少女アメリア勉強中
自分以外に誰も居ない。それを念押しするように、アメリアは辺りをきょろきょろと見渡した。立っているのは店のカウンターの中である。
葉揺亭の店内に客が一人も居ないのはよくある事。だが、マスターの姿すら無いのは珍しい。と言うのも、唯一の店員であるアメリアが茶を扱えないから。いつ客が来てもいいように、店主は暇でもカウンターに座っているのが常なのだ。
ところがつい先ほど、マスターはふと何か思い立ったように「しばらく自分の部屋に居るから」とだけ告げて、奥の居住空間へ消えたのである。ちょっと、ではなく、しばらく。そこが重要だ。
誰にも見られていない店の中、こんなの滅多にないチャンスである。普段はやってみたくてもできない事をこっそりできる。
それは何か。そう、一人でお茶を淹れる練習だ。
普段はマスターが守っている場所に、アメリアはドキドキする胸を押さえて立った。
右手方向には焜炉がある。細められた魔法火の上で、真鍮のケトルに湛えられたお湯が小さな泡を立てている。空焚きにならないよう気を付けて見ておくべし、それはマスターに常々教えられていた。
目の前から左方向には、清潔に保たれたワックス仕上げの作業台が広がっている。客側のカウンターより少しだけ低くなっていて、その段差の壁沿いによく使う茶葉の入った缶が並んでいる。また、四色の砂時計や、匙に計量カップ、他、お茶を作るのに必要な道具も整頓されて揃っていた。
アメリアはこの場に立つマスターの影を記憶の中から呼び起こす。その人は陶器のポットを台上に置いて、そこにお湯を注いだ。それからポットを軽くゆすると、すぐに小ぶりのボウルの中へ湯を捨てる。そうだ、最初は湯通ししてポットを温めるのだ。
――了解!
そんな気持ちでアメリアは軽く手を叩くと、回れ左で食器棚へ向いた。
天井近くまでそびえるオーク材の食器棚には、数多のティーセットが陳列されている。席数より圧倒的に多い。大半は白く飾りのないシンプルなものだが、棚の上の方に行けば行くほど、色彩や形状の変化に富む。マスターはこれらを茶や客に合わせて色々と使い分けている。それがどういう基準なのか、アメリアは知らない。
せっかくなのだから普段滅多に使わない、例えば上から二段目にあるいかにも高級な金ぴかのセットなんかを使ってみたい気もする。が、やめた。また下手に触って壊しでもしたら、なんて言い訳していいかわからない。結局アメリアが選んだのは、一番手に取りやすい位置にある普通の白い磁器のティーセットだった。
再び回れ右して、早速実践に入ろう。マスターの真似をしてポットに湯を注ぎ、くるくると十周ほど回してから中身を捨てる。空になったポットを両手で包めば、確かに温もりが宿っている。なんだか嬉しくなって顔もほころんだ。
では、次。温めたポットに茶葉を入れる所だ。何を使おう、それがなかなか難しい。目の前に並んでいる紅茶缶には茶葉の名前が書いていない、と言うのも、そうする必要が無いから。扱うのはマスター一人、自身がわかっていれば十分なのである。万一にも中身を忘れてしまったり、あるいは悪戯で缶の配置が変えられたりしても、実物を見ればその正体がマスターにはすぐにわかるそう。だからラベルは必要ない。
アメリアにはマスターのような技能はない、頼りになるのは日常の記憶だけ。客が何を注文すると、マスターがどれを手に取るか。常に隣で見ていたのだからある程度はわかる。しかし、記憶そのものが違っている場合を確かめる術はない。
恐る恐る手を伸ばしたのは一番右端の缶だった。これが、きっと、シネンスの茶葉だ。頻繁に使われるから、正しい自信が一番ある。
蓋を開けると、中には細かいサイズの濃褐色の茶葉が詰まっていた。マスターに作ってもらうシネンスの紅茶でも、割と小さい茶葉が浮かんでいた覚えがある。よし、とアメリアはひとり頷いた。
茶葉の種類に迷ったのは、それが量と蒸らし時間を左右するため。あまり適当にやってまずいお茶をつくっても仕方がない。
では、茶葉の量はどれほどだったか。カップ一杯分につき、計量用のスプーンですりきり一杯の茶葉が基準、マスターがそう言っていた。茶葉の大きさや種類で云々と続くのだが、この基準というのがずばりシネンスのことだから、今はそこまで考える必要はない。
