素だけど清潔感溢れた、雰囲気のいい部屋。


「マキヨ君、リルを持ってろ。リルは話していいけど動くなよ」


 ベルドは帽子と荷物を置く。マキヨ嬢もそれに倣った。


「暑いわ。窓を開ける?」

「その場合、リルは大っぴらに喋れなくなるけどいいか」

「暑いなら開けた方がいいよ。わたし黙ってる」


 熱中症とか怖いもんね。

 マキヨ嬢はわたしを抱えたまま、出窓に近寄った。窓を開ける。風が吹いてカーテンを揺らした。


「いい風と景色ね」


 確かに緑が多くて田舎って感じー。しかもわたしからすると海外の田舎だから見慣れなくて新鮮ー。


「ベル、ド」


 振り向いたマキヨ嬢が声を途切れさせたのは、ベルドが真後ろにいたからだ。マキヨ嬢を窓枠に押し付けるように身体を寄せて、マキヨ嬢の身体に緩く腕を回した。

 わたしはマキヨ嬢とベルドの間に挟まれることになってしまったわけで。いや、べったりじゃないから、見上げる隙間はあるけれど。それでも、わたしの鼻の頭にベルドの服がかすっているし、後ろ頭はマキヨ嬢の胸に当たっている。


「利用させてもらうって言ったろ」


 下から見えるベルドの顔は悪い顔してるなぁ。囁き声が色っぽい。あの、と言うマキヨ嬢の戸惑った声が聞こえた。頭側だから顔は見えないけど。

 ベルドはさらに距離を詰めた。


「あわ、あわわわ」


 思わず小声が出る。これはハグですか、ハグですね!ハグなんですね!でもわたしをサンドイッチしなくてもよくない?


「嫌なら押し退けて帰ってもいいよ」

「い、嫌では」

「へぇ」


 マキヨ嬢の首筋の後れ毛を避けて、ベルドは顔を寄せる。マキヨ嬢が驚いたように身体をこわばらせた。


「はわ、はわわわわ」


 ふんと笑う声がした。ベルドの顔が見えて、わたしを見下ろしている。


「ダメだな。どうしてもリルが面白くていけない。まぁいいか。マキヨ君、少しこのままで。見られてるからな」

「いちゃついてんの見せてんの?」

「そう。嫌がってもらって帰ってもらってもよかったけど、ここまできたら新婚で通す方がいいだろう」


 わたしはごそごそと体勢を変える。二人がくっついてるのは見えても、わたしは挟まってるから見えないだろう。


「ベ、ベルド?! 胸は、あの」

「リルだろ」

「……そう、なのね」

「ごめーん。顔が見えないからさー」


 見なくていいわと返した彼女の耳が赤い。そりゃそうか。


 ベルドがマキヨ嬢に特別優しいのは間違いないけど、マキヨ嬢もベルドを好いていることも違いないと思うんだよ。結婚してるのを隠したいのは解せないけど、間違いなく男性として好きだと思うんだよねぇ。

 ま、ベルド男前だし。淡々としすぎている気はするけど、優しいしね。分かるよ。

 ただ本人に伝えきるだけの経験がないというのだろうか。すぐ恥ずかしそうにするよね。


「ま、このくらいでいいか。マキヨ君、リル、今後の話をしようか。椅子に座ってもいいけど、一気に夫婦感が薄れるからベッドに座れ。心配しなくても襲わないよ」

「心配してないわ」


 そのうっすら上気した顔で言われてもねぇ。

 二人でぴったり並んで座り、わたしはマキヨ嬢の膝の上に置かれる。顔が見えなくなるから、二人の方を向けて座らせてもらう。声を落としたまま、ベルドは優しい笑みをマキヨ嬢に向ける。


