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2 — 6

 その村へは寝台列車に乗っていくことになった。少し遠いらしい。レイストはど田舎ですね、と言っていたけど。

 狭い客室は見慣れない。わー、ベッドが二段になってる。トイレとシャワーのついた個室だ。テーブルと椅子が設置されていて、めっちゃ狭い。


 荷物を置いて、二人は椅子に座った。ずーっと同じ話してんだよね。


「途中下車すればいい話なんだがな」

「降りません」

「叔父のとこはそんな嫌か? 祖父さんたちのとこでもいいぞ」

「お祖父様たちの方が疲れるわ」


 バレたかとベルドが笑う。まぁ、喧嘩しているわけじゃないんだよね。レイストが持ってきたこの話に、マキヨ嬢を加えたくないらしいベルドと絶対行きたいマキヨ嬢の攻防なだけで。


「おじいちゃんズのとこってそんな疲れる?」


 机に座ったわたしが言う。個室だからやっと喋れるといったところだ。今までは二人の堂々巡りな会話をずっと聞いてた。


「祖父さんたちはな、わしはどっちでしょうゲームするから疲れるんだよ」

「あぁ、双子だから?」

「執事が影武者だから三人な。当たるまでやるからな、あの祖父さんたちは」

「しかも単体で来るのよ。比べるなんて甘いと思われていらっしゃるのよ」

「一人だけほいと来て、だーれだって言うの?」

「そう。間違えたら出て行って、ほぼ同じ奴がまた来る」


 ホラーかよ。


「それ、ずーっと間違えたらどうなるの?」

「当てるまで帰れない」


 何かのテレビ番組じゃん。


「じゃあ叔父のとこでいいだろ」

「行きません」


 困りきったようにベルドは黙り込んだ。


 レイストの持ってきた話はこうだ。

 村の領主が亡くなった。女性だったらしい。

 息子は二人いる。兄は喧嘩っ早く手のつけられないような乱暴者。弟は母親に泣きつき金を無心するバカ息子。バカ息子の方が今回のレイストの客なのだという。


『正直、レイストは金払いが良ければ屑でも馬鹿でも構わないんだろ』

『言い方』

『事実だろ』

『否定はできませんねぇ』


 まぁねぇ。メリルアもそうだったしねぇ。

 領主の遺言はこうだ。印章を見つけたものを次の領主とする。いや、そこは長男さんじゃないのと思うのだけど、乱暴者だからかねぇ。


『いえ、バカ息子がうるさいからだと私は思いますねぇ』


 これはレイストの感想だけど。まぁ、色々あるのだろう。


 こうして印章探しバトルが始まったのだそうだ。亡き領主の遺した謎のお言葉は、『太陽が教えてくれる』。うわぁ、面白そう謎解きによくあるじゃん、と思ったのだけど、特にそれらしい物が見つけられないようで。


『まずはそれを探してほしいと』

『後継者争いの探し物に探偵使うのはフェアなのか』

『フェアじゃないだろうね。どういうルールになってるのかまでは彼、覚えてなかったから』


 それダメじゃね?とわたしでも思うけど。まずこれがベルドの気に入らないところらしい。


 そしてそのバトルの最中、夜中に幽霊が出るようになったそうな。これが亡くなった前領主らしい。廊下を歩く姿を多数目撃されていて、ふっと消えるとか。


『幽霊の調査を頼みたいと』

『悪さしないなら別にいいんじゃないのか』

『怖いんだそうで』


 バカ息子は、亡くなっていても母親に頭が上がらないらしい。


『それ、断ったら駄目か?』


 そう、ベルドは最初から乗り気じゃなかった。あまりの気のなさにレイストが苦笑いを浮かべたほどだ。


『ま、君なら気付くか。断っても構わないけど、少々私の看板に傷がつくかな』


 ベルドは視線を逸らした。そしてマキヨ嬢に尋ねる。


『マキヨ君はどう思う』

『私は……どっちでも構わないわ』


 うん、なんだろ今の含み。マキヨ嬢の顔を見ると、密かに彼女は目をキラキラさせていた。おや、もしかして旅行に行きたいのかな?