アメリアは丸い匙を缶に入れ紅茶の葉をすくう。よく乾いてさらさらだから、小さく指を震わせれば簡単に山が崩れ落ち、すりきり一杯の量となった。それを二杯分白いポットへ。ポット一つでおおよそカップ二杯分の茶をつくれるから、葉揺亭では基本的にその量で出している。変に自己流に加減するよりも、基本を忠実に守った方が簡単だ。
さて次は、湯の量。マスターは普段計量をしていない。手に感覚が染みついているからなせる技だ。もちろんアメリアにはそんな真似できないから、まったく同じにやる事は早々に諦める。が、すでに対策は浮かんでいた。
アメリアが意気揚々と手に取ったのは空のティーカップ。飲むカップで白湯を二杯分計りとり、それをポットに移せば、多くも少なくもなりようがない。なんとも名案ではないか。アメリアは自分で自分の発想を褒めながら、湯気吐き出すケトルを取って作業に入った。
アメリアはすっかり没頭している。熱々の湯がたっぷり入った重量のある真鍮製のケトル、これを上の空で持つには少し怖い、両手でしっかりと落とさないように掴まないと。そんな風に手元へ全神経を向けている。
だから、傍らでとんだ大事件が起こったとしても気付けなくて然るべし。例えば、すぐ背後にすらりとした背格好の男が立っていて、口元に手をやり愉快そうににやつきながら自分の手元を凝視している。いつの間にかそんな事になっていたとしても、だ。
アメリアは計り取ったお湯を白いポットに入れ、蓋をした。あとはマスターが「蒸らす」と呼んでいる時間を取って、飲み頃になるのを待つだけである。
待つだけなのだが。アメリアは蓋の上にぴっと人差し指をあてた。そしてぐるりと円周をなぞり、ついでに心の中で「おいしくなりますよーに!」と唱える。これはアメリアが考えた秘密のおまじないだ。自分は魔法使いなんかじゃないけれど、こうやってお茶の神様にお願いすれば、不思議な力でおいしい紅茶にしてくれる。たぶん、きっと、なるはずだ。根拠はないけれど。
やっておいてから少し気恥ずかしくなって、喉がむずむずしてくる。アメリアは小さく咳をして、いそいそと砂時計に手を伸ばした。それぞれ違う色の砂、それぞれ微妙に異なる大きさで四つ備えてある。それぞれで計れる時間が違い、紅茶の種別で適切な物を選んで使う。シネンスの場合は一番早く砂が落ちる赤いものを使う。以前に、綺麗だなあと砂時計で遊んでいた時にマスターが教えてくれた。
食べごろのイチゴのように赤い砂が落ちいくの眺めながら、アメリアは溜まっていた息を吐き出し肩の力を抜いた。後ろ手に組んで、ぐっと腕を伸ばす。
その瞬間だった。
「どうだい? ちゃんとできたかい?」
「ひゃぁい!?」
突然耳元で囁かれた声に驚き、化け物に遭ったかのように跳び上がった。そのまま振り向こうとして重心のバランスを崩し、あわあわと作業台に背をもたせる。そして腰が砕けたように沈んでいった。
アメリアの青い眼が恨めしく形作られる。それは笑いを噛み殺している主人の顔を射抜いていた。
「いっ、居るなら居るって言ってください! びっくりするじゃないですか! もうっ、マスターのいじわる!」
「ハハッ、ごめんごめん。あんまり集中してたものだから、つい声をかけそびれちゃって」
「……どこから見てたんですか」
「わりと最初から。茶葉を出すあたりだね。まさか、ここまで気づかないとは思わなかった。ちゃんとドアを開けて入って来たんだよ? 音もするのに」
それは集中していたし、まさかもう戻って来るなんて思わなかったから。もちろん背中に目はついていないから、後ろの様子なんて見えるはずがないし。
しかし、失敗だ。アメリアはぺちんと額を打った。こうやってこっそり一人で勉強していたのは、いつかマスターをびっくりさせたいと思っていたからなのに。
そして懸念はもう一つ。なにせマスターは茶の事には細かいし口うるさい。ほぼ始終を見られていたのなら、これからダメ出しの嵐が訪れるに違いない。自分の実力不足とはいえ、あまり言われると悲しくなる。
そうなる前に笑ってごまかし言った。
