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馬車で移動した先も大きなお屋敷だった。さっきの大豪邸よりは少々小さいけれど、これくらいの方がまだ落ち着く……ことはない。やはりデカい。
居間には二人のそっくりなおじいちゃんが待っていた。双子らしい。よく来たなとベルドとマキヨ嬢を歓迎する。フィーズも久しぶりだなと声をかけているから、彼とも仲が悪いというわけではないようだ。
メイドさんたちがせっせとお茶の用意をしている間、男がおじいちゃんたちに経緯を説明している。『びょーん』を見せてほしいというので、マキヨ嬢が立ち上がった。
この『びょーん』はぬいぐるみに取り憑いたわたしが離脱することによって、入っていたぬいぐるみを飛ばす技だ。技っていうか、なんかできるようになったやつ。わたしが抜ける衝撃でぬいぐるみが飛んじゃうんだよね。で、飛んだぬいぐるみに再度入れば、わたしは飛んだ先で動けるというわけだ。
全員メイドさんを下がらせると、マキヨ嬢はやっちゃいなさいと言った。お供のいるどこぞの何かみたいな言い方だな。前世でしか通じない……いや、前世でも通じるかは怪しいかもしれないけど。
「びょーん!」
大変間抜けな掛け声だ、我ながら。でも、これ以外の掛け声では離脱できないのが分かってるので仕方ない。そしてぬいぐるみの飛ばす方向はコントロールできるけど、速さはコントロールできない。常に豪速球だ。
ベルドめがけて飛び、わたしは宙に浮いて、ぬいぐるみに吸い込まれるように入魂する。ベルドはこの数週間でわたしをキャッチできるようになっていた。まぁ、わたしが悪戯して飛び出すのに対応しまくった結果だけど。
ベルドはわたしの顔を掴んだ。
「顔掴むのやめてくんない?」
足と手を踏ん張って離してもらおうとするけど離してくれない。最近、勝手に飛び出たらこうして怒られるんだよねー。わたしの耳には、おじいちゃんたちのすごいすごいと喜ぶ声だけ聞こえている。
「その人形は何か、まず説明してもらおうか」
ようやく手を離してもらえた。ベルドの膝に座らされる。
「最初の依頼、勝手に鳴く猫のぬいぐるみですよ。その中にポジタリア家で彷徨っていた霊が入ってます。ある種、呪いの人形です」
「その言い方やめろ!」
ベルドはわたしを見下ろして、ようやく笑った。朝から全然笑わなかったもの。よかった。
「名前はリルと言います」
ワイルドな男がへぇと興味津々にわたしを眺めている。
「じゃあ私たちも自己紹介した方が良いのかな? 私はロデリド・ウォルダール。ベルドの父親の弟、ベルドからすると叔父だな。ベルドの血のつながらない兄のフィーズ、ベルドの祖父のフォルティとフォルツァ。ジジイたちはどっちがどっちか分からんから、呼べば返事する」
雑だな、おじいちゃんの扱い。おじいちゃんたちは気にしてないようだけど。
おじいちゃんたちは揃ってベルドに尋ねる。
「どうしてこうなったのかな?」
ベルドは苦笑いを浮かべた。そして密かにベルドをよじ登ろうとしていたわたしを引き剥がし、マキヨ嬢に預けた。




