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 僕じゃないよぅとしょんぼりするクロヴィスを、分かってますよとルルが応じる。シラフで絡むその姿は構って欲しい大型犬みたいだ。

 三階、二階の客室を全てさらっと回って、今度は地下に来ていた。何を探すのか、とルルに聞かれて、ベルドは使っていない方のナイフとナイフの木箱と答えた。確かにメリルアの部屋にはナイフも木箱もなかった。

 ルルとシェリエが揃って怪訝な顔をする。


「まだナイフがあるんですか?」

「あら、少し怖いね」

「あ、そういう捜索だったんですか。どれくらいの木箱です?」


 ディジエの部屋は説明する前に調べたらしい。クロヴィスが手で大きさを示す。


「木箱はこれくらいかなぁ?」

「そこそこ大きいね。ナイフもそのくらいの大きさかい?」


 エスタが誰ともなく尋ねて、レイストが答える。


「その箱に真っ直ぐ収まるくらいのナイフです。元はと言えば飾り物ですからね。実用的なものとは違って派手ですし、見れば分かりますよ」


 女性陣の部屋はまずはルルから、ということになった。


「私が女性の部屋を調べるのは抵抗がありますから、マキヨ君に見てもらいますね」


 と、ベルドが宣言し、マキヨ嬢とわたしが部屋の中を調べている。というか、カナリアは女性扱いじゃなかったんか。……まぁ、あの汚い部屋じゃなぁ。

 今、ルルの部屋の前にはベルド、レイストとしょんぼりするクロヴィス、部屋の主ルル、責任者ディジエ、野次馬のシェリエ、ジェナ、エスタ。ほぼ全員揃っちゃって。メリルアの用事がなければ、余程暇らしい。

 静かにロッカーみたいな細いクローゼットを開く。ハンガーがかかっているだけで、他には何も入ってない。


「何も入っていません」

「制服とエプロンは洗濯したし、もう一着はあたしが着てるもの」

「私服はないんですか?」


 ルルは嫌そうな顔をした。


「あるわけないじゃない。出かけられないもの」

「実家に帰るとかでも?」

「許してもらえないのよ、奥様に。あんたが実家に帰ってる間、わたくしが不自由してもいいと思ってるの? ですって」

「そりゃ大変だ」

「そうなのよ。仕送りしてるからね、ここから郵便で送って。弟たちがちゃんと暮らせてるか知りたいじゃない。でも数時間で帰ってくるって言ってもダメ。どうせ逃げるんでしょって言われて却下よ」


 ねぇと横にいたディジエに話を振る。そうだねとディジエは苦笑いで返した。


「奥様はとにかく束縛が強くて。私も妻に何年も会えていません。前に一度、妻が来てくれたんですが、玄関先で話をしていると珍しく奥様が降りてこられて。執事がいないと回らないことがあるから一年中ここにいてもらう、帰れと追い返されてしまいまして。手紙のやりとりはしていますが」


 土下座しても足りないくらい申し訳ない。なんでそんなだったかなぁ……。身に覚えがないから人ごとで更に申し訳ないんだけど。

 悶々としながら、わたしはルルのベッドと机を見る。ベッドの下には何もない。マキヨ嬢が引き出しをあけるけれど、ペンが一本とインク壺、そして安っぽい紙の便箋と封筒しか入ってなかった。次の引き出しには手紙の束。

 あとは小さな棚には下着や地味な髪留めが入っているだけで、他は驚くほどに本当に何もない。


「エスタのお給料は何に使うの?」


 何気なく尋ねたルルにエスタは大きな身体を縮めた。落ち着きなく、茶色の前髪を額の端に避ける。


「ええと、それがねぇ。『あんたはよく食べるんだから、その分お給金から引く』って言われてねぇ。ほとんど手元にないんだよ」


 全員が絶句する。しかもとエスタは恥ずかしそうに続けた。


「調理器具は壊れたり、劣化したりして使えなくなったりするじゃないか。そういうのもあたしの不備ってことで、自分で買ってるんだ。だから貯金がなくてね」


 はぁー!?なんだよ、ブラック企業じゃないかぁ!


「お金のことはお互い話をしませんでしたからね。とはいえ、調理器具に関しては、私が奥様に申請したはずなのですがね。お金はエスタに渡しておくとおっしゃってたんですが?」


 ディジエが普段の表情に、静かに怒りを滲ませている。そりゃそうだ、その分エスタに払わせて金はちょろまかしてんだもんね。


「ナイマーに請求しておこうね、エスタ」

「あ、ありがとう、クロヴィス様」


 本気出した大型犬みたいになってる。さっきのしょげた姿はどこ行った。


「ジェナはどうなんです? 家に仕送りをしたりしているんですか?」


 ジェナはレイストに透明な視線を向けた。


「私は、お家がないので」

「え?」

「火事でみんななくなってしまいました」


 うわぁ、泣きそうだよ!なんて辛いんだ。


「じゃあお金が貯まりそうですね」


 お金儲けを考えてるような口振りではなく、ただ優しくレイストはそう言った。けど、ジェナは首を横に振った。


「分かりません。奥様が、送るところもないのだから預かっておく、と。私は使わないから、あまりなくても困らないんですけど」


 後ろにいた大人たちの怒りに燃料を注いだことは十分に分かった。


「それは……旦那様に申し上げておきましょうね、エスタの分と一緒に」

「お金の管理はメリルアがやってたからねぇ」

「尋ねてよかったですねぇ」

「そうですね。ありがとうございます、レイスト様」


 本当にすみません。こんなことして。反省します。覚えないけど。

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