「まだまだ、全然ダメですよね」
「そりゃ色々言いたい事はあるけれど。ま、とりあえずはできあがりを見てからにしようか」
マスターは普段と変わらない優しいまなざしを向けた。時を計る赤い砂は、もうすぐ落ちきりそうだ。
それから。アメリアは作業台にかじりつくように蒸らし終わりを待っていた。一歩離れたところで、マスターが手出ししないよう見守っている。
「おっ、時間だ。さあアメリア、ここからはどうする?」
「えーと、ちょっと混ぜるんですよね」
アメリアはすまし顔で長柄の匙を手に取った。熱いポットの蓋を取ると、中に押し込められていた熱気が吹き出してきた。そっと中を覗けば、茶葉の沈む底と上澄みとで濃淡のグラデーションができている。そんな液体を匙で二周三周とかき混ぜた。渦ができるように強く、念入りに。かちゃかちゃと金属と陶器が触れ合う音の中で、茶の色は均一になった。もう一度蓋を閉じたら、紅茶は完成だ。
さっそくアメリアは湯通しした温かいカップに向けポットを傾けた。細い首の先から流れ出たのは、きちんとした紅茶だった。とりあえず見た目に異常はない。一安心である。
気になるのはお味のほど。アメリアは口をすぼめて息を吹きかけ、それからゆっくりと紅茶をすすった。
熱い。そして渋い。旨みより香りよりも、がつんとくる渋さが特徴的だ。むしろそれしか印象に残らない。マスターが淹れるものとは少々、いや、かなり違う。店主作のシネンスは、彼の微笑みを体現したかのように穏やかな舌触りである。
アメリアは眉をひそめて首を傾げた。確かに多少勝手が違った部分はあった。だから、多少仕上がりが変わってくるのはしかたない。しかしここまで明白に劣化するのはどういうことか。ポットに茶葉を入れて湯を入れて待つ、大筋の工程は間違えようがない単純さであり、マスターがやる通りこなした。それなのに、何がこんなに違うのか。アメリアは頭で湯が沸かせそうな程に悩んだ。
それを見て、ようやくマスターが口を割って、どこか楽しげに指摘する。
「飲めるには飲める。が、渋いんだろう? あと、僕が淹れたのよりかなり薄い味になった」
「な、なんでわかったんですか!? 飲んでもないのに」
「わかるさ。僕を誰だと思ってるんだい?」
にやりと笑うはその道の熟練者。アメリアの些細な間違えすら、その目に見逃されることはなかった。職人気質がそうさせるのだろうか、まだ三十歳手前の若い風貌に反し長く生きたもの特有の気配を醸している。
マスターは鷹揚に胸を張って、人差し指を立てると、まだ駆け出しの少女に高説をたれた。
「渋い原因。まあ色々とあるけれど、最たる理由はできあがった時に混ぜすぎだ。茶葉を下手に刺激すると、嫌な渋みが増す」
「あっ……」
「それとは別に、あんな風にがちゃがちゃさせたら美しくないよ。自分の動作を傍から見ていると想像してごらん、感じが良くないと思うはずだ。自然に、静かに、優しく、一度軽く回すくらいで十分だ。まあ、さしずめ一生懸命やろうとしたのだろう。残念ながら、それが仇になったのさ」
ふっと笑うマスターに、アメリアはただただ感心していた。
まだマスターの紅茶講座は終わらない。次の問題点を見せるべく焜炉の前に立ち、アメリアを手招きした。そのまま弱い火にかかっている真鍮のポットを覗くよう、指をさして促す。
二人で覗きこんだポットの湯は、ふつふつと小さな気泡を浮き上がらせていた。
「シネンスにこんな沸いていないお湯を使っちゃあいけない。これが一番よくない」
「えぇ? 沸いてるじゃないですか。どう見てもぶくぶくしてます」
アメリアは頬を膨らませて食って掛かった。
マスターは苦笑して、ぷんと張った頬を両手で優しく挟んだ。するとアメリアの口から空気と不満が漏れて消える。そして、また指を立てて教授した。
「いいかいアメリア。こんな程度じゃ沸いている内に入らない、紅茶を完全に抽出するには、もっと高温の……そうだな、銅貨と同じくらいの大きさの泡が出て、水面も激しくうねっている状態が理想だ」
言いながらマスターは魔法火の焜炉の操作盤をいじった。火の発生源になっている紅晶石へと流れ込む魔力が増幅し、炎が大きくなった。
