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 まずは事件の話からしましょうとベルドは提案した。新聞には大まかな情報は掲載されたけど、宝石のことなんかは載ってない。わたしのことまで説明しないといけないようだから、細かいところまで話しておかないといけないんだろう。


「あの遺体を見た時、怒りに駆られたものという感じがしました。その割には、血を被らないようにする工夫はやけに冷静でした」


 大方の状況を説明した後、ベルドはそう言った。


「しかし宝石箱に関しては随分とザルな印象が強かった。その時点で殺人とは別人によるものだろうと判断しました」

「お前の話に聞く限り、ナイマー殿は自白してるようなものだな」


 フィーズがメモを取りながら口を開く。そうですねとベルドは頷いた。


「数億の価値のあるネックレスが盗まれているかもしれないのに、確認しにいこうとする様子すらない。反応からは無くなっていることは知らなかったようですが、誰が持っていったのかを知っているから確認もしないのでしょう」


 そう、やはり盗ったのはカナリアだったのだ。


「午後より少し前、カナリアさんはメリルアさんの部屋を訪れたようです。そして彼女が殺されているのを発見した。これ幸いと鍵束をサイドチェストから取り出し、宝石箱を開けてネックレスを奪う。どうやら以前から見せびらかされていたようで、悔しい思いをしていたようです」

「次の夫人だからもらって当然と思ったかの?」

「そのようです。この時に彼女は生乾きの血を踏んでいます。宝石箱に手が届かずに猫のクッションが置いてあった台を踏み台にしたので、クッションには微かに乾いた血の痕が残っていました。ネックレスを奪い、鍵はかけずに元に戻します」


 その辺、雑なカナリアらしい。メリルアがあれほど鍵の確認をさせていたっていうのに、どうして鍵の一つくらい閉めていかないのか。十中八九、ネックレスに夢中になったのだろうけど。


「そして部屋の外に出ようとして、ふと誰かに見られてはまずいと思ったようです」


 階下には人がいた。食堂にレイストとクロヴィス。シェリエが居間で片付けをしていたのにカナリアは気付いていて、そのことが頭にあったのだろう。


「彼女はメリルアさんの黒い服を着て、それまで着ていた自分の服をクローゼットに残して外に出ました。その際、その日に買ったブローチを落としています」

「雑だのー」

「雑です。そしてシェリエさんがレイストの部屋へと掃除に向かうのを見計らい、食堂側の階段を降ります。食堂側に顔を向けなければ、少々不自然ですが顔は見えません。カナリアさんは玄関ホールへ向かい、食堂にいるレイストはその後ろ姿を見て、服装と体格と髪色でエスタさんだと判断しました」

「似てるのか?」

「パッと見た感じで、後ろ姿なら。身長も髪色も似ています。咄嗟に変装、というかエスタさんになりすまそうとしたようです。別のところで、シェリエさんにはバレてしまっていましたが」


 なるほどねぇと叔父さんはティーカップを持ち上げた。ワイルドなわりに所作は美しいものだ。ザ・貴族って感じ。


「玄関ホールと広間を通って廊下へ、そして自室に戻ったのか。となると、ネックレスはその汚い部屋のどこかにあったんだな」

「絡まったネックレスの下に隠してあるようでしたよ。それを指摘したら真っ青になってたので」


 指摘したんか。マキヨ嬢と揃って、じっと眺めると、ベルドは視線とこちらの言いたいことを汲み取ってくれたらしかった。面倒そうに言い足す。


「犯人を告発しろとカナリアさんに言われてな。だから、あなた方がしたことも明らかになるが良いかって」

「脅したのだな」

「それくらいはせねばな」


 おじいちゃんたち……。脅しはよくない。まぁ、ベルドのことを知った後なら告発しろと言う方がどうかしているけれど。


「まぁ、そういうことです」

「で、メリルアの部屋に残してきたクローゼットの服はどうしたんだ」


 お兄ちゃんだけめちゃくちゃ真面目に話聞いてくれるなぁ。めっちゃメモ取ってるし。


「部屋に戻って宝石を隠し、黒い服を着替えてカナリアさんはナイマーさんの元へ向かいました。ナイマーさんは話を聞き、堂々と二階へ上がります。彼が堂々と二階へ上がれたのは、その時間帯はメイドたちが休憩時間であることと、レイストたちが自室に戻っていないことを知っていたからです」

「レイスト殿の所在はどうやって知ったのだろうな?」

「カナリアさんからの報告と習慣でしょうかね。レイストたちはいつも一緒に昼食を食べると言っていましたから。その時間帯には戻らないことを知っていたのだと思います」


 コーヒーまでがセットのようだったから、レイストもクロヴィスも一人でご飯を食べるよりも時間がかかっていたに違いない。


「何しに行ったんだ」

「確かに死んでいるのか、確認しに行ったようですよ。そのついでにカナリアさんの服を回収したんでしょう。ただ、同じ色同じデザインの服が二着入っているのに気付かずに、間違えてメリルアさんの服を持っていってしまいました。カナリアさんはエアークローゼットなので丈が違うことに気が付かなかったようです」


 エアークローゼットて。つまり放りっぱなしってことだね。ぐっちゃぐちゃだったもんなぁ、カナリアの部屋。服がハンガーにかかってないんだから、丈が違うなんて気が付くわけない。

 逆にあの黒い服も同じことだったのだ。確かに最近着て放り出した服ではあったのだけど、着ていなければ丈が長いことはわたしたちには分からない。一着くらいメリルアの服があってもバレないだろうと思ったのだろう。

 いや、バレてるんだけど。


「そして部屋の鍵だけ持って外に出たのか」

「そうですね。どの鍵が部屋の鍵かを知っているのはナイマーさんですから」


 犯人が意図しない密室が出来上がってしまったのだ。


「よくそれでベルドに依頼したな」

「殺しの犯人だけ分かればいいと思っていたんでしょう。彼も雑なんですよ」


 ある種お似合いのカップルではある。そういえばディジエが言ってたっけ。ナイマーはカナリアの部屋で寝てるって。あの部屋に耐えられるってことだもんね。すごく……お似合いです。


「では殺されたのはその前ということだな」

「そうですね。犯人はジェナでした」


 新聞には少女を殺人容疑で逮捕、と書かれている。

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