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2 — 7

 到着した村は、思ってたよりはど田舎ではなかった。石造りのお家が数軒まとまって建ってるし、道路は土だけど整備されてる。もっとお隣までが超遠くて道なき道を行かなきゃいけないようなところかと思ってた。人もいくらかいるし。確かに緑が多いけど、川もあって自然豊かな良い田舎みたいだ。


 橋を渡ったところで、門番みたいな人に声をかけられた。


「今、領主を決めている真っ最中でね。怪しい者は入れるなと言われているんだ」

「だって。帰ろうか」


 マキヨ嬢が口を開く前に、門番さんがそういえばとベルドを見る。


「ボウウェ様に客が来るとか言ってたな。あんたらかな?」

「……そうかもしれないね」

「じゃあ通って良いよ。ただ、領主が決まるまで村の外には出られなくなるが良いかね?」

「だって。帰ろうか」


 やる気ないなぁ。マキヨ嬢が強気にベルドを見上げた。


「ダメ」

「うーん。そうか」


 台帳に名前を記入して村に入る。声をかけられることはなかったけど、すごい見られているのはわたしにも分かる。見慣れない人だから不審者っぽく見えるんだろうなぁ。


 宿はどこかと村人に尋ねて、とりあえず宿に向かうことになった。そのついでにベルドは息子たちの話を聞いている。


「まぁねぇ。アストロ様は確かに喧嘩っ早いかもしれないけど、良い人だよ」

「へぇ。暴力的とか聞いたけど」

「あぁ、それはねぇ、村の外の輩で酒飲んで暴れた傭兵みたいなのに怒ったことがあるからだよ。この村バカにして店主に怪我させたんでねぇ。アストロ様はそれに怒って、傭兵を村から叩き出したのさ」


 なんだ、いい人なんじゃん。

 ベルドはおばちゃんの言葉に深く頷いた。


「なるほどねぇ。悪い人じゃないのか。何か心得があるんだね」

「槍がお得意でいらっしゃるよ。普段は棒持って村を警護してくださってる。護衛がついてるけど、正直護衛なんていらないんじゃないかね」

「強いんだな」

「そうだねぇ。気さくに声をかけてくださるし、性格もお優しい良い方なのさ」

「じゃ、弟の方は?」


 あれはダメさぁとおばちゃんは顔を顰めた。


「典型的なお坊ちゃんだよ。領主様に金をせびってねぇ。怒られて叩き出されてるのを何度か見たよ。あとあたしたちに対する態度がもうひどくて」

「横柄?」

「そうそう、偉そうなんだよ。金も払わずに出て行くことなんかしょっちゅうさ。その度に奥様が……、領主様が立て替えてくださってねぇ」

「前領主様は、旦那様はいなかったのかい?」

「亡くなったのさ、随分前にね。だから奥様が息子たちが大きくなるまで領を治めていらっしゃったのさ。旦那様には親兄弟は既におられなかったからねぇ。……旦那様は急にお悪くなられたものだからね。唐突だったから、仕方のないことだったのさ」


 うん?なんだろう。ちょっと含みのある言い方だけど。何か旦那様に事件でもあったのだろうか。


「実質、次男のアストロ様しかいなかったのさ。アストロ様が成人したところで継がせようとしたんだがねぇ。アストロ様は政治を専門に勉強しておられたからうってつけだったのに」

「横槍でも入ったかな?」


 そうなのさぁとおばちゃんは手招くような仕草をした。おばちゃん特有の仕草はどの世界でも共通らしい。


「ボウウェ様さ。正直、あの方が騒ごうと強引にアストロ様に決めてよかったと思うんだよ。でも村の権力者とかがね、大反対さ。どうやら買収していたらしいよ」

「ろくな息子じゃないね」

「そうさ。これで反乱なんか起こったらたまったもんじゃない。だから、領主様は亡くなるまで務められてね。こうして実力で勝負をさせようというわけなのさ。ご遺言だから権力者も文句は言えないからね」


