月なき夜の眠らない町(6)
約束通りに時計塔の広場へやって来た。昨夜の惨劇から完全ではないものの、祭典の最中らしい賑やかさを取り戻している。明かりも、屋台も、そして舞台もきちんとそこにあった。
そして舞台の前に並べられたベンチの客席に親友の姿を見つけた。
「レインさーん」
「ああアメリア、やっと来た……って、肘どうしたの!? また何かあったんじゃ……!」
「急いでたらちょっと転んじゃって。心配しないでください」
きゅっと拳を握って、アメリアは堂々嘘を吐き笑った。レインも素直に受け取って、ほっと安心した息をついた。
アメリアはレインの隣に座る。舞台の観客席は今日も大混雑、自然と目一杯に詰めて座ることになる。お互いの肩が触れ合うような距離感だ。
「あれ? アメリア、飲み物は?」
「もう飲んできちゃいました。コップを持ってきちゃうと、また返しにいかないといけませんから」
同じ調子で言うものの、今度は嘘でない。広場へ来る道すがら、どこかの異能者ギルドが売っていた氷ぎっしりの茶――氷の出所は何も言っていなかったが、十中八九アビラで凍結させたものだろう――を買って飲み干して来た。からっからの喉には心地よい潤いだった。
もっとも、味の方は普段飲む茶の足元にも及ばなかったが。いやに渋いし、そのくせ砂糖はやたら多くて変に甘い。マスターが飲んだらさめざめと泣きそうだ、と思ったほどだ。
「思ったんですけど、やっぱりマスターのお茶が一番ですね」
「うん、とっくに知ってるよ」
少女たちは顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。二人の脳には胸を張って得意気に微笑むマスターの姿が共通してあった。
それにしても、少し気になるのは。
「……マスターは、今頃どうしてるのかしら」
「普通に寝てるんじゃない? こういう行事ごとなんて無視しそうな性格じゃん」
「私もそう思ったんです。でも、昨日も一昨日も夜通し明かりの番をしてたみたいで。ちゃんとお祭りに乗っかるんだって言ってましたし」
「へぇー、意外」
レインは目をぱちくりさせて、じゃあ、と考えこむ。出不精で我が道を行く人物が、この祭りは気に掛ける理由とは。
「意外に意外を重ねて、実はこっそり自分も町に出るためだったりして」
「えっ!? な、なんで……?」
「うーん、たとえば秘密の恋人がいるとか! ほら、相手がどこかのお嬢様だったら、普段は簡単に会えないじゃない? だからこうした催しにかこつけて――」
「それは、無いと思いますけど。あのマスターですよ。恋人なんて……」
「そうかなあ。大好きなアメリアのことも置いとく理由なんて他に……あっ、演舞始まるんだ!」
大きな舞台の上に、先ほどレインに話しかけてきた踊り子たちが金銀の吹雪と共に登場した。ただそれだけで観客の熱を最高潮に引き揚げ、口笛や期待の拍手が盛大に鳴り響かせる。
アメリアも視線を奪われた。だが、心は上の空で、隣であがったレインの声援が他人事のように頭に響いた。
秘密。先ほどから繰り返し響く言葉だ。こうやって自分が一人で他の人といる時は、当然マスターは一人で店にいるものと思っていた。しかし実際にそうなのかは知るすべがない。
アメリアは情熱的な演舞の繰り広げられる壇上から目を逸らし、西の方角を眺めた。
ここからはまるで見えないから想像するしかないが、葉揺亭にも光は灯っていることだろう。心優しいマスターは、娘の帰還を待ちながら、夜明けまで一人、遊惰な時を過ごしているに違いない。昨日も一昨日もそうだったのだ。レインが言うような秘密の行動なんて無いはずだ。マスターの事を一番知っているのは自分だから。
