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魔性の月夜に見たものは(1)

 夜浅きノスカリアの酒場にて、仕事に疲れた男たちが卓に集っていた。大きなジョッキや大盛のつまみが並ぶ円卓を三人が囲む。


 そのうちの一人、鍛冶屋の男がふと呟いた。今まで上機嫌だったのが嘘のように、蝋燭を吹き消したように暗く沈んでいる。


「なあ、聞いてくれ。俺、昨日、こんくらいの時間に、悪魔を見たんだ……比喩とかじゃなくて、マジもんのだ」


 酒宴の場に似合わぬ真面目くさった顔でぶるりと身震い、それから縋りつくようにジョッキを取り、きつい蒸留酒を喉に流し込んだ。


 彼の連れの男たち、大工と宿屋は、揃いも揃って泡を食ったような顔をしていた。


 が、一呼吸おいて大爆笑に転じる。天井を割らんかの勢いで、一瞬、店中の視線を集めた程だった。


「悪魔だって!? んなもん居るか、どっかのアビリスタだろ! この町にゃ腐るほどいるじゃないか、何を今さら驚くことがある?」

「そうだそうだ。人間じゃなけりゃ新手の魔獣だ。腹が減りでもして、森の奥から出て来たんだろうさ」

「いいや違う、ありゃ絶対に悪魔だ。おめえら見てないから言えるんだ。どう考えても人間じゃなかったし、この世のものでもねえさ。ああ、きっとこの世界を滅ぼしに魔界からやってきたんだよ!」


 真っ赤な顔をしておきながら、鍛冶屋はガタガタと寒気に震えている。その肩を、大工が上機嫌に叩いた。すでに赤ら顔にできあがっている男の力は加減を知らず、鍛冶屋は痛みに顔をしかめている。


「おう、鍛冶屋の! なにガキみてぇなこといってんだ! だいたい魔界ってなんだよ! いや、悪魔ってなんだ! なんだあ!?」

「なにって、怖い怖い化け物だろう。子供だってわかる事だ」

「化けモンなんてよぉ、いーっぱいいるぜ。東の森にゃ魔獣が山ほど住んでるわ、アビリスタ連中だって、とても人間じゃねぇ。なあ、宿屋の!」

「そうだぜ。うちのギルドにも空飛ぶ奴くらいいるし、人間じゃないものに変身するやつだって、んなもん探せば何人もいるだろうよ。ここは天下のノスカリアだぞ?」

「いや……そんなものじゃねえよ……おまえら見てねえから……。ああ、とんでもねえもん見ちまった! ぞっとした、寿命が縮んだぜ、絶対! 命ぃ吸い取られたんだ!」

「おうおう、じゃあなんで今ここで酒飲んでんだよ! ずいぶん優しい悪魔ちゃんだことでちゅねー」


 鍛冶屋が悲痛な声を上げ、大工がそれを茶化す。そんなやりとりを、宿屋の男が苦笑いしながら見守っていた。なんてことはない、酒盛りをしていると、脳が酒に浸って狂想じみた言動が飛び出すのは日常茶飯事だ。


 しかし、悪魔とは。宿屋の男は水で割った酒を傾けながら、友人が形容する謎の存在に思いを馳せる。その怪物は酔っ払いの戯言がつくり出した幻想か、それとも現実に居るものなのか。


――あぁ、こういう変なことは、変なことばっかり知ってる奴に聞くのが一番だな。


 宿屋の旦那、オーベルが燕尾のベストを纏った某人を思い浮かべるには、酒気の入った頭でも時間がかからなかった。




「……悪魔?」

「おうよ」


 珍しく昼前――前の晩、遅くまで騒いでいたせいだ――に来店したオーベルの問いかけに、葉揺亭のマスターは片眉をつりあげ、怪訝な表情を見せた。振り向いた格好で静止し、ふむ、と考え込む。その手には、表面に幾何学模様が浮かぶ大きな植物の種が掴まれていた。


