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「シェリエは? どうなの?」
「私は孤児院出身ですから、帰るところもないので。お給料は全て、孤児院の先生に送っています。ただ……今、エスタとジェナの話を聞いて思ったのですが」
シェリエは深刻そうな顔を隠さない。
「仕送りの手紙は奥様に託していました。全員分まとめて出すから、と。もしかしてお金を抜かれていないでしょうか」
「えっ! えぇ、冗談じゃないよ! ……弟からの手紙に、いつもお金ありがとうって書いてあったから、届いてはいるはずだけど」
「少しのお金を残して送るのよ。私は先生宛に送っていたけど、いくら送ると書いたことはないの」
ルルはハッとして机を見た。ちょっとごめんと部屋に入ってくる。手紙の束を取り出した。束を解く。その中から何通か取り出した。
「弟がやたら安い豆を買ってたのさ。節約のためだと思ってたんだけど、ほらここ」
マキヨ嬢が手紙を覗き込む。
「『姉さんの送ってくれたお金で、豆を買いました。数週間は保ちそうです。ありがとう』」
「この時の豆は豊作でやたら安かったんだ。あたしが送った金なら数ヶ月分買えたはず。この時は、節約のためにおかずか何かに豆を買ったんだと解釈したんだよ」
それとこれ、と違う封筒を開ける。二枚の便箋。一枚目が短い。
「書き損じて切ったのかと思ったんだけど、文章がつながらないんだ。この時、弟はあたしの手紙を濡らしたって書いてきたんだよ。だから紙幣は大丈夫だったかって思って、お金は大丈夫だった?って返事したんだ。その返事がこれで」
どれどれ?あぁ、便箋の最後のところか。
「『手紙はすごく濡れて姉さんの字は滲んでしまったけど、大丈夫です』」
マキヨ嬢が二枚目を見る。
「『大変だったね』」
「大変だった? 何のことでしょうね」
シェリエが顎に手をやり腕を組む。探偵顔負けのポーズだ。
「『紙幣が入っていたら』大変だったね」
ぞくっとするような、冷ややかな声。ベルドだった。
ルルは驚いた視線を彼に向け、そしてその言葉の意味を理解して手紙を床に叩きつけた。
「あの女ァ! 紙幣を抜いてやがった! 手紙も全部読んで、都合の悪いことが書いてあったら切り取ってたんだ! なんてこと……! 弟たちがどんなひもじい思いをしていたか!」
ルルはゆっくり顔を上げた。怒りをたたえた表情のまま立ち上がった。
「絶対に取り立ててやる……! 全員分耳揃えてきっちりねェ!」
うん。その勢いで行けば、ナイマーは絶対に嫌だとは言えないだろう。
うおぉぉと駆け出すルル、ディジエがルルをサポートしてきますねと後を追う。シェリエがため息をついた。
「ああなるとルルは止められないでしょうねぇ。ベルド様、私はルルの応援に向かいます。私の部屋はご自由にご覧ください。ルルとほぼ同じですから。エスタとジェナはどうします?」
「あたしも、まぁ参加しようか。ベルド様、あたしの部屋も自由に見とくれ。ジェナ、どうするかい?」
ジェナは迷ったようだが、行きますと小さく答えた。
「ではジェナの部屋もどうぞ。行きましょうか」
三人を見送る。ほぼ最初のメンバーに戻ってしまった。
「殺人事件が起きているというのに、どうも緊張感のない……」
「今の彼女たちの場合、起こった殺人より自分のお金というのは当然ですよ。この先はどうなるか分からないのに一文なしではやっていけません。最優先にもなりますよ」
「ベルド君、止めなくてよかったの?」
「止めると私が取り立てられそうですから」
ベルドは笑って、マキヨ嬢を手招きする。
「次の部屋に行こう。許可はもらってあるからね」
しかしシェリエ、エスタ、ジェナの部屋は、シェリエの言った通り、クローゼットに一着も服がなく筆記用具くらいしか持ち物のない状態。ルルの部屋と同じ状態だったのだ。
ほんの少しの違いがあるとすれば、シェリエの部屋には小さな時計が、エスタの部屋には小さなお酒のボトルと大量の安物の紙の便箋が、ジェナの部屋には猫の毛が落ちていたことくらいだった。
驚くほどのもののなさに、レイストが暗い顔をして呟いた。
「これは殺したくもなるかもしれませんねぇ」
「……僕は犯人を責められない気がするよ」
クロヴィスが心配そうに天井を見上げた。




