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多分わたしが人間だったら、表情を思いっきり崩しただろう。で、汗がだらだら出ただろう。ぬいぐるみでよかった。
しかしマキヨ嬢の方はそうはいかない。焦った顔を隠さずに、普段は色白で綺麗なお肌がほんのり上気する。
「あ、あの」
「まぁねぇ。あなた、結婚式でもそういう顔したものねぇ」
けっ!け、けっ・こん・しき!
「誓いのキスで真っ赤になってたじゃないの」
誓いのキッスゥー?!
待て待て待て待て。ベルドはマキヨ嬢のこと相棒って言ってたけど、妻っていう意味の相棒?そりゃね、気になってたよ?相棒って言ったけど一緒に住んでるからさ。そりゃ部屋は別だよ?2LDKだもんね、この部屋。でも普通に一緒にご飯食べて、お風呂とかも共用だしさ。洗濯とか料理とか一緒にやってるから、同居人なのかなって思うじゃん。
大っぴらに聞けないしなーと思ってたら。まさか!
「お、お姉さま」
マキヨ嬢が弱すぎて制止になってない。視線がちらちらこっちに飛んでる。バレるよ!
お姉さんはマキヨ嬢が恥ずかしがっていると思ったようだ。間違ってないけどね。
「大丈夫よ。あなたはちゃんとベルドのことが好きでしょう? ちゃんと伝わってると思うし、ベルドなら優しいもの。今時とてもジェントルよね。まずはそうね、あなたの場合は手を繋ぐところから始めるといいわ」
よく分かってるね、お姉さん。普通にマキヨ嬢が恋愛するなら、そうなるだろうし。馬鹿にした口調じゃないもんね。もう本気で恋のアドバイスしてくれてるじゃん。
でもちょっと待って色々と情報量が!人形のフリっていうのも精神力使うんだからやめて、動揺させるの!落ち着け、落ち着くんだ。素数を数えたら落ち着くって前世で言ってた!そう、素数を……えっと、2!3、5、7、落ち着く?これ。落ち着いたことなかったわ!上級者向けなんだろう、きっと。
ちょうどベルドが入ってきて、どうぞとお姉さんの前にお皿を置く。フォークとスプーンを受け取り、彼女はにっこりとベルドに笑みを向けた。
「ありがとう」
ベルドは食事を再開する。ちらりとマキヨ嬢を見た。
「冷めるよ」
「そ、そうだった」
マキヨ嬢の様子がおかしいのは多分気付いているだろうけど、何も言わなかった。
お姉さんは一口お上品に食べて、美味しいわと目を輝かせる。
「マキヨは天才ねぇ」
否定したいけど否定できないって顔してる。わたしに操られて作ってるようなものだけど、実際作業するのはマキヨ嬢たちなんだから、そんな顔しなくたっていいのに。
「仲が良さそうでよかったわぁ」
お姉さんはぱくぱくとパスタを食べていく。一口だけ口つけて残すようなタイプじゃないんだ……。いかにもそう、前世で見た悪役令嬢感というか、綺麗な分お高く留まってそうな見た目だからかな。もういいですわ!くらい言いそうな高貴な雰囲気だけど、実際のお姉さんの食べっぷりはいい。
パスタを綺麗に完食して、お姉さんは帰っていった。嵐のようなお姉さんだ。
扉が閉まり、足音が遠ざかっていくや否や、マキヨ嬢は駆け戻ってきた。
「あ、あのね、リル、違うの!」
「お。おぅ」
「何の話?」
ベルドが後ろから声をかけた時だ。再びドアノッカーの音がした。
「うちじゃなきゃいいんだけどな」
お皿を片付けながらベルドが言う。
しかし残念ながら、再びノックが響いた。