「そいつの話によるとだな、ぱっと見は人間みたいな影で、だけど、見るだけで寒気がする禍々しい感じを放っていた、だと。でもって、紅い月を背景に、でっかい翼を広げて飛んでたと。あと尻尾があったらしい。他にも魔界だとか命が吸い取られるとか、わけのわからん話もしてやがったけどよお……本当に居るのか、そんな、おとぎ話の悪魔なんてもの」


 マスターは無言のまま、オーベルのまくしたてた話を受け取った。出したコルブの紅茶に口をつけるより先に、一体何を言い出したのと思ったら、まさかそんな事とは。


 とりあえず、手に持っていた物体を火にかけてある小鍋の中へ放り込む。すると、ぐつぐつと湯気を上げていた鍋から紫色の煙がしゅうと吹き出した。間近で鍋を覗きこんでいたブロンドの少女が、子犬のような声をあげてのけぞった。


「だから離れていた方が良いって言ったのに」


 マスターは苦笑してから、次いで、表情はそのままオーベルに向き直った。


「それは、どこぞの異能者さんの仕業じゃあないのかい? まずはそちらを疑うべきだと思うが」

「やっぱりそうだよなあ。常識的に考えて、アビリスタ連中がまーたなんかやらかしたって話で何も不思議じゃねえもんな」

「仮に邪悪なる破壊の使徒が飛来したとして。ではなぜその者は何事をも起こさないのか? 語られるように悪の象徴だとすれば、とっくに世界は破滅へ歩んでいるはず。闇に紛れて大事を成すが目的たれば、それこそ姿を見た者の命など――どうした、アメリア」


 マスターは服を引っ張られたことに反応し振り向いた。アメリアが不安げに焜炉(コンロ)を指し示している。見れば、鍋から黒い煙がもうもうと上がっていた。ついでにきめ細かい泡も山盛りに。


「問題ない」


 一目見るなりマスターは言い切った。むしろ順調なほどで、アメリアもちょうどいい頃合いに声をかけてくれたものだと思う。


 話を中途に、用意しておいた小皿を手に取った。そこには白い砂状の結晶が山盛りになっている。煌めく砂粒を、泡吹く鍋にさらさらと加える。すると、危険な様子を見せていた鍋が一気に大人しくなり、煙も泡も収まった。代わりにというわけではないが、アメリアから、おぉと驚嘆の声が湧いた。


 そんなカウンターの外で、オーベルがせいせいしたとばかりの顔をしていた。


「まあ、博識なあんたがそう言うって事は、やっぱりあいつが見たのはその辺のアビリスタだな! 何が悪魔だ、何が魔界から来ただ! いい歳して寝ぼけた話をしやがってよ! どうせその夜も酔っぱらってたんだろ!」


 ははっと嘲笑にも近い笑い声をあげ、宿屋の男はようやく思い出したように紅茶のカップを手にした。少し温んでしまったが、賭けに勝ったような満足感で口にする茶は、この上なく美味であった。

マスターは木べらで鍋の液体を混ぜながら、晴れやかな顔をしている客人に一瞥くれた。そして、事もなげにさらりと言う。


「まあ、居るのは居るんだけどね、そういう『悪魔』なんてされるもの」


 オーベルが前につんのめった。息と共に茶を吸い、むせて激しく咳き込む。


「大丈夫ですか!?」


 気づかいの声はアメリアからあがったもの。慌ててカウンターから飛び出し、陸上で溺れたかの様相を示すオーベルの背を撫でさすった。助けられる当の本人は、苦しいというよりは、恨めしいという顔でマスターをきっと睨んでいたが。


 厳しい目を意に介せず、マスターは逆ににっとほほえみ、空いている左手の人差し指を立て、楽しそうに講釈を始めた。


「一般に悪魔と見なされる存在、言い換えればおおよそ人に近いが人よりもはるかに強い魔力を持ち、大多数の人とは異なる摂理の下に生きる者たち。それは確かにこの世に居る。だが『悪』と断ずるのは好ましくない、僕はそう思う。姿かたちが人に近しい異形を包括した『魔人』という呼称が古きにあるから、これを使おうじゃないか」


