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 マキヨ嬢の発言によりレイストの神経が削られてしまったため、コーヒーはシェリエにお願いした。シェリエは経緯を知ると苦笑いを浮かべる。


「ベッドから動かずに全部やりたいそうですよ。それ以外のところをお掃除しましょうかと申し出たんですけど、どこに何があるか分からなくなるから困るとおっしゃって」


 ベッドはコックピットじゃないのよ。大体今の状態で既にどこに何があるか分からないだろうに。


「ちなみにお風呂は」

「やめてベルド君聞かないで! ダメッ! そういうの聞いちゃ」


 レイストがプルプル震えながら止める。少々ご乱心でオネエ感があるけど、意見は正しいと思う。うん。大惨事になるよ。


「シェリエもコーヒー飲んでいったらどう? 座りなよ」


 クロヴィスの勧めにシェリエは手元のコーヒーサーバーを眺め、そうですねと自分のコーヒーも入れて席についた。


「実は奥様からの呼び出しがないので、今すごく暇なんですよ。ゆっくり仕事しても怒られませんから」

「静かだもんねぇ。鐘が鳴らないから」


 そう言うクロヴィスも心なしかくつろいでいる。いや、この人の場合は常にくつろいでたはずなんだけど、鐘が鳴ってメイドたちが走り回るのを気の毒に思っていたようだから落ち着かなかったのだろう。なかなか心優しい遊び人だ。


「おや、ということは商機では」


 カナリアの恐怖から解放されたらしいレイストが言う。シェリエは笑った。


「あら、私たち相手の商売では成り立ちませんよ。お給金が少ないですから。でもカナリア様なら今、快く買ってくれるんじゃありませんか」

「正直さっきのを見た後に売りたくはないんですが」


 そういえば、とベルドはポケットからブローチを取り出した。


「このブローチをご存じですか?」


 レイストはぎょっとしてベルドを見た。


「盗ってきたんですか?」

「これはメリルアさんのクローゼットに落ちていました」

「え? あ、あぁ、そうでしたか。これはカナリア様に売りましたね。間違いなく。えぇ、メリルア様が殺された日に売ったものです」

「そうでしたか。レイストさんは服も売ってますか?」

「服は別の方ですよ」


 シェリエが口を挟んだ。


「月に一度か二度、売りに来ますよ」

「服は……、あのサイズのものを大量に持ってくるのは大変なのでね。私は売りません。それに頻繁に喧嘩が起こってましたので、手を出さない方が賢明だと思ってました」

「服で喧嘩を?」

「そうさ。メリルアの方が立場的には上だから先に服を見るだろう? で、メリルアが先に選んで、残りの中からカナリアが選ぶ。そしたら、メリルアが着てる服の方がいい、私もあれが欲しいあれは私が着るべきだとカナリアが言い出すのさ。服屋は仕方なしに同じデザインのものを持ってくる。で、カナリアが着てると真似するなとメリルアがふっかけて、はい喧嘩って流れ」


 さっきカナリアが言ってた言い回しだとメリルアが真似してるような言い方だったけど、そうでもないらしい。嘘は言ってないけど本当のことも言ってない、みたいな。カナリアもカナリアでやっかいに思えるのは、わたしだけだろうか。体型といい性格といい、ナイマーは案外と似たような女性が好きなのでは。


「だからメリルアさんと同じデザインの服がカナリアさんの部屋にもあるんですね」

「そ。似たような体型だから、ほぼ同じ服だよね」

「奥様の方が背が高いので、丈が違いますよ」


 あーあーあーあー。もう。これはわたしでも分かる。さっきからカナリアはかなり怪しいんだよなぁ。ブローチのこともあるし、カナリアは確実にあの部屋に入っている。もちろん午前中に喧嘩しに入ってるけど、多分それ以外に。

 メリルアのクローゼットにかかっていた服は、きっとカナリアのものだ。レイストが見た二階から降りてくるエスタは、黒い服を着たカナリアの後ろ姿だったんじゃないか?エスタの身長はカナリアとほぼ同じくらいの高さに見えるし髪色も似てる。

 その辺、ベルドも気付いているだろう。お気に入りの服の中に黒い服があるのに目ざとく気付いていたし。


 ベルドを見れば、彼は落ち着き払ってコーヒーを飲んでいた。マキヨ嬢も気付いているであろうけど何も言わずにコーヒーカップを持ち上げている。

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