だが、もしそんなことがあったら。怒らずにはいられようか。それは秘密を作られた自体に対してではなく、別の事に対して。
明るく騒がしい音曲をどこか遠くのものに感じながら、少女は小さな胸で想った。本当はこういう舞台だって、マスターと一緒に見たいのだ。だって二人きりの家族なのだから。他にたくさんいる親子連れと同じように、色々な物を食べて、同じ非日常を見て、浮かれてつい隠し事を口走ってしまったり、ちょっとした悪ふざけをしてみたり。とにかく葉揺亭の内には無いこの空気を同じように感じ、同じ思い出として積み重ねたい。
――あの変な格好でもいいのに。私と一緒じゃ嫌なのかしら。
盛大な熱の籠ったリズミカルな手拍子に紛れ、一人の少女の寂しげな溜息が一つ。
そして、静寂な町角の薄闇に紛れ、一人の男の無為な溜息が一つ。
白く長い衣の人影が薄明かりに浮かんでいた。フードを被り、引きずりそうな長い裾で足先まで覆い隠すそのシルエットは、政府の忠犬として悪を見張るヴィジラと等しい。
しかし似ているだけだ。彼らの制服には背中に政府の紋章があるが、この男のそれには存在しない。
そして黒い手袋を装着したしなやかな手には、蔓を編んだバスケットがぶら下げられていた。大きさは赤子の一人がすっぽり入ってしまうほど、黒い布が上を覆っていて中身をうかがう事はできない。
彼のつま先は西へと向いていた。巷の喧噪の中心と真逆の方向だ、他に道行くものは誰も居なかった。
自分の拠点より出でて進めば進むほど、徐々に暗さが増していく。無月季と呼ばれる三十日ほどの期間、中でも特にこの五日前後は、本来はかすかな月明かりすらない完全なる闇夜なのだ。
歩む道はやがて用水路につきあたった。黒い水が流れる音を耳にしながら、男は険しい顔で対岸を見据えていた。
「夜闇を恐れる事なかれ、と言ったものだが……なるほどね。こりゃ、あの子も嘆くわけだ」
水路で分かたれた向こうの土地は漆黒の闇に包まれていた。不夜祭に沸くノスカリアの町から、この一角のみが異世界へと切り取られたかのように。
町人でスラムを気にかける人間はほぼ居ない。そこは実利を求める商売人だ、自分に関係がない貧民の生活などかえりみても仕方がない。政府や善良な市民から小さな優しさは継続的に向けられているものの、それも吹けば飛ぶほどにか弱いもの。他に気を引くもの、気にかけなければならないものがあれば、皆そちらを優先するのが現実だ。
人なき黒の世を、男は水の流れに沿って悠然と歩いた。久々に肌身で感じる夜風は非常に心地よい。自然と自嘲もこぼれる。普段はあれほどまでに外との接触を恐れるくせに、今宵はどうしたことか、と。
客観視した自問に、強いて答えをあげるならば――せっかくの祭りの夜だから。
「人が火を灯し闇を払う、それが不夜祭の本質というのなら、私は私なりのやり方で夜を明かして見せようではないか」
誰にともなく言葉を紡ぎ、そして男はうっすらと笑った。
石橋の欄干に蝋燭の小さな炎が揺れている。この頼りない明かりは橋上を歩く際に起こるかすかな空気の動きにすら大きく揺らぎ、通行する男の白影をおどろおどろしく照らした。
彼は橋の中ほどで一旦足を止めた。見据える先にあるのは学校と呼ばれている建物、スラム街における聖域と言ってよい。立派な館とは言えないが、しかし未来ある子が集う場としての役割は十分に果たしている。
不夜祭に合わせ、かの館もきちんと光を纏っていた。中でも、屋根から下げられた大きな光源石のパネルを連ねたガーランドが一際まばゆく光を放っている。また、パネルは窓の上に来るよう位置が調整されている。外から見ると硝子に光が反射してより明るく、逆に中から見れば外が昼のように見えるだろう。
――良い考えじゃないか。うまいぞ。