 うーんとベルドは唸った。ソファにもたれかかり、ぱっとマキヨ嬢の方を見た。


『マキヨ君、君留守番しないか。留守番するなら行っていい』

『幽霊調査は?』

『俺がなんとかすればいいだろ』

『留守番は……いやだわ』

『……そうか。リルはどう思う』


 え、わたしに聞くの?


『旅行は行ってみたい』

『仕事だろ』

『どうやって行くの?』

『列車ですよ。ど田舎なので寝台列車ですね。私が払いますよ』


 受けてくれますよね?とレイストはマキヨ嬢に尋ねた。マキヨ嬢はベルドを窺い見た。


『ダメかしら……?』


 くぅ!美少女のお願いのインパクトの強さ!あんなに目をキラキラさせて窺い見ながらお願いされたら、もう何でも買っちゃうってなるわ!

 ソファに頬杖をついていて考えるように黙ったベルドは、その美しい瞳を少し伏せた。諦めた感がある。


『あー……。分かった。じゃあ村には俺が行く。マキヨ君とリルは叔父のところへ行ってこい。ど田舎より楽しいだろ』

『留守番は嫌だわ。ね、リル』

『うん!』


 結託するとわたしたちのが強いんだよねぇ。


『いずれにしろ受けてくださるということで。手配しますね』


 レイストが笑いを噛み締めて言った。


 それから旅行の準備をしたんだけど、その間も度々ベルドはマキヨ嬢の説得を試みていた。で、今に至る。少々ベルドの方が諦め気味だけど。


「俺はマキヨ君に嫌われて愛想尽かされようかなぁ」

「留守番以外に嫌なことなんてないわ。あら、列車が走り出したわ」


 もう顔がワクワクしちゃってる。


「ねー、新婚旅行は行かなかったのー?」


 窓の外を見ていたマキヨ嬢が、ばっとわたしを見た。怖いよ。


「リル、言ってなくて悪かったと思うのだけど、違うの。政略結婚みたいなものなの」


 うん?とベルドもわたしを見る。


「言ってなかったか?」

「言ってないよ! めちゃくちゃびっくりしたんだから!」

「そりゃ悪かったな」


 そう言って、彼は悪びれもせずに、頬杖をついて窓の外に視線を向けた。わたしは身体を返して窓を見る。夕日に街並みが照らされて過ぎ去って行く。うわぁ、異国情緒がすごい。赤い屋根可愛い。時計塔が見えた。あの鐘はわたしたちの家にも聞こえる。


「マキヨ君、俺に何されたら嫌?」


 もはや聞くのか。しかし分からないでもない。マキヨ嬢は分かりやすいところは分かりやすいけど、どういう感情なのか分からないところは多々ある。結婚のくだりの必死さとか。


 マキヨ嬢は落ち着き払って首を傾げた。


「ベルドは私の嫌がることなんてしないわ」

「やろうと思えばできるだろ」

「私を殴れる?」

「それは無理だな」


 そもそもベルドも優しいから、マキヨ嬢を怒らせるのってめちゃくちゃ難しいんじゃ。

 わたしの見る限り、ベルドが一番大事にしてるの、マキヨ嬢なんだよね。他の人に対しては少々冷たいとも取れる口調だけど、マキヨ嬢だけ心持ち声色が優しいんだよね。表情もそうだけど。

 そのベルドがマキヨ嬢を怒らせるって言ったら。


「留守番させるのが一番じゃない?」


 今のところ。


「それをさせたいがために怒らせたいんだがな。諦めるか」


 ベルドは視線をマキヨ嬢に向けた。皮肉ったような挑戦的な笑みを浮かべる。


「いいように利用させてもらうよ」


 マキヨ嬢が黒い瞳を揺らす。慌てたようにベルドから視線を逸らした。


「う、受けて立つわ」


 大丈夫かなぁ。マキヨ嬢を見上げると、マキヨ嬢は動揺を隠しきれずにわたしのしっぽを握った。

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