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えっ。ちょっと待って。
わたしは思わずまじまじとそれを見た。どう見ても倒れた人だ。そして明らかに尋常でない状態なのは確かだ。
どうやら女性のようだった。かなり……ふくよかな。カッと目を開き、赤い口紅を塗った唇はだらしなく開いている。首から下は血で汚れている。首には大きな傷があって、そして胸の辺りの服は血で汚れていた。
「あ、あのぉ」
呼びかけてみても、ピクリとも動かなかった。そりゃそうか。
えっと、これはつまり、殺人事件……。そんな乙女ゲームある?あ、あるかも……しれないけど、わたしはやったことない。
ん?ちょっと待って?これ、わたし犯人じゃない?だってここ、わたしの部屋なんだよね?今ベッドで寝てたよね?
わたしは立ち上がった。とりあえず逃げなければ!人殺しておいて寝てるとか少々サイコパス感あるけれど、それはいい仕方ない過去は変えられない。寝てたのはさておき、わたしが犯人、犯人じゃなくても犯人にされそうな気配はある。とりあえず逃げよう!
起きて最初に見た扉に飛びつく。鍵がかかっているのか開かない。次の扉は窓と逆側にある扉。奥様って聞こえた方だ。これも開かない。じゃあ、最後の扉。男の人の声が聞こえた方。遺体を視界に入れないようにしながら、ドアノブを握る。開かない。
じゃあ窓!窓辺に登り、掛け金を外そうとする。
「動かないな!」
わたしの力じゃ動かない。一つだけ、少し窓が開いているけど、わたしが通れそうな隙間じゃない。
つまりこれ、密室だね!わたし犯人じゃん!
わたしは窓から降りるとベッドに崩れ落ちる。殺人事件の犯人に転生するとかどういうこと?憧れてたやつと違う!大体最初のミッションおかしいでしょ!何?密室の殺人現場から逃げるって。
不意に、窓側と逆にある方の扉が騒がしくなった。ドアをガチャガチャやってる。あれ、これ入ってくるんじゃ。
わたしは再び立ち上がった。とりあえず隠れないと!出られないんだから!
隠れる場所なんて一つしかない。わたしはダッシュでソファを避けると、クローゼットの中に滑り込んだ。開いていない方の扉の後ろにしゃがみ込む。
その直後、ドアが開く音がした。誰かの驚く声やら動揺する気配。そっと覗く。そこにいる人たちはベッド横の遺体に気を取られているようだった。ドア付近にも……人がいる。いなければ外に出られるのに。今来ましたって顔して合流したらいいんだから。
でも合流したところで、わたしにメリルアの記憶がない。上手く行くかどうか……。
そもそもこれ、何の作品?探偵小説?探偵小説ならいくつか読んだこともある。探偵が出てきたら分かるかもしれない。いや、もしかしたら作品の中じゃないのかも。過去に起きたリアル殺人事件とか別世界の殺人事件の犯人に転生したとかじゃ……。めっちゃイヤなんだけど!
必死に記憶を探っていると、その方は?と男性の驚いた声が耳に入った。
「探偵様と助手様でございます」
なんだ。探偵出てくるじゃん!ってことは探偵小説だ。有名どころの探偵だといいんだけど。
「ベルド・カンパネルラと申します」
誰!?
「あの有名な!」
有名人だった!知らないけど!
「死神探偵様ですって?!」
物騒な探偵だなぁ!あれか?行く先々で死体に出会うタイプの探偵か?この家にも来るべくして来たみたいな?
「どうして死神探偵がここに?」
「いやぁ、この雪で道が分からなくなりまして」
まさかのただの遭難だった。
「それはそれは。そちらのお嬢さんが助手さんですか」
「助手で霊媒師のマキヨ君です」
探偵助手が霊媒師って何よ?どういう設定なのよ。
しかしこの状況、本当にまずい。犯人クローゼットに隠れてますけど。これ見つかっちゃったら、即アウトなのでは?探偵大号泣だよ、こんな推理のしがいのない事件。
探偵を泣かせないためにも逃げなくては。
「マキヨ君、何か気になることは?」
マキヨ嬢の冷静な声がえぇと応じた。
「そのクローゼットに、妙な気配が」
探偵大号泣不可避なんですが。
足音が近づいてくる。どうしよう!もう外には出られない。隠し通路とかないの?手探りで探すけれど、もちろんそんなものはなさそうだ。どうしよう、どうする?
ぱっと目の前のクローゼットの扉がなくなり、暗いクローゼットに明かりが差し込む。




