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マキヨ嬢が恥ずかしげな仕草で指先を乗せる。手を引かれて少し俯いて歩き出すのが可愛い。
あれ、もしかしてこの二人。
「マキヨ様は恋人ですか?」
結構はっきり聞くんだね、ディジエ。でもまぁ、相手がベルドだからというのはあるだろう。全員の話を聞いている間、ベルドは始終気安かった。対応はそれぞれ違ったけれど、かなり誠実だったし。
特に女性は聞いてもらいたい感満載の女性が大半だったから、きちんと話を聞いてくれて相槌を打ったり質問したりする彼には全員が好意的だった。
ベルドは照れる様子も狼狽える様子もなく、ただ笑って答える。
「いいえ。大事な相棒ではありますけどね」
違うのかぁ……。結構お似合いだと思うんだけどなぁ。美男美女だし。
三階の全ての部屋に鍵をかける。客室は、とディジエが言いかけたけど、二人で一階に泊まらせてもらいますのでとベルドが断った。
上がってきた階段とは違う階段から、二階へ降りる。クロヴィスの部屋がすぐ横にある。メリルアの部屋がその奥、さらにその奥にはさっき上がった階段が見える。メリルアの部屋の向かいはお風呂とトイレ。
空いている他の部屋は客室らしいが、そこに人を入れるとメリルアが五月蝿かったそうで、今は物置になっているんだそう。物置にもしっかり鍵をかけている。
ディジエが鍵を閉めるのに付き合いつつ、一階へと階段を降りた。居間側の階段と同じ仕様になってる。左右対称のようだ。降り切ると食堂が左手側にある。右は壁で扉があり、その先が玄関ホールなのは居間側と同じだね。
玄関ホールへの扉から覗き込み、ベルドが尋ねる。
「玄関ホールの奥はどうなってますか?」
「広間ですよ。パーティなどがあれば広間を使います。私が知る限り、一度も使ったことはないのですが」
がらんとした空間は広間だったのか。広間も初めて見たよ。
へぇと平坦な返事をして、ベルドは食堂の方へ歩き出す。食堂を覗き、興味を引かれるものはなかったのか、そのまま後にした。隣には応接室があって、地下への階段を挟んでカナリアの部屋。地上は一通り回ったんだな。
「応接室から温室に出られます。ジェナと私くらいしか、花に関しては行きません」
世話もしなかったらしい。これ以上ない温室の無駄遣いだ。我ながら迷惑すぎる。
「花以外なら行くんですか?」
「本来ならお茶会などを開く場所ですので、花がついでといいますか。花はジェナと私で管理をしています。でもあの場所でお茶会を開くことはまずありませんので、今の時期は洗濯物を干すのに利用しています。風も通りますから少々乾きやすいので」
温室の有効利用がなされていた。気持ち的にはそっちのがいい。応接室にも鍵をかけている。温室、少し見てみたかったのに。
地下は思っていたよりは明るい雰囲気だ。綺麗にしてあるんだなぁ。話を聞くに、半地下らしい。
階段を降りると左に台所、右に使用人ホール。使用人ホールは、メイドさんたちがご飯食べたりするところらしい。休憩もここでするって言ってたっけ。
階段正面には洗った洗濯物をしまう棚。その裏にはメイドさんたちとディジエが使うお風呂とトイレ。あまり広くはないらしいけど、最低限の設備にはなってるそうだ。
使用人ホールの先に洗濯室。洗濯室前の部屋がディジエの部屋、ディジエの部屋の向かいの角部屋がジェナの部屋、ジェナの隣でお風呂とトイレの向かいがシェリエ、さらにその隣の角部屋がルルの部屋と並ぶ。ルルの部屋の向かい、台所前の部屋にエスタ。あとは物置。
ディジエが案内してくれたからいいけど、こんなお家、歩いて回るだけですごい時間がかかる。掃除のことを考えたら大変そう。
ベルドが興味深そうに眺めながらぐるりと回ったあと、台所を覗く。おや、とエスタが顔を上げた。何か飲んでいたらしい。
「探偵さんじゃないか。何か飲みたいものでも?」
「いいえ。ディジエさんに案内してもらっています」
「そうかい。休憩していきなよ。あんたも疲れただろう。全員分、話を聞いたんだものねぇ」
何がいいかいと尋ねられて、ベルドは温かければなんでもと答えた。マキヨ嬢も頷く。あまりこだわりがなさそうだ。