先日貸しを作った主は、闇に紛れて感心の笑みを浮かべた。
学校の入り口の両脇には灯火台がある。木材を三脚に組み適当な金属の鉢を乗せただけの粗末な代物だ。ぱちぱちと燃える炎の中へ、番をしている女性が薪――いや、木っ端や、紙くずや、率直に言うならよく燃えるごみをつぎ足し、火を絶やさないよう守っている。
いっそ神々しい光景だ。そんな感想を抱き、彼は目を細めた。
歩を再開する前に、彼はバスケットの黒布の下をまさぐった。冷たい金属質の物体を掴み取り、すっと取り出す。
仮面だ。目の部分に細く穴が空いて、少し縁が角張っている。飾り気はまったくおらず、人の顔と同じように凹凸がつけられているが、その彫りも少々やっつけ仕事のきらいがあった。
そんなものでも白いローブを着た男が顔にあてがえば、人を畏れ怯ませるヴィジラの仮面と錯覚させる。もちろん本物に比べるとずっと粗末な細工物だ、観察されればすぐにばれる。今が特別に暗い夜であるから可能ななりすましだ。
ヴィジラに扮した男は、一つ深呼吸をおいてから歩を進めた。そこは人間だ、慣れない行動をするに少しばかりの緊張は否めない。この後どう転んでもいいよう様々な状況を思案ながら、しかし姿勢は泰然と保ったままスラムの中へ進んで行く。
灯火の番をしている女性については知っていた。彼の営む店にも来た事がある、学校の教師長である人物だ。彼女はすぐに来訪者の存在に気づき、生来の柔和な顔を向けた。
やって来たのは異形じみた姿の法の番人である。まずは不安を抱かせるだろう、と男は予想していた。しかし教師長は、逆に笑みを深めると、嬉しそうな早足で近寄って来た。
「ああ、来られたのですね。今年もアビリスタが暴れたという話ですから、とても顔を出す余裕はないと思っておりましたよ」
仮面の下の顔は、完全に虚をつかれたと示していた。
この学校で教鞭をとる面々の中に、ティーザと言う名の人物がいる。表向きでは優しい先生だが、裏では泣く子も黙るヴィジラとして活躍している。それは、自分以外は誰も知らない事実だと思っていた。なぜならば、ヴィジラは正体を明かさない事が掟であるから。
ところがティーザはこの教師長にも自分の事情を打ち明けていたらしい。意外だった。掟破りをする性格ではないし、規則に背いた場合のリスクを考えられないほど愚かでもない。打ち明ければ純粋に異能として疎まれ居場所を失う、それもあり得ただろうに。
――それだけ心を許せるようになったのか。
仮面の男は内心で笑んだ。意外で驚いただけで、なんら咎める話ではなかった。
さて、教師長はティーザが執務を抜け出して来たのだと思い込んでいるようだ。確かに今の見かけでは判別がつかなくて当たり前である。体型の違いはゆるやかなローブは覆い隠してしまうし、身長差なんて並んで見なければ大きなスケールでしかわからない。何よりヴィジラでこんなところにやって来るのは、という先入観が彼女の思考を塗りつぶしている。
訪問者は彼女の間違いを正すつもりはなかった。そもそも今宵ここへ来たのは、そのティーザに花を持たせるためなのである。それなのになぜ、自分が葉揺亭の主、サベオル=アルクスローザだと名乗らなければならないのだ。本人だと勘違いしてくれるなら、むしろ好都合だ。
「ティーザ、心配はいりませんよ、こちらは平和です。あなたが持ってきてくれたあの光の板も、子どもたちは大はしゃぎで見ていました。顔は見せられないでしょうけれど、どうぞ覗いてやってください。ちょうど校長が読み聞かせをしている最中ですし――」
柔らかな口調ではあるが、相手に有無を言わせず喋り続けそうな気配を醸していた。人と話すのは好きだ、しかし、今はあまり拘束されると困る。長く居れば居るほどぼろが出る可能性が増す。
