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2 — 1

「はい、ではここでニンニクを入れます」


 ベルドが刻んだニンニクをフライパンに入れる。マキヨ嬢が真剣な顔でニンニクを炒め始めた。わたしはマキヨ嬢の肩に引っかかり、炒め具合を眺めている。匂いが分からないから目で確認する方がいいのだ。


 なぜ死神探偵がニンニクを切り、助手の霊媒師が炒め、呪いの人形が監修して料理を作っているのかというとだ。

 この二人が全く料理ができないからです!ベルドに至っては食べることすら忘れるという不健康っぷり。わたしにはそれが許せなかった。


 料理はできないのと戸惑うマキヨ嬢に包丁を持たせ、とりあえず包丁に関しては彼女は危ないと結論づけた上でベルドを巻き込んだ。ベルドは叔父さんから書類仕事を任されているらしく、それにかかりきりになると食事が飛んでしまう。

 だから、まずはそこから引き離す作戦に出たのだ。マキヨ嬢がにんじんを哀れな姿にした腕前を十数秒見ただけで、ベルドは彼女から包丁を取り上げた。


「ベーコン入れて」


 ベルドがベーコンを入れる。ベルドの方が器用なんだよなぁ。何やらせても上手くやるんだけど、彼一人にやらせると負担が大きいからなぁ。マキヨ嬢は一生懸命やるけど不器用なんだよなぁ。でもそれが可愛いんだけど。あと最後までちゃんとやろうとするのは偉い。


 ベーコンがカリカリになるまで炒める。この世界、わたしがいた前世に比べて昔の世界のようではあるけれど、共通してあるものはある。時代設定どうなってんだろうと思うけれど、わたしは歴史なんか詳しくないし、詳しかったとしても猫が間に挟まってるからいまいち覚えてない。知らん知らん。

 ちなみにお味噌なんかはない。似たようなのはなくはないけど、味が分からないから使いにくいので使わない。


「ワインを入れて。スプーンで計ってね」


 ベルドがスプーンをふるふるさせながら計っている。ワインはボトルだから、だばーって出るよね。うん、だばーって入ったけど気にしない。


「それでいいよ。じゃあトマトね。ベルド、お塩入れて。ちょっとね、ちょっと。そうそう。ストックキューブを半分よりちょい多めに」


 ストックキューブってのはブイヨンのことらしい。固形で見た目は見たことあるやつ。


「これくらいか?」

「いいよー、入れて。ぐつぐつしてきたら、ナス入れてね。じゃマキヨ嬢、パスタを茹でる用意をしようか」


 料理してると二人とも真剣すぎて喋らないんだよなぁ。最初は料理するのかい?みたいな戸惑いと面倒そうな雰囲気があったけど、わたしの言うとおりに作って美味しかったらしく、それ以来めちゃくちゃ真剣に作るようになったんだよね。

 わたしも料理のプロってわけじゃないし、前世は得意なわけでもなかったけど、二人が喜ぶならと献立を考えている。


「マキヨ嬢、味見してごらん。その小さなスプーンでね」


 マキヨ嬢はそっと桜色の唇にスプーンを運ぶ。


「薄い、の、かしら」

「ちょっと煮詰めると思って薄めでいいよ」

「分からないわ」


 味見しすぎで味分からないならわたしもあったけど、初っ端から分からなくなるマキヨ嬢。煮詰めて味がどうなる、って分かりにくいよね。


「ベルドも味見して」


 マキヨ嬢はスプーンでソースを掬うと、ベルドの口元へ持っていった。あーんですね、分かります。でもこの二人がやってると全然そういう感じじゃないんだよなぁ。残念。

 ぱくりとスプーンをくわえたベルドは小さく唸った。


「まぁ、いいような気がする」

「じゃ、いいでいいよ。濃くなるより薄い方が。後で足せばいいんだよ、店で出すんじゃないんだし」


 そうだねと二人は納得する。使ったスプーンを洗い出すマキヨ嬢。ちなみに二人とも手が空いた方から洗い物をし始める几帳面だ。


 パスタをお湯に入れる。そんなに早く出来上がるパスタじゃないはずだが、お湯の中でパスタが踊っているのを二人で真剣に眺めている。


「ソースかき混ぜよっか」


 マキヨ嬢がハッとして、ソースをかき混ぜ始めた。ガチで忘れてたね?危ない。

 最終的に味を整えて、茹で上がったパスタに絡めて出来上がり。わたしが考えたレシピじゃなくてネットとかで見たやつだけど、前世ではすごく作ったから覚えてるんだよね。美味しかったんだよ。


 いただきますと二人で手を合わせる。この辺はマキヨ嬢に合わせているらしい。

 わたしはマキヨ嬢の肩から腕へ、そして机へ降り立った。作ってもらった窓際の特等席に座る。


「どう?」


 マキヨ嬢の幸せそうな顔。この子、美味しいものは分かりやすい顔をする。普段は無表情だし、冷たそうな印象が強いんだけど案外と中身は年相応に女の子だ。

 逆にベルドはほとんど顔に出ない。ただ、美味しいものは無言で食べ進めるので美味しいと思っているかどうかは分かる。今日のは当たりだったようだ。


 しばらく無言が続く。とても静かだ。わたしは食べるのを見ているだけだけど、ちょっと幸せになる。お腹は空かないし食べたいとは思わないんだけど、二人が美味しそうに食べてくれるのってすごくいい。


 その時だ。ドアノッカーの音。誰かが訪ねてきたらしい。ドアがノックされる。途端にベルドは緊張感のある顔で玄関につながるドアを見た。


「俺が出る。リル、喋るなよ」


 今日はお客さんが来る予定はなかったはずだ。わたしはちゃんとぬいぐるみのふりをして座りなおした。動かずにいるのもけっこう気をつかうんだけどねぇ。……おや、にぎやかな声がやってくる。

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