11
メリルアのことを控えめに言ったのは執事のディジエとメイドのジェナ。ジェナは中学生くらいの子供でディジエと一緒に話を聞くことになったから、お互いおおっぴらに言うわけにはいかなかったのだろう。
「奥様はメイド一人だと強く当たりますので、できるだけ二人で対応しておりました。ですが、朝の支度はジェナ、午後のお茶はルルというように決められていることもございまして」
「それはメリルアさんが決めたんですか?」
「そうですね。奥様がお決めになりました。メイドが二人いると気に障るとおっしゃることもしばしばありまして」
面倒すぎる。わたしのことなんだけど。
「ジェナさんはどうですか?」
ジェナは不安そうにディジエを見た。答えなさいと優しく促されて、伏し目がちに小さく答える。
「ご機嫌がよければ、いいなって、毎日思っていて。それ以外は、特に」
あぁぁー。なんか本当に悪いことをした気分だ。生前のわたしは一体何を考えていたのか。こんな可愛い子を耐えさせて。普通に落ち込む。
そして最後は、詐欺師のような笑みを浮かべる男。彼はこの屋敷出入りの商人だそうだ。名はレイスト。クロヴィスと似た雰囲気の男前から、メリルアの好みが分かってしまう。
「いやぁ、いい奥様でしたよ? おすすめすればどんどん買ってくれるし、金払いはいいし。機嫌の悪い時? 私にはあまりなかったですよ、私にはねぇ」
つまりメリルアは気に入りの男性には気前よく振る舞い、それ以外には暴君のように振る舞っていたということだ。まぁ気前よく振る舞ってただけで、機嫌の悪い時はどうだったか分からない。いずれにせよ大半がメリルアのことをよく思っていないことは間違いない。
しかし生前のわたしの性格が悪い。返事一つでも相手を馬鹿にするという、ある種、奇跡的なほどの性格の悪さだ。ルルの語ったところによれば、声をかけただけで返ってくるのが、喧嘩腰な「はぁ?」「何?」「意味が分からないんだけど?」の三種類。何か言う前からそれじゃ、嫌われても仕方ない。意味が分からないに至っては、聞く前から言うんだから分かるわけがない。それとも、声をかけてくる意味が分からない、ということだろうか。
そして細かい。棚の一つにでも埃がうっすら被れば、即掃除させる。特に鏡台は化粧品を出しっぱなしにさせるくせに、白粉の少しでも溢れていたら掃除させる。化粧品を仕舞わせてくれないのは、メイドの誰かが盗んだ時にすぐに分かるようにだと自慢げに語っていたとシェリエが顔を歪めていた。
果ては毎夜メイドたちに鍵が全部閉まっているかを確認させ、鍵が一つでも無くなっていないかディジエを呼びつけて確認させていた。何故にディジエかというと、彼が全てのスペアキーの管理をしているから。あの鍵の束のスペアを持って部屋へ行き、一つ一つ間違いなくあるか確認するのだとか。
考えるだけでも嫌になる作業だが、一つでも手を抜くと嫌味を言われるし、しっかり確認して時間をかけると怒られるという理不尽。自分でやれと言いたくなる、我ながら。
「そういえば夫人の部屋の鍵がなかったんですが」
確かめたんですかとディジエは苦笑いを浮かべた。そしてベルドが差し出した鍵を眺めた。
「そうですね。確かにありません」
「分かるんですか」
「毎晩眺めておりますので……」
ごめんよ、本当に。
「みなさん、見分けはつくんですか?」
「いえ。見分けられるのは奥様自身か旦那様か私くらいかと。奥様の部屋は元は旦那様の部屋でしたので」
「ではどの鍵が部屋の扉の鍵か知ろうとするなら、総当たりで試すしかないんですね」
「そうですね。時間がかかるかと思いますが」
わたしは大量の鍵を眺めた。これだけ鍵をかけるのも大変だし、かかってるか確認するのも本当に大変なはずだ。余程、メリルアは人を信用しなかったらしい。前世のわたしは警戒心が薄すぎると家族に言われまくったから、その反動だったのだろうか。いずれにしろ自分でやらないんだから迷惑以外の何物でもない。




