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 本棚の横の小さなテーブルには伏せた写真立てがある。マキヨ嬢がゆっくりと近寄ってきて、そっと写真立てを立てた。あぁ、これは結婚した時の写真かな。若かりしナイマーとメリルア。二人とも真面目な顔をしている。


「私とメリルアは見合いでね」


 マキヨ嬢が写真を見ているのに気付いたらしい。ナイマーは続けた。


「メリルアは一人っ子でね。溺愛されていた。だからある程度身分の高い者を婿に、とメリルアの両親は思っていたようだ。だがあの性格だ、断られ続けてね。私の家はいわゆる没落貴族だったが、身分だけは高くてね。借金を肩代わりする代わりに嫁がせてほしいと言われて断れなかった。今はこの通りだが、それでも借金を肩代わりしたのはメリルアの実家だ。メリルアと喧嘩すると、いつもその話題が出て困った」


 頭の上がらなかった理由はそれらしい。大変そう。


「お互い愛がなかった。この結婚はどうしようもなかったと思うしかない」


 諦めの境地だな。結婚って大変。わたしは前世では結婚もしてないし恋人もいなかった。だから結婚生活のことは分からない。そういう意味ではお気楽だったなぁ。

 代わりに、兄にはモデルの妻がいて、姉には実業家の夫がいて、妹には海外の恋人がいたから、それはもう馬鹿にされたものだ。いわゆる結婚マウント?恋人の一人も作れないなんて、家庭も子供ももてないなんてと、もはや人として失格と言わんばかりの勢いで責められたっけ。あれもあれで大変だったなぁ。


「でもこれからは私と幸せになれますわ」


 カナリアは喜色を隠そうとしない。これもこれでどうかと思うけど。

 そもそも夫の恋人が一階に住んでて、二階に妻の恋人が住んでるじゃん。この家すごいよね。あ、人ごとだけど、これわたしの家なんだっけ。こんなだから歪んだのかな、わたし。


「メリルアさんの宝石類は、もちろんナイマーさんのものになりますよね?」

「そりゃあ、メリルアは私の妻だからな」

「宝石が一つ、なくなっているようですが何か心当たりがありますか?棚の一番上の宝石箱ですが」


 ナイマーは困惑したようにカナリアを見た。


「いや。心当たりはないが……」

「カナリアさんは何かご存知ですか?」

「いえ? でも一番上の宝石箱のものなら、メリルアの実家のネックレスじゃないかしら。一度見せびらかされて自慢されたわ。大きめの宝石のついたものだけれど、数億の価値があるとか」


 自慢されて余程悔しかったのだろう、思いっきり顔を歪めた。確かに空いていたのはネックレスを仕舞う区画だった。大きい宝石のついたものは覚えてないから、なくなったのはそのネックレスかもしれないね。わたしの生前の記憶がないから何とも言えないけれど。


「ではカナリアさんのお部屋を拝見してもよろしいですか?」

「えぇ、どうぞ」


 憤懣やる方なく書斎を出るカナリアに続いて、調査団がぞろぞろと外に出る。


「ねぇ、ベルド君。犯人に対する告発はベルド君に一任するってあるけど、これはどういうことです?」


 契約書、まだ読んでたんかい。静かだなと思ったわ。


「それは私の特性上、告発しないということもあり得るということです」

「あぁ、そういうことですか。告発しない、ねぇ」

「犯人なんて一人残らず告発すべきですわ」


 カナリアが、ツンとした物言いで顔を上げた。


「この告発しない場合ってどういうのがあるんです?」

「自白する気のある犯人には、告発はしないということになっています」


 優し。まぁ、自白するってことは罪を認めて償うつもりはある、ってことと捉えるのだろう。刑を軽くするつもりの人だっていると思うけど。


「なるほど、なかなかの心理戦だね。先を見通した、きちんとしたいい契約書だと思いますよ」


 レイストはようやくベルドに契約書を返した。ベルドはやはり上着に契約書を仕舞った。

 何故か小さく、マキヨ嬢がため息をついた。

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