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目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。
白い壁、アンティーク調の戸棚、少し開いたクローゼット。立派なソファ。凝った装飾の扉とノブ。おしゃれな格子窓。外では雪が降っている。
わたしは起き上がる。わぁ、ベッドがふかふか。驚くほどに大きくて、見上げると天蓋付きだった。
これは、もしや。
頬をつねると痛かった。夢じゃない。
ということは、もしや。
わたしはベッドを撫でた。何故かシーツはなかったけれど、いいものだということは分かる。そして確実にわたしが買えるものではない。この部屋だって、今まで住んだ部屋の中では考えられないくらい広い。調度品も今までのわたしには無縁の、おしゃれ……とは言い難いけど高そうなものだ。火は入っていないけれど、暖炉まである。マントルピースの上には何も乗ってないけれど、凝った装飾だ。
昨日の記憶は小さな自室で眠ったところまでしかない。こんな部屋にいるはずがないのだ。
そして今ベッドを撫でたこの手。どう見ても子供の手だ。小学生くらいだろうか。わたしは成人していたはずだったのに。
つまり、わたしは転生した、ということではないだろうか。
思わず笑みがこぼれる。実は憧れていた。
わたしの前世では(これもある意味憧れではある。前世って言ってみたかった)転生する物語が流行っていた。主人公は大体不遇な子。若くして死んでしまった彼、彼女たちは、乙女ゲームやあるいは夢のような別世界に転生しまくっていた。そして前世の記憶を活かして活躍するのだ。
わたしの前世は不遇ではなかったかもしれない。でも優秀な兄姉妹に囲まれ馬鹿にされながら、地味に静かに生きていた。何をやっても兄たちはわたしより上手くやるのだ。最終的に何をやっても無駄だと言われて、波風立てずに静かに片隅で暮らすのが常になってしまっていた。
だから。転生したこの兄たちのいない世界でやり直すのだ。やりたいことをやって成功する!やったぁぁぁぁ!
一人ガッツポーズを決めたわたしの耳に、控えめなノックと、奥様と問いかける声が聞こえた。お、お、奥様、ですって?子供だけど、この歳でもう奥様なの?
そうだ、まずはこれが何の乙女ゲームなのかを探らなくては。乙女ゲームはいくらかやったことがある。悪役令嬢が出てくるゲームはやったことがない、それは確かだ。しかし子供の奥様が出てくるゲームなんてあっただろうか。転生しまくってた彼女たちはすぐにピンと来ていたけれど。あるいは今までこの世界で暮らしていた記憶が降ってきて融合するとか。今のところ、わたしには何の兆候もない。
「メリルア?」
ノックと、男性のくぐもった声が後ろから聞こえた。あぁ、そうだ、わたしの名前だ。リル、と呼ばれていたような気がする。それ以外は覚えてないけど。
わたしは返事をしようと振り向いた。そして凍りつく。
白い扉の横。おしゃれな鏡台は、部屋にそぐわない赤黒い液体で染まっていたからだ。
何事だろう?おそるおそるベッドから身を乗り出す。鏡台の下に、赤黒い血に染まった人が倒れていた。