 指を立てて対面席に語りかけながらも、目線は横、火にかかった小鍋の中へ向きっぱなしだ。一度静まった後、今は再び怪しげな色合いの煙を上げ始めており、マスターはそれを真剣に見守っている。


 集中力は他所へ向いているが、しかし口を動かすのにも一切のよどみが生じない。


「かつては実に多様な魔人が地上に存在した。過程は長くなるから省くとして、とにかく、魔人は多数派となった人間とは異質な力や姿を持つがゆえに恐れられ、人の手により歴史の表舞台から追いやられてしまった。いくら力が強かろうと、数の圧力には敵わなかったのさ。多くの魔人は滅びの運命をたどった。しかし今でも細々と受け継がれている血脈がある。それが今日に言う『亜人』だ。オーベルさん、あなたの所にも居るだろう?」

「ルルーの事だな」


 オーベルの即答に、マスターはにこやかにうなずいた。『深緑(しんりょく)の民』と呼ばれる、樹海に暮らす亜人種の女、ルルー。人間とは違う、すっと長く尖った耳を持っている。そして外見の他にもう一つ、彼女たち深緑の民は長命で、肉体が老いるのも遅い大きな特徴がある。ルルーの場合は二十代の娘にしか見えないが、その実五十年近く生きている。


「『深緑の民』の起源は、人間の襲撃から逃れて深き森へ隠れ住むようになった、麗しく儚い魔人たちにある。あえて妖精と言った方が印象が近いかもしれない。樹海に守られて文化を守り続ける、古来よりの人ならざる大地の友だ」

「いや……儚い妖精……ねえ」

「ま、祖先の性格がそのまま子孫に映るばかりでもなし」


 男性顔負けの豪胆さとたくましさを兼ね備えるのがルルーという女だ。儚さなど欠片も無い、大嵐が来ようと平気で狩りに出かけそうな性格。人間の襲撃から逃れる? いいや、ルルーなら逆にこてんぱんに襲撃者を打ちのめすだろう。そんな共通の想像をして、二人は苦笑していた。


 どこか抜けた空気を彩るように、ぽこりぽこりと音が鳴る。火の上にある小鍋から立つものだ。様々な物が煎じられている最中、少し煮詰まってきた所で粘度のある音に変わって来た。


 ――順調だ。


 なおかつ話を続ける時間もまだある。小さな咳払いの後、マスターは講釈を軌道に戻した。


「つまるところ、オーベルさんのご友人が見たものは、古き魔人の血を色濃く残す末裔ではないだろうか。あるいは人知れず悠久の時を生き抜いて来た、古代の生命体そのものかもしれない。こんな推理はどうだろうか? 魔人たちはその魔法の力で、昨今の亜人以上の桁外れの生命力をもっている場合がほとんどだ。それこそ立ち昇る気だけで人間を飲み込み怯ませる程に。そうだ、そもそも魔法とは、魔人たちが扱う不思議な法術だから『魔法』ないし『魔術』と呼ぶんだよ。これ、知っていたかい?」

「もうどうだっていいわ」


 オーベルはさも興味ないとばかりに言い捨てた。聞きたかったのは、悪魔の正体がなんなのかということだけ。それがわかったらもういい、むしろマスターにはそろそろ話を畳んでもらいたい。目をきらきらさせて饒舌に語られるのは、一般人には理解の及ばない領域の知識だろう、そんな話は聞いていてもおもしろくない。おまけに聞き手に構わず喋り続けて止まらなくなるから、興味のない話題でやられるのはなかなか苦痛だ。


「結局は、あいつが見たもんは不吉なものじゃないって事だろ? 亜人の仲間だってなら、そういうことだよな」

「さあね」

「さあって……」

「古き記録には、怒りにかられた異形のものがたった一夜でこの世界を半壊させた、なんて話も残されている。だからそう、たとえば明日、君たちの目の前にその『悪魔』とやらが現れて、首をはねて血をすするようなことが起こっても、別におかしくはない。夜闇に隠れ住む魔の者は、その姿を見られる事すら厭うのが常だ。今まで誰も存在を知らなかった、それすなわち、これまで存在を知った者は全員口封じをされて来たため。そうは考えられないかな」