もし声を出せば一発でばれる。だから彼は顔の前で手を振り、教師長の誘いを拒否した。
すると彼女は、うってかわって申し訳なさげな顔を見せた。
「ああ、そうですよね、向こうでの勤務中ですものね。こうして心づかって来てくれただけでもありがたいと思わなければ。あなたが来てくれたこと、校長には後でお伝えしておきます」
とりあえず頷いておく。後々のごまかしは、ティーザ自身に任せよう。十分賢いから、うまいこと取り繕ってくれるだろう。
そして用件を処理するべく、彼は手元のバスケットの上にある黒布の塊を抱え取った。するとバスケットの中から、蛍を集めたかのような幻想的な光が溢れだした。
そのバスケットを、目を見張る教師長へ黙ってつき出した。
「これは……?」
バスケットを受け取って中身を間近で見て、それでも首を傾げるのは無理もないことだった。一つ一つが薄紙に包まれて光っている玉状の何か、数えきれないほどある。見た目だけではそんな風にしか認識できない代物だ。
白衣の人物は掟にのっとり言葉を発しない。その代わりに、袖の下から小さな封書を取り出して、バスケットの上に乗せた。
教師長はすぐさま開封して、短くしたためられた文章に目を通す。
『月と太陽が眠る夜、星空から秘密の贈り物。不思議な不思議なキャンディをかわいい子供たちへ。朝日を浴びたら光の魔法は解けてしまうから気を付けて。それでは、よい夜を。ティーザ先生の知り合いの、遠い世界の秘密の魔法使いより』
状況次第で使い分けられるよう、文面の違う封書をいくつか用意してきたが――例えば、ティーザの名を騙って書いた物とか、政府の要人からの心付けだとの次第にしたものとか――自身ではこれが一番気に入っていた。
「つまり、飴なのですね? 魔法使いのお知り合いだなんて……ふふっ、あなたはヴィジラなのだから、居るに決まっていますよね。詳しいことは聞かないようにします」
男は黙って首を縦に振った。まさか、同じ町にある喫茶店のマスターがこしらえたなんて思いもしまい。
あれは偶然の発見だった。自分としては捨てるべき失敗作であった。しかしそんなくだらない物でも、アメリアならば光るというだけで珍しがって喜んでくれるかもしれないと、おもちゃを与えるつもりで渡してみたのだ。……まさか迷わず口に入れるなんて思わなかった。散々人のことを不審がっておきながら、その手から出て来た怪しく光る石ころを食べるだなんて無防備なこと普通はしないだろうに、まったく甘かった。
しかし怪我の功名、おかげで憂うる子供を元気づけるのにちょうどいいプレゼントが見つかったのだった。
あの後さらに改良は加え、光は安定させたし、形もきれいな球になるよう調整した。今日の夕暮れにアメリアへ髪飾りとして渡した物がまさに完成形だ。ついでに少しだけ甘さも増してみた。とことん子供向けに、だ。
「感謝します、お知り合いにも丁重にお伝えください」
静かに頭を垂れる教師長に、対する男も深く礼をした。――この程度、たいした仕事ではないさ。調子に乗ってうっかり口に出しそうになったその言葉を、すんでのところで飲みこんだ。もしここで正体が露見したら台無しだ。
何事も引き際は大切である。男は言葉の代わりに大げさな動作で長衣を翻すと、学校に背を向けたのだった。
今まで生きてきた間にしでかした事の中では、これは間違いなく善行の方に数えられるのではないか、と、彼、サベオル=アルクスローザは歩みを進めながら思った。ただ自分の功だとはまったく思っていない。これはティーザの功績だ、体が一つしかない彼の手足となり、今宵彼のしたかったことを実現させただけ、と考えている。
