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「降霊術をやってみましょうか」
わ、面白そう!わたしは考えを中断して立ち上がった。わたしもやりたい!
ベルドの提案に、明らかに使われた様子のない椅子に腰掛けたレイストが顔を上げた。
「ここで?」
「えぇ、ここで」
シーツに囲まれ、黒い服が三着、白いエプロンが四枚、マキヨ嬢の服と男性陣のシャツとズボンが五人分。あとは肌着やらシャツやらが干されている庭。
レイストは首を傾げた。
「君は緊張感のない探偵ですねぇ」
「そうかもしれません。でも本人から何かしらの話を聞けたらいいでしょう?」
「そうですね。犯人の名前でも出ればね」
ここにおられましたかと後ろから声をかけられる。シェリエとジェナだった。
「もういいんですか?」
「もういいといいますか、ルルとディジエだけで十分と言いますか。お昼をとっくに過ぎていますので、エスタが今お昼を作っています」
「そういえばお腹すいたね」
クロヴィスが懐中時計を取り出した。なるほど、お昼は過ぎている。
「マキヨ君、降霊会は後にする?」
マキヨ嬢は首を横に振った。
「今ちょうどいい人数だから。メリルアさんを呼び出してみます」
手を繋いで、とマキヨ嬢が指示し始めた横で、わたしはあることに気付いて思いっきり動揺した。面白そう!じゃないのよ。
そうじゃん、わたしじゃん。ちょいちょいわたしがメリルアだってことを忘れるんだよねぇ。だとしたらこれ、わたしがマキヨ嬢に乗り移るってこと?
あ、ちょっと待ってほしい。全然心の準備がなってない。だってモブ、いやザコだし。そもそもなーんにも思い出してないけどいいのかね。話すことなんて……。いや、あるか。もうめっちゃ謝んなきゃ。平謝りに謝んなきゃ。
いやぁ、でも照れるなぁ。わたしは思わず顔を両手で包む。初めて目立つんじゃない?ここへ来て。そりゃ、誠実にお話したらいいかなーとは思うよ。でも緊張しそう。今まで目立ってないもんね。
椅子に座るマキヨ嬢を真ん中に、他の人たちが手を繋いで輪を作っている。かごめかごめみたいだ。
「手を離すと霊が帰ってしまうのかい? へぇ」
「じゃあ手を離すのは良くないのでしょうか。マキヨ様としては」
「別に手を離しても霊が抜けるだけなので、何の問題もございません。それ以上、話は聞けなくなるだけです。何度も呼び出すことは私にはできないので、その点だけご留意ください」
わぁ、どうしよう。ドキドキするんだけど。
マキヨ嬢は手を組む。メルリア・ポジタリアさんと名前を呼び、ぴゅーうと口笛を吹いて目を閉じた。
ふっと、マキヨ嬢が目を開ける。そして口元だけが動いた。
「何よ。何よこれ! 何なのよ!」
マキヨ嬢とは明らかに違う口調。マキヨ嬢の前に立っていたベルドを見て叫ぶ。
「誰よ! わたくしはあんたみたいなのは知らない!」
あ、あれ?あれぇ?ちょっと、ちょっと待ってくれない?それ。
それ誰?
マキヨ嬢、違う人召喚してるよぉぉぉぉぉー!うおぉぉぉい!
ぴょんぴょん飛んでアピールしてみるが、そういえばマキヨ嬢以外には誰も見えないんだった。意味がない。
誰、誰それ!先住民いるじゃん!それメリルアじゃないよー!
もちろん届くわけもない。ベルドが先住民に話しかける。
「メリルアさん。お話しましょう」
「シェリエ、追い出して! 追い出しなさいよ! 早く! 何ぐずぐずしてるのよ! この間抜け!」
ベルドと手を繋いでいたシェリエが驚いた様子で身体を引く。無表情でシェリエの手を取っていたジェナが、パッと手を離した。マキヨ嬢が椅子にもたれかかる。支えたベルドを咳をしながら見上げるマキヨ嬢。絵になる。
「今の人、喉が乾いちゃう」
「そう。せっかく呼び出してもらったけど、話を聞けるようなタイプじゃなさそうだったな」
シェリエが青ざめたまま、マキヨ嬢を見ている。
「今のは……、今のは奥様でしたね」
はぇ?あ、そうなの?
「間違いなくあの物言いはそうだね」
クロヴィスが太鼓判を押す。
「もう少し理性はあったかのように思いましたけどね。いや、ああいう感じだったかな」
これはレイスト。
そう、三人とも今のがメリルアだと認めている……。
んふ、と思わず笑いがこぼれた。ちょっと、わたしって何?
最初は子供だけど夫人に転生したんだと思った。次に殺人犯。そして被害者の幽霊。
全部違うんかーい!
ほんとショックなんだけど。そりゃまぁ、よかったなと思わないこともない。だってメリルアめっちゃ嫌な奴じゃん。わたし記憶ないけどそんなだったのって思ってたから、そりゃ違うならいいよ。いいけど。
じゃあわたしは何って考えた時、まったく答えが出ない。謎の幽霊に転生してるじゃん。何、この家。幽霊多頭飼いしてるじゃん。ややこしいことしないでよ。わたし、ずっとメリルアだと思ってたのに。もはやモブですらない。ザコというかそれ以前というか。もはやこの殺人事件にすら絡んでないってことじゃん。
急に不安になる。わたしって何?
座り込んで、ぼんやりと洗濯物を眺める。大人用の黒のスカートが三枚。マキヨ嬢のワンピース……。
おや!?
わたしは腕を伸ばした。このわたしの着ている服、大人用の黒いスカートとデザインが同じだ!わたし、エプロンはしてないけどメイド服着てる!今まではただ黒い服だとしか認識してなかったけど。どうして気付かなかったんだ、わたしメイドだったのか!
あ、いや、メイドは誰も死んでない。メイドじゃないな。そもそもメリルア以外、他に誰も死んでないんだった。うぅーん。
じゃあアレか?前世で言う座敷童みたいなものとか?メイド服着た座敷童ってどうなの?この国の座敷童はメイド服着てるのがメジャーなのか?
座敷童って子供が一緒に遊んでたり、大人が数えたら一人多いとかだよね。でもわたしの場合、マキヨ嬢にしか感知してもらえてないしなぁ。
確かにマキヨ嬢は今まで、わたしを『幽霊』だとは言ってないように思う。でもわたしに関して話をしている間は、他の人が幽霊として扱うのと同じように発言していたように記憶している。だから幽霊なのは違いないのだ。
つまりわたしは!
謎の幽霊に転生しましたぁ。