 不敵な笑みを浮かべながら、亭主は含みを持たせて語った。艶やかな漆黒の瞳は、しかしどこか冷ややかな光を灯している風にも見える。


 葉揺亭は水を打ったように静まり返った。大常連の男はカップを傾けかけたまま、血の気を失って固まっている。世にも恐ろしき悪の者が襲い来る、彼の目にはそんな幻影が見えていた。ぼこぼこと泡が沸き立つ重い音も、禍々しい者が飛び出してくる予兆に聞こえる。


 ほとんど同じイメージをアメリアも共有して、マスターの顔を見たまま凍り付いていた。


「オーベルさん」


 マスターは暗い夜闇に次ぐ黒い目を真摯に形作り、恐怖にすくむ客人に至極深刻そうに投げかけた。


「……後半は冗談だよ」

「んな!?」

「ああ、まったく君たちはおもしろい! 魔法なんてなくても、言葉の一つだけでそこまで揺さぶられるんだもの」

「そ、そりゃ! あんたがクソ真面目な顔でもっともらしい事を言うからだな!」


 反射的に食ってかかるオーベルだったが、にやにやと笑っているマスターを見ていると、気持ちはすぐにしぼんだ。ここの店主に言葉による殴り合いで勝つのは無謀だ、論理の引き出しが多すぎる。直情的な宿屋の男は拗ねた子供のように鼻を鳴らすと、冷めたお茶で舌を潤おした。


 一方のアメリアが、青い目を丸くしてマスターに問いかけた。


「でも、『後半は』ってことは、前半の、世界が滅びかけたっていうのは本当なんですか!?」

「ま、そういう記録はあるよね。それも一度に限るものではなし。何をもって破滅と定義するかにもよるけれど――ああ、アメリア、そこの包みを取ってくれないかな。そろそろ頃合いだ」

「あ、は、はい!」


 衝撃の事実に頭を打たれたショックから慌てて立ち直ると、アメリアは作業台の中央に置いてあった平たい布包みを取り、重量を支えるよう両手でマスターに手渡した。


 受け取りざまに、幾重にも巻かれた灰色の布を取り払う。すると中から出てきたのは、二枚の硝子板に挟まれた丸い葉っぱ。手のひらほどの大きさで、蓮の葉を思わせる形状のそれは、しかし、青空と白雲を映しこんだかのような不思議な色合いだ。


 マスターは硝子板をそっとずらし、葉の縁を少しだけ露出させ、その部分を指先でつまむようにちぎりとった。わずかに小指の爪ほどの量、それを一旦作業台に置くと、板と布を元通りにして残りを手早く片付けた。


 さて、先ほどから続いている光景は、喫茶店にしてはいささか奇妙なものである。マスターも言及しないし、わざわざ話の腰を折ってまで聞こうと思わなかったから放置してきたが、そろそろ気になる。


「……で。あんた今なにやってんだ、それ」

「ああ、これ? 久しぶりに、本格的な薬湯の調合でもやってみようかと思って」

「堂々とよくやるわ。秘密じゃなかったんかい」

「オーベルさんは知っているから怪しい薬だと思うだけで、何も知らない人から見たら、変なお茶でも作っているものだとしか思わないよ。ここは喫茶店なのだしね」


 なるほど一理ある、とオーベルは納得した。葉揺亭のマスターが魔法薬じみた茶を煎じられる、その事実を知るのは、身内を除けばオーベルのみ。何も知らない客が怪しんで同じことを訊ねても、マスターが新進気鋭の創作茶だと言い通したら、それで終わりだ。葉揺亭のマスターは少々変わり者である、そちらの事実は割と広く知れたるものであるからして。