「さぁ、あのバカ息子のことが確実になったところでだ」

「言ってる内容と顔が一致してねぇ」

「そりゃそうだろ。内容に合わせたら、夫婦で語らってる顔じゃなくなるだろ、こんなつまらん話」


 ふふとマキヨ嬢は笑った。まだ顔は赤いけど、自然な笑みで夫婦感はバッチリだ。もしかして最初から狙ってたのか、それ。狙ってたんだろうな、計算高いから。

 ということは、まだ誰かが覗いているのだ。


「とりあえずバカ息子には到着したと手紙を出しておこう。絶対に呼ばれるのは間違いないんだがな」

「ダメって言われてるのに?」

「護衛として雇うんだとか言うんだろ。俺がいることは絶対強いからな」

「探偵ってそんなに探し物のプロと思われてんの? それとも護衛?」


 まさかとベルドはマキヨ嬢の頬に触れた。優しく親指で撫でる。


「行動も一致してねぇ」

「仕方ないだろ、そもそも内容が夫婦で語らう話じゃないんだからな」

「くすぐったいわ」


 マキヨ嬢がベルドの手に手をかけた。ベルドは手を下ろしながら、マキヨ嬢の指に自分の指を絡める。見つめ合う二人。近いな!見た目だけは完全に恋人同士だな!しかも絵になるな!


「まず俺が探偵だから、多少なりとも他よりは頭が回るだろう、って魂胆」

「謎解きに慣れてるってことかしら?」

「そう。あとは俺の性質だな」

「死神のこと?」


 そうとベルドは少し顔を傾けた。え!キスしそう。めっちゃ見てやろ!マキヨ嬢、顔真っ赤!


「たとえばだ。兄貴が殺人もしくは殺人未遂を犯した場合、俺に告発されたら兄貴を確実に殺すことができる」

「いい雰囲気なのに内容が物騒すぎる……」

「残念だがな」


 ベルドは少し目を伏せた。


「でもそれってお兄さんが殺人しないといけなくない?」

「兄に罪を被せて、それを俺に誘導できればバカ息子の勝ちだろ? 印章がなくたって領主になれる。そんな領主じゃ、あまり続かんだろうとは思うけどな」


 まぁ、そうだよねぇ。要するに人殺させて罪なすりつけて蹴落とすような輩じゃ。

 あ、そうか。ベルドはレイストから話を聞いた時、それに気付いたんだな。だから行くのを渋っていたのか。

 マキヨ嬢もそれに気付いたのだろう。今にも謝りそうな雰囲気。

 ベルドはマキヨ嬢の唇を人差し指で押さえた。そして伏せていた目を上げる。マキヨ嬢は息を呑んだ。動きを止めた彼女の頬をベルドの鼻がかすり、マキヨ嬢の耳元で囁いた。


「こういう旅行も悪くない」

「あ、……そう、ね」

「嫌なら嫌と言っていいんだけどな?」

「嫌じゃ、ないわ。恥ずかしいだけ」


 そうかとベルドは顔を離して笑った。フリとはいえ、このいちゃいちゃをわたしに見せつけるベルドが強い。


「じゃあバカ息子に手紙を出してくる。大人しく二人は待ってろ」


 絶妙に別れ難いような立ち上がり方をして、ベルドはベッドを離れると部屋を出て行った。しっかり鍵をかけていくところ、マキヨ嬢とわたしは大事にされていると思う。


 マキヨ嬢はぽすっとベッドにダイブした。わたしを隣に寝かせる。いつもは無表情なのに、今日は目がキラキラしてる。


「リル。心臓がもたないわ」

「そうだろうねぇ」

「こんなに動揺しちゃって恥ずかしい」


 足をパタパタさせて悶えている。恋する乙女感満載だ。やっぱ好きなんだろうなぁ。


「ベルドのこと好き?」


 小声で尋ねると、マキヨ嬢はあわあわとわたしの口元を押さえた。そこから声出てないんだけどね。


「あ、あのっ、でもきっと、ベルドは私のことなんて好きじゃないわ。きっと結婚に都合がよくて、幽霊が見えるからいいってだけだと思うから」

「もしかしてベルドと釣り合わないと思ってる?」

「だってあんなにかっこいいのよ、私なんて」


 はっとマキヨ嬢は起き上がった。階段を上がってくる足音が聞こえたからだ。


「今の話は秘密よ」


 すっごい真剣な顔して口止めするじゃん。思わず笑ってしまう。これって恋バナじゃん。転生するまでやったことなかったよ。


「んふふふふふぅ」

「奇声しか出ないのか、リルは」


 部屋に入ってきたベルドに呆れた顔をされた。

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