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 シェリエがふとベルドに視線を向けた。


「あの、朝、温室にいらしてましたよね」

「えぇ。洗濯物をお願いするついでに、昨日入れなかった温室に入ってみたくて」


 わたしたちが寝ている間に出かけていたらしい。


「洗濯を干すのを手伝ってくれたとルルが申しておりましたけど」

「せっかくなので。シーツを干すのを手伝いましたよ。問題でしたか?」


 聞き返されて、何故かシェリエは狼狽えた。


「あ、いいえ。何か意図があったのかなってルルが言うものですから。花も見たいとおっしゃったから一人温室に残してきたけどと気にしておりましたもので」

「えぇ。花壇も見たかったんです。温室なんて、あまり見ませんから」


 シェリエが黙り込む。なんだろうなぁ。何か気にしてるみたいだけど。


「事件の進捗状況が聞きたいんじゃあないですか? シェリエ」


 レイストの言う通りだったらしい。まぁ、と言葉を濁しているが、シェリエがベルドに向ける視線は好奇心に溢れている。


「メリルアさんの部屋の鍵と凶器を探していたんですが、鍵は見つかりました」

「鍵は……、鍵束にはなかったんですか」

「はい。鍵は居間のソファにありました」


 シェリエがハッとしてクロヴィスを見た。クロヴィスは苦笑いを浮かべた。


「僕じゃないよ」

「分かっています。クロヴィス様が犯人を見てないのかしらと思いまして」

「ルルが掃除に来たくらいで、誰も入ってこなかったよ。あとは君がお昼はいつも通り食堂でいいかって聞きに来てくれたくらいかな。午後からは知らないけどね」

「ではベルド様たちが調査中に居間に集まった時でしょうか!」


 シェリエ、楽しそうだなぁ。推理小説とか好きなのかしら。


「そうですね。その時に隠されたものだと思いますよ。なので、今は凶器を探しています」

「あぁ、それでカナリア様の部屋に。あの部屋、探せました?」

「探せはしませんでしたけど、目的のものはいくつか見ましたから十分です」

「ベルド様は凶器はどこにあるとお考えですか?」


 試されている。大丈夫なのかしら、ベルド。なんか頼りになるのかならないのか、よく分からない探偵なのよねぇ。ザコのわたしに心配されたくはないだろうけど。

 そうですねぇとベルドは首を傾げた。


「私ならクロヴィスさんの部屋に隠しますね」

「え! 僕?」

「はい。お昼が済むまで、ということはレイストさんとコーヒーを飲んで、午後を過ぎた頃までここにいたんでしょう? 午後のお茶の時間にはメリルアさんが殺されているのだから、その時間までのクロヴィスさんの行動を見ると自室にいた時間は短い。部屋に戻るまではシェリエさんくらいしか出入りしていません。それ以外の時間は誰もいないことになる。クロヴィスさんの部屋はメリルアさんの部屋の隣だし、鍵は閉めないんでしょう?」

「なんで分かるんだい、それ」

「レイストさんの証言で、シェリエさんが掃除に入っていったと。シェリエさんが掃除に入るのが分かっているから、鍵は閉めないのではないかと思いました。鍵を閉めてしまうと、掃除に入るシェリエさんはスペアキーをディジエさんから借りなきゃいけないでしょう。そういう手間をかけさせることは、やらないタイプではないかなと思って」

「見抜かれてる」


 レイストが呟き、情けない顔をしたクロヴィスはそうだねと同意した。


「ここのメイドさんたちもディジエも、客もそうだけど、盗みなんてするような人たちじゃないからさ。そうか、でも誰でも入れるってことだね」

「そうなります。もしもクロヴィスさんが犯人だった場合は、レイストさんとコーヒーを飲んだ後にしか殺す時間はありません。凶器を隠す時間もないし、部屋の外へ隠しに行くのも難しい。昨日は深夜まで私たちがうろうろしていた上に、居間と食堂、台所以外は鍵がかかっていましたから、凶器を隠すことができるのはその三箇所です。朝、台所を見た時も見当たらなかったし他の二箇所にもなかったので、クロヴィスさんの部屋が可能性が高いかな、と」

「うわぁ、本当に僕の部屋にあったらどうしよう」 

「いずれにしろ、クロヴィスさんの部屋に凶器があったとしても、クロヴィスさんが犯人であると確定したことにはなりません」


 それを聞いて安心したのか、クロヴィスはほっと肩を落とした。だが慌てたように顔を上げる。


「僕の部屋にナイフがあるよ! それは凶器じゃないからね!」

「私が売ったものですね。メリルア様とお揃いですよ、それ」

「そうなのかい? メリルアは必要ないだろうに。僕はかっこいいと思って買ったけど、メリルアは飾らないんだからさ」

「あなたとお揃いがいいとおっしゃってましたよ」

「そういう理由か……。別に身につけるものでもないのに、揃いも何もないと思うけどね。……僕、あのナイフは箱に入れて机の上に置きっぱなしなんだけど。気にしてなかったからさ。少し見てきていいかな?」

「みんなで行きましょう。せっかくなので」


 ベルドが立ち上がり、他の面々も席を立つ。シェリエは仕事に戻ると残念そうにしているが、ここでお別れ。


 二階へ上がる。クロヴィスは自室の扉を開ける。ベルドの指摘した通り、鍵はかけてなかったようだ。

 ソファに囲まれた机の上に、ぽつんと箱が載っていた。しっかりした作りの箱だ。木でできているらしい。わたしには前世の記憶があるから桐箱に見えるけど。


「取引した時と同じ状態ですね」

「どこに飾ろうかと迷っててさ。飾るにしてもディスプレイ用のスタンドがいるなぁって話しただろ?」

「そうでしたね。その話をしたのは、買ってくれた後でしたから一昨日の夜でしょうか。応接室で」

「そうだったね。スタンドが来るまではそのままにしようと思って、それから触ってないんだ」


 ちょっと失礼とベルドが箱を開ける。高級そうな布地のクッションに沈む、鞘に入ったナイフが現れた。宝石がついていて、お高そうな雰囲気。

 ベルドの手袋をした手が静かに鞘からナイフを抜く。本当なら銀色のはずのその刃は血に塗れていた。

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