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何の話、と本日二回目の言葉を聞く。わたしはほっとする。ベルドならなんとかしてくれるだろう。
コーヒーカップを並べるベルドに安堵したのは、おそらくわたしだけではない。マキヨ嬢もそんな顔をしている。
「このぬいぐるみ、随分連れ回して歩いてるそうですね」
「マキヨ君がな」
「彼女はそういうタイプではないでしょう?」
「気に入ったんだろ」
「その割には随分切羽詰まった表情をしておられましたよ、マキヨ嬢」
まぁ、確かに。ぬいぐるみの話なのにめちゃくちゃ真剣な顔してるのは間違いない。誘拐犯に人質取られたみたいな顔してるもんなぁ。受け答え間違ったら死ぬみたいな。
レイストは人の悪い笑みを浮かべた。
「これ、返してくださいと言ったらどうします?」
「こ、困ります!」
バレるバレる、その反応は!必死すぎるよ!思わず動いちゃうとこだった。
それだけわたしを必要としてくれているというか、家族とか仲間みたいに思ってくれてるんだろうけど。あと、食事のレシピとして……。
レイストの手がわたしを座らせる。レイストの膝の上なので、やはり人質のままだ。
「コーヒーが冷めますね。いただきます」
「どうぞ」
ベルドの方は動揺ゼロだなぁ。マキヨ嬢はわたしを凝視している。そんなに見ても何も出ないよ。コーヒー飲みなさいよ。
しかし動くわけにはいかないし。コロンと落ちてしまいましたぁみたいなことも、けっこう深く座らされちゃってるからできない。飛ぶと角度調整しても飛び出すのは間違いないから却下だし。
「じゃあこれはどうです?」
カバンからわたしがもう一体出てきた。
「こちらと交換しましょう。服とファスナーをつけますよ」
この場合、乗り移って喋れるかどうかだけど、まずは『びょーん』で抜けなきゃいけないんだよなぁ。レイストの前で豪速球並みに飛ぶ猫のぬいぐるみを見せるわけにはいかない。
ベルドはいつもどおりの表情と口調で尋ねた。
「レイスト。用件はそれ?」
「違うよ。でも面白くて。本当に何なんです?」
ベルドは明らかに面倒そうな表情を浮かべた。わたし?わたしのせい?ごめんね!でもベルドが一番頭回りそうなんだから何とかして!これ、どう誤魔化したら納得してくれるやつ?
「リル」
よ、呼んじゃっていいの?お兄さんに隠せって言われたじゃん!怒られるよ?
「返事」
「……はぃ」
我ながら蚊のなくような声が出た。レイストがぎょっとして周りを見回す。
「何ですか?」
「レイスト。その膝に乗っけてる人形は呪いの人形だ。子供の霊が取り憑いてる」
「えぇっ!」
レイストは何かいけないものを膝に乗っけてしまったみたいな反応をした。ひどい。
「リル、こっちへ来い。飛ぶなよ」
「はーい」
レイストの膝から滑り落ちる。ソファから床を経て、ベルドの足元に歩いて行った。ベルドの手がわたしを持ち上げる。ソファに座らせてくれた。
「動いてる……」
「ポジタリア家にいた幽霊が中に入ってる。あの事件で殺された子猫の霊だ」
「あぁ……あの。……猫って返事するんですね?」
そこ聞くんだぁ。
「子猫の前は人だったそうだ。人だったが亡くなり、気付くと子猫になっていた。生まれ変わったらしい」
「そして殺されたんですか?」
「そ、そだね!」
「喋る……」
絶句された。本当ならこういう反応されるんだなぁ。叔父さんとおじいちゃんズは面白がってたし、お兄ちゃんはビックリしてたから、多分普通の反応はこういう感じなんだろう。
「他では言うなよ。言わないだろうけど」
「え、どして?」
間抜けな声で聞いたわたしをベルドは見下ろした。面倒そうな色は消えていた。
「動く人形を見たと騒いで物が売れるなら喧伝するだろうさ。商人がそんなこと言っていようもんなら、大丈夫かコイツと思って俺なら関わらないようにするだろうな」
「そっかぁ」
「面白がる人もいるかもしれませんがね」
「ごく少数だろ。それにリルが黙ってれば、嘘つき呼ばわりされんのは目に見えてる。もしくは呪術師として知られるマキヨ君が呪いの人形だと言えば、関わり合いになりたくないと思うのが普通だろうな」
確かに。呪いって言われるとイメージ悪いよねぇ。おまじないとかだと悪い感じはしないけど、呪いはねぇ。呪いの人形なんかはまさに怖いとか不気味な感じがするし。髪が伸びるとか、動くとかまさに呪いの人形感満載だ。いつの間にか開いた襖から日本人形が覗いてるとか……いいよね。
「分かりました。言いません」
少々焦った雰囲気のレイスト。両手を上げて宣言した。ちょっと……レイスト引いてるよね?
「別に悪いことシナイヨー」
「邪なことを考えてたのね」
「考えてないよー、扉の隙間から覗いてたら怖いかなって思っただけー」
「呪いの人形を全うしようとするな」
マキヨ嬢の膝に登る。腕を伝って頭のテッペンを目指すわたしを眺めながら、レイストはおニューのぬいぐるみを振ってみせた。
「これ、いりますか?」
「控えになるかもしれないからちょーだい」
「金」
「ちっ、タダじゃないのか。ベルドにつけといて」
いいでしょうとレイストは笑った。勝手につけられる結果になったベルドはこの程度は気にしていないらしい。それでと話を進めた。
「レイストは何しにきたんだ。ぬいぐるみ売りにきたのか?」
「マキヨさんが連れ歩いてる話は聞いていたので、売れればいいなと思った程度さ。本題は別でね。探し物と幽霊の捜査を頼みたいんだ」
「幽霊ですか」
マキヨ嬢はわたしをべりっと引き剥がした。




