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カナリアの部屋は……なんていうか、うん。
「……これは泥棒が入った、とかかい?」
クロヴィスが遠慮がちに言う。まぁ、正直なところ、カナリア以外全員引いてる。わたしを含めて。
カナリアは何を言い出すんだと言わんばかりの表情で否定する。
「いいえ? 私の部屋ですもの。私のしたいようにしてるのよ」
うーん、でもこれは。乱雑に積み上げた服や雑誌、靴、鞄やら何やらが左右に山となり、ベッドまでの道をうっすら作っている。いわゆる汚部屋。ソファはどこ行った。うわぁ、でっかいほこり。マキヨ嬢が身をすくめて立っている。気持ちは分かる。
どうやらカナリアはベッドの上で生活しているらしかった。ベッドの上も色々乗ってはいたけど、他より少しはマシだ。
「メイドたちにはシーツだけかえてもらうの。たまに」
たまに。
「今日はジェナに身繕いをお願いしたけど、ここでやったわ」
ベッドの上!よくもまぁ……。ジェナが苦労したに違いない。
昨日の聞いた話の中で、メイドたちはメリルアに関わらない時間は掃除や洗濯をしていた。シェリエはクロヴィスとレイスト、ベルドの部屋を担当していたっけ。ルルはメリルアの部屋とクロヴィスのいた居間。午後からはジェナが応接間や食堂の掃除をしているのをルルが見ている。シェリエは二階の元客室の物置、そしてルルと一緒に三階の掃除。ルルは午後から呼び出されるのが確定しているので、時間になったら地下の台所へ移動している。台所にはエスタがいて、お茶の用意をしている時にルルが戻ってきたと証言しているから間違いない。
そう、カナリアの部屋を掃除した、という証言はなかったのだ。
「装飾品とかなくしません?」
「なくさないわよ!ほら」
サイドチェストを開けて見せる。そうか、そりゃ指輪とかその辺に放り出すわけにはいかないだろうから。…………。
「……首につけるまでの道のりが長そうだね」
クロヴィスが控えめに言った。そりゃそうだ、ネックレスの鎖が絡まり、どこからどこまでが一つのものなのか分からなくなってる。まさかの箱なしでの管理。いや、これは管理できてないのでは。鎖同士が絡まって玉になってるし、ペンダントトップかと思ったら指輪だ。一つ摘み上げたら全部ついてくるんじゃなかろうか。
「触っても?」
「やめて!」
尋ねたベルドにカナリアはキツい視線と口調で拒絶した。
「ネックレスが絡まるじゃない!」
もう絡まってる。
ベルドはにこ、と笑って手を後ろにやった。触りませんよという明らかな意思表示だ。
「毎日の服や靴は、どういう風に選ぶんです?」
ドン引きを隠さないレイストが気味悪そうに服の山の前で佇んでいる。心持ち、彼はマキヨ嬢と入り口に近い位置にいる。早く外に出たいという気持ちがありありと出ている。
「気分よ。でも大体位置が決まっていて、お気に入りのものはベッドの近くよ」
確かに昨日着ていた服が山の一番上に載っている。洗濯は……しないんだね。冬だから汗かかないし、って理論だと思いたい。汚れたら洗うよね!多分。ヒールのある靴は……あら、一足しかない。おや、あの服はメリルアのクローゼットにもあった服だ。
「メリルアさんと服がかぶることもあるんですか?」
カナリアは露骨に嫌そうな顔をした。
「そうよ、あるのよ。あの女、私の趣味を真似するの! 服がかぶっても私の方が可愛いからいいけど! 腹立つのよね」
そうですかとベルドが頷いて、その下の黒い服の裾を眺める。
「黒い服もお召しになるんですね」
「似合わないって言いたいの?」
「鮮やかな色彩の服が多いので」
ツンとカナリアは顎を上げる。
「滅多に着ないわ!」
その割にはお気に入りの山にあるな。
しかしこれじゃ凶器を探すとかそういうレベルじゃない。触ると何が出てくるか……。黒くてぴかぴかしてカサカサ動くあの虫は、雪が降るくらいの温度だから出ないだろうけど、違う何かは出てきそうだ。それは嫌。わたしも嫌。探さない方がいいんじゃないかなって気がするけど、そういうわけにもいかないよね。これ、どうするの?
ベルドは首を緩やかに傾げ、部屋を観察しているようだった。この部屋に一切動じないベルドがすごい。
「なるほど。ありがとうございました」
服の間の道を歩き出したベルドに、全員がホッとした顔をする。わたしも含め。
書斎に戻るカナリアを見送りながら、レイストが提案する。
「少し……食堂で休みませんか。コーヒーでも。私、疲れてしまいました」
「それは僕も同意するよ」
クロヴィスも若干憔悴している。
「では食堂に参りましょうか」
柔らかく言ってくれるベルドに和んだ時だった。ずっと黙っていたマキヨ嬢が口を開く。
「お風呂への道がなかったけど、どうやってお風呂にたどり着くのかしら……」
カナリアの部屋は客室だ。部屋に風呂があるはず。カナリア本人はあの服の山を超えて風呂までたどり着けるかもしれないが、メイドたちは難しいだろう。あの部屋に住むカナリアが掃除をするはずもなく……。
ひぃぃというレイストの恐怖の声が響き渡った。