もちろんティーザには何も伝えていないから、後で驚かせる事になるだろう。自分を騙った犯人が誰かは容易に察するだろうし、そうでなくても既に事は終わった後、スラムの子供たちが喜んだという結果が出てさえいれば十分だ。もしかしたらティーザから文句の一つ二つ投げつけられるかもしれないが、そんなの痛くもかゆくもない。
サベオルは橋のたもとまで来ると、一度だけ後ろを振り返った。学校の入り口に教師長の姿は見えない。さっそく館内でキャンディを配っているのだろう。
無事に第一の目的は果たした、ひとまず胸を撫で下ろす。もう仮面も必要ない。さっと脱ぎ捨てれば、妙な息苦しさから解放された。素顔で感じる夜風がいやに心地よかった。
「さて……不夜祭の最高潮はここからだな」
闇に溶かし小さく呟き、不敵に笑んだ。そう、果たしたのは第一の目的だけ。今宵の本命は今から動く方である。
サベオルは橋を渡らず、スラムの中を水路にそって下流へ進んだ。学校という光源が遠ざかると、闇はみるみるうちに深まった。此岸をわずかに照らすのは対岸にある小さな灯火のみだ。それでも、白き衣は黒に浮いていた。
やがて。人の視線はどこからも感じない、それを確認したところで、男はバスケットから取り上げて以来ずっと抱えていた黒い布の塊を広げた。
それは前開きのローブであった。今着ているものより一回りゆとりがあるサイズで、上から被れば下に着たものをすべて覆い隠してしまえる。
まずは袖に腕を通し、襟を前でぴたりと合わせる。裾も長く引きずる程に余っているが、これは懐に束ねて持っていた腰紐で調節し、ぎりぎり引きずらないが足元を覆い隠す丈で縛り留める。最後にフードを目深に被れば、白き衣は完全なる黒へ塗り替えられた。
まるで黒いカーテンを体に巻き付けたようだ。もしアメリアが見たら、そう言って指差し笑い転げるだろう。少々厚ぼったい衣装を整えながら、葉揺亭のマスターは苦笑した。
そして別の誰かが見たらこう思うかもしれない。「あらマスター。ルクノラム教に入信したの?」と。かの教は黒い衣を祭服とするのだから。なぜ黒を奉るか、理由は実に単純で、彼らの神ルクノールがイオニアンの地上に顕現した際に、世界を覆う闇を切り取り衣として纏い、その姿で人を導いたゆえ、黒衣はすなわち神に連なる者の装束だと。
「私は神だなんて信じない。だが……一夜限りなら許されるだろうか」
フードの奥の暗い闇に、かすかに苦み走った笑顔が浮かんだ。
不夜祭において今宵は特に重要な日だ。灯火を持った人々が街中を練り歩いて夜闇を払い、新たなる朝を迎える。もちろん実際に今日を限りで夜がなくなるわけではないが、町人の精神的な支柱になる、言わば儀式なのだ。
であるならば、安らぎは町の全ての住民へ平等に訪れるべきだ。そうなるように人は手を尽くすべきだ。過日の葉揺亭にて少女たちがパレードの話をしていた時に、店の主はそう思った。ただの夢物語で理想論、しかし、理想を現実まで引きずり下ろすだけの力を彼は裏に持っていた。
だから動くことにした。この特別な夜、この祭りの最中に限り、常時張り付けている「マスター」の仮面をかなぐり捨て、なおかつ皆が信じてやまない理想の神を演じてみせようではないか、と。
右袖の中に一振りのワンドを隠し持っていた。銀色のそれは先が細まるだけで飾り気は皆無、長さは腕の半分ほどで無駄がない。外気に晒すと、極わずかな光をも反射して静かにきらめく。彼はそれをしかと右手に握りしめた。
黒いローブで杖を握る姿は、作り話に出てくるような古風な魔法使いそのものだ。あるいは教会が神として奉り、魔法都市が邪悪なる魔術師として憎む、闇を纏った超常の存在そのものだ。
葉揺亭のマスター、いや、突如として現世に降臨した神ルクノールは、夜闇すら我が物だと言わんばかりに悠然とスラム街へ侵入していった。




