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途中夕食を挟みながら続いた聴取が終わったのは、かなり夜も更けた頃だった。全員が部屋に戻り鍵をかけることを確認して解散する。まだ犯人が中にいる可能性の方が高いんだから、次の事件が起こる可能性もあるもんね。
ベルドは話を聞きながら取っていたメモを眺めている。そして、マキヨ嬢に視線を移した。
「風呂がついてるな、この部屋」
「そうね。豪華ね。客室にお風呂トイレ付きなんて。入る?」
「いや、出かけてくる。マキヨ君、先に入って寝ても構わないがどうする?」
「一緒に行くわ」
もちろんわたしも一緒に行く。部屋に取り残されたら出られないもんね。幽霊だから別に疲れないし。屋敷を探検してみたいし。
この屋敷の主人であるナイマーが、話の途中で屋敷の絵をざっくり書いてくれて、少しは把握してはいる。部屋の並びはカタカナのコを立てたような形らしい。中の空間に玄関ホールが収まっているって感じかな。部屋は一定の大きさじゃないところもあるから構造的にはボコボコしているけれど、その分、一つ一つの部屋は広そうだ。
彼らについて客室を出る。客室は一階だ。向かいは壁だけど少し離れたところに入り口がある。中は壁にでっかい絵が飾ってあるけど、どことなくがらんとした空間で、玄関ホールが奥に見える。玄関ホールにつながってるから、玄関ホールの一部かな?一応仕切られてはいるみたいだけど。
ベルドの部屋の右隣にはレイストが、左隣にはカナリアが泊まっている。カナリアは住んでいる、と言う方が正しいのかもしれない。レイストの部屋側へと歩き出すベルドたちについていく。廊下を曲がって右手にナイマーの書斎。ここまでは入っていくのを見たから確実だ。
その先はトイレを挟んで居間で、左手に階段。メリルアの部屋から出て、降りてきた階段だ。階段は壁に沿っていて、手すりなんか優雅な装飾がしてあって、ちょっとレトロ。
階段より奥には玄関ホールへの扉が付いている。玄関ホールとか初めて見たよ。間違いなく豪邸じゃん。さっきは扉が開いてたけど、今は閉まってる。夜だからかな。玄関ホール側からは階段は見えない仕様になってるね。
あれ。
「おや、探偵さん」
「ディジエさん、どうしました?」
階段を降りてきたのはディジエだ。鍵束を手にしている。
「旦那様に言われて奥様の部屋の鍵を閉めてきました。ついでに他の戸締りをしている途中です」
「……ほぅ」
「お二人はどうされましたか?」
「夜の探検を少し。一緒に来ますか?」
正直なところ、この執事さんだって疲れているだろう。でもベルドたちは部外者だ。そのままふらふらされても困ると思ったのか、案内を買って出た。
「三階ってどうなってるんでしょう?」
階段をゆっくり上がり始めるベルドが尋ねる。
「三階は客室です。二階は奥様の部屋と衣装室、クロヴィス様の部屋ですね。トイレと風呂もあります」
「古そうな館ですけど改築したんですか?」
「えぇ。昔は風呂に入るなどという風潮がありましたが、今は風呂がない家なんてありえませんからね」
そうなの?とマキヨ嬢が尋ねる。そうらしいとベルドは頷いた。
「お風呂に入らない自慢をしてたそうだ」
「……大変そうね、いろいろ」
「大変だろうな。しかし……。こういう館で一家の主人が書斎で寝るのは、初めて聞いたように思いますが」
そうでございますねとディジエは苦笑いを浮かべた。
「本当は二階が旦那様の部屋でしたが、奥様とクロヴィス様が使っておられますので、致し方なく。当初は奥様を気にされて書斎のソファでお休みになられていましたが、ここ最近はカナリア様の部屋でお休みになっています」
「三階に上がるという選択肢は?」
「旦那様もカナリア様も、階段は堪えるそうでして」
階段を上がりたくないという理由らしかった。ま、分からなくもない。ナイマーもカナリアもふくよかだもんね。前世でもふくよかな知人が、階段は疲れるし膝にくると言ってたのを覚えている。
三階の廊下は暗かった。明かりをつけましょうかと提案したディジエに、別に構いませんよと歩き出すベルド。わたしはちょっとつけてほしいと思ったんだけど。雰囲気あるんだもん、この廊下。見下ろしてくる肖像画が不気味すぎる。
「ベルド」
マキヨ嬢が尻込みするように立ちすくんだ。あれ、霊媒師なのにもしかして怖いの?いや、霊媒師だから怖いのか?マキヨ嬢は見た目日本人だから、わたしの感覚は近いものはあるのかもしれない。
ベルドは優しく笑うと、マキヨ嬢に手を差し伸べた。
「一緒に行こう」