 マスターは軽い調子で笑い声を上げながら、葉っぱの切れ端をもって鍋のもとへ向かった。


「さあ喋っている内に煮出しも終わった、これが最後の仕上げだよ」

「あのう、大丈夫なんですか。なんかすっごい変な色ですけど」


 アメリアが不安そうに鍋の中身を覗き見ていた。黒く濁った錆色の液体が、ぼこぼこと篭った音を立てている。どんよりとした色もさることながら、粘性が強いのも気味の悪さに拍車をかけている。


 が、マスターは爽やかな笑みで頷いた。


「大丈夫どころか理想状態だ。よし、アメリア、少しだけ離れていて。万が一のことがあって火傷をするといけないから」


 そう言いながら、マスターは焜炉のスイッチに触れ火を止めた。もうもうと蒸気がたち続ける一方で、泡の起こりはすっと静まった。そこで件の葉片を鍋に浮かべ、経過を真剣に見守る。


 やがて。マスターの表情が変わるより先に、一歩退いた場所で目一杯背伸びをして覗きこんでいたアメリアが、はっと息を呑んだ。


 まるでそれが合図だったかのようにマスターが鍋を持ち、シンクへと向かう。そしてあらかじめ用意しておいた真鍮のポットに、鍋の中身を濾して入れた。鍋から流れ出る液体は、先のドロドロとは打って変わってサラサラとしており、色も別ものに変わっている。


「赤くなりましたね!」


 アメリアは興奮冷めやらぬ様子でマスターにまとわりつく。彼女の期待に応えるかのように、店主はできあがったばかりの薬湯をカップに注いだ。ご丁寧に、硝子のものを選んで。


 真鍮の細首から静かに流れ出て来た液体は、見まごうことなき鮮やかな赤色。なおかつ不気味なほどの透明感がある。マスターも満足そうに眺めていた。


「うん、良い色だ。双月の片割れのように(あか)い」


 熱の籠る薬湯からは、静かに蒸気が立ちのぼる。その傍らでアメリアが顔をしかめていた。


「んー……ピリピリする」

「なんだ、赤カラシでも入ってんのか」


 赤カラシ、料理に辛味をつける時にしばしば用いられる香辛料だ。普通の調理でも刺激を感じるし、万が一焦がした煙を充満させでもしたら大変だ、ピリピリどころの騒ぎでなくなる。


 赤くて刺激的な飲食物と言われれば、まず真っ先に赤カラシが思い浮かぶものだが、マスターは首を横に振ってそれを否定した。


「違うよ。刺激と赤色の原料は、ディア・ブラド、『悪魔の血石』さ」


 得意気なウインクを見せながら朗々と言った。


 悪魔。世界を滅ぼした、恐ろしき魔人の血。カップに注がれた液体と結びつけるなと言う方が難しい。途端に店主の笑みが恐怖に値するものに変貌したような気がして、聞き手二人は揃って顔を青くする。


 堪えられないとばかりにマスターが吹き出した。


「二人とも、本当にいい反応だ。写し絵にして残したいくらい」

「おまっ……わざとだな!? 嘘言って楽しんでやがる、この性悪め」

「僕は嘘はつかないよ。本当にそういう名前の物があるんだ」

「マジかよ」

「ああ」


 マスターは軽く肩をすくめた。


「正体はとある樹木の根にできるこぶだ。石のように硬いそれは、血が固まったように赤黒い色をしている。切った断面を舐めてみると辛くてちょっと酸っぱい。あと、錆鉄の味がする」


 事もなげに店主は語るが、果たしてそれは口に含んでいいものなのか。想像するだにけったいな代物だ。少なくとも常人の関わるべきものではないだろう。オーベルは興味がないとアピールするべく、頬杖をついてぶすっとした。


 明らかなる話の拒絶、それを見てもマスターの舌は止まらない。大人をからかう子供のようににこやかに笑って、どこか芝居がかった風にぱあっと手を開く。


「そして、今回はそこに色々と混ぜてみました! まあ、効果は多方面で出る組み合わせなんだけど、最低限、滋養強壮疲労回復、それと老化防止も期待できるかな。そして多少寿命が延長する、かも。定期的に服用すれば、かなり長生きできる、かも。それこそ老いず死なずの魔人のように」

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