 でもだよ、とおばちゃんは続ける。話は長いが、ベルドは気にする様子はない。


「あのバカむす……ボウウェ様だけどね。本当に性悪でさ。アストロ様より先に領主の印章を手に入れた暁には、アストロ様の婚約者のエンデナ様を妻にするって言うのさ」


 えぇー……。それは引くわぁ。


「アストロ様の婚約者と決まってるわけじゃないのかい?」

「そりゃ、正式に発表したわけじゃないけど、今はエンデナ様はアストロ様の恋人さ。間違いないよ」

「なのに領主になったら恋人をよこせって? そういう横暴は通らないと思うけどなぁ」

「本当にねぇ。あたしは恥ずかしいよ、あんなのが領主になったら」


 おばちゃんは喋るだけ喋って、ふとベルドのことが気になったらしい。


「あんたたちはアストロ様の友人か何かかい?」

「いや、新婚旅行中だったんだ。ここを訪れたことのある商人の紹介でね。一度訪れてみるべきだと言うから」


 すんごい嘘つくじゃん。でもおばちゃんはマキヨ嬢とベルドを交互に見て、人のいい笑みを浮かべた。


「そうかいそうかい。こんな田舎にねぇ。でもここは温泉が出るから、宿は全ての部屋にお風呂がついてるし快適だよ」

「それはいいね。商人からは綺麗なところだから是非にと言われて来たんだ。ただ門で聞けばこういうことになってるだろう? どうしてこうなったかなと思ってね」

「そうかい。来るなら領主様が生きてる時の方がずっとよかったねぇ」

「いや、でも私はものを探すことを生業にしているから、館へ行けばアストロ様の役に立てるかもしれないな」


 それはダメだよとおばちゃんはふんわり言った。


「印章を探している間は護衛以外、館に入っちゃいけないってルールさ」


 おい、やっぱダメなんじゃん。どうすんの、これ。

 ベルドは一気に真剣な顔をした。男前が二割増になる。


「奥さん、ここだけの話にしてほしいんだけどね。実はボウウェ様に呼ばれてきたのさ。探偵として呼ばれたんだ」

「なんだって?」


 おばちゃん警戒してるけど大丈夫?


「印章を探すように言われてきたが、こんな勝負をしているなんて聞いてないし、護衛以外、館に入れないなんてのも聞いてない。ただ印章を無くして困っているから探してほしいとだけ言われたのさ。随分おっちょこちょいな領主なんだなとは思ったけど」

「あー、あのバカ息子が言いそうなことだよ」


 ついにバカ息子呼ばわりになった。間違いではない。


「そうなると、私は館に入れないだろうね」

「そりゃそうさ。今だって、奥様の幽霊が出るって噂だよ」

「それはすごいな。どうして奥様の幽霊が?」

「アストロ様とバカ息子を案じていらっしゃるんだろうよ。かわいそうに。あんた、あのバカ息子なんかに手を貸したら、奥様だって安らかじゃいられなくなるよ」

「じゃあ、やめようかなぁ。元々乗り気じゃなかったし、どちらかというと新婚旅行の方が重要だからね」


 さらりとマキヨ嬢の手を取る。おばちゃんはそこは本当なんだねと思ったらしい。


「そうした方がいいよ」

「そうするよ。領主、じゃなくてボウウェ様には断りの手紙を送っておこう。ありがとう、お姉さん。ここで事情を聞いていなかったらどうなっていたか」

「いいんだよ」


 ニコニコ顔のおばちゃんに手を降り、行こうかとマキヨ嬢の手を引いて歩き出す。少々耳を赤らめていたマキヨ嬢がベルドに話しかけた。


「いいの? 噂になりそう」

「どの辺が困る?」

「探偵、のとこ」

「呼ばれたのは事実だし、印章を探すように依頼されているのも事実だ。館に入れないは本当に聞いてないからな。何も嘘は言ってないよ」

「でも探偵を呼んだって噂になるわ」

「なってほしいのさ。俺は知らなかっただけの新婚の探偵、マキヨ君はただ夫の仕事に同行した新婚旅行中の妻。村の噂は速いからな。知ってて来た探偵だと思われたら困るし、ああ言っておけば村人たちの俺たちに対する悪感情は減るだろ」

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