高い熱が伝わるにつれ、徐々に湯の沸き方が激しくなる。小さかった泡はどんどん大きく、多くなる。ぼこぼこと次々現れる泡に水面が踊らされ、果てにはうねり続けて止まらなくなった。そこでマスターが興奮気味に口を開いた。
「ほら、見て、これだよ! さっきまでと全然違うだろう? ここまで温度を上げてやらないと、抽出されない成分があるんだ。だからいつもと味が違ったというわけさ」
「でも、マスターもいつも弱火で置いてますよね」
「保温のためにね。使う直前には一回火を強くして沸かせているよ」
「そうでしたっけ」
「そうだよ。ちゃんと見ておくように」
「はーい」
アメリアが右手を上げながら晴れやかな返事をした。
それから後にもマスターの細かい解説が続く。それほどまでにアメリアの仕事が悪かったのか。いや、そうではなく、単に喋りだしたら止まらなくなったと言う方が正しそうだった。
そろそろ疲れてきた。そうだ、今日の夕飯はどうしよう――などとアメリアの集中力が散り始めたところで、ようやくマスターの高説が一段落した。ふう、とアメリアは息を吐く。
「なんだか思ったより複雑です。全然わからない」
「確かに奥は深い。でも、基本は非常に単純だ。それにちゃんと教えたわけでもないのに一応は形になっていた、十分わかり始めているよ。さすがは僕のアメリアだ、素晴らしい」
マスターはしめくくりに一つ褒め言葉を手向けて、アメリアの頭をなでた。
そうしておいて、ふと尋ねた。
「一つだけ聞きたいんだけどさ。さっきやってた『これ』はなんだったんだ?」
これ、と言いながら、マスターは手をポットの蓋にやると、すらりと伸びた指で丸を描く。それはアメリア独自の何か、店主の知見にはなく、意味する所が気になってしかたがない。
――しまった、それも見られていたんだ。
思った瞬間にアメリアの顔はかっと赤く染まった。マスターを直視できなくなって目も逸らす。
そんなことをすれば、逆に不思議がられてしかるべき。追及は止まない。
「なんだなんだ? どうしたアメリア」
「えーっと、それは、その……こう、なんとなくやってみた、って感じの……」
「あ、わかった。おまじないだな?」
アメリアは両手の人差し指同士を合わせて、おずおずと頷き、上目がちに主人を見た。その仕草がおおいにマスターを破顔させた。
「ハハッ、なんだ、そういうことだったのか! なるほど、おまじないか、フフッ」
「だってだって、マスターとは違うんですもの。おいしくなるんだったらおまじないにも頼りたくなります。もう、マスター笑いすぎですっ!」
「ごめんごめん。かわいい事するなあって、本当に、君は!」
なおもマスターは押し殺したような笑い声をあげている。あんまりだ。アメリアは赤い顔のままむくれてそっぽを向いた。
ちらりと視界の端を飲み残しているカップが掠めた。それを手に取って、もう一度味を確認しておく。
やはり渋い。温くなって一層それが際立っている。とても残念な結果だ。
アメリアの肩にマスターの手がぽんと置かれた。
「大丈夫だよ、アメリア。なにごとも最初から完璧にできる人間なんて居ないんだ。たくさん失敗して、たくさん勉強しなさい。自分でよいと思うなら、おまじないでも神頼みでも、なんだってやってみればいいんだ。その方が良い気持ちでできるのなら、ね」
「……はい!」
勉強する、それには葉揺亭の穏やかな時の流れはうってつけだ。今日みたいに、ちっともお客さんが来ないことだって珍しくない。時間は十分にあるのだから、憧れの人の背中には、少しずつゆっくり追いついていけばいい。
「そうだ、アメリア。さっそくだけど、勉強がてら僕にお茶を淹れてくれよ。手が暇なのだろう?」
「わかりました! 何がいいですか?」
「うーん、今日は『カメラナ』がいいな。茶葉はシネンスの隣の缶だ」
「はぁい!」
今度こそ、とアメリアは胸を張って作業台の前に立った。先ほど貰った助言通りにやれば、もう少し上手にできるはず。
柔らかい手はさっと茶葉が入った缶に伸ばされる。蓋を開けると、花蜜のような甘ったるい香りが鼻をくすぐった。熟成すると自然な甘味を醸すようになるのがカメラナの特徴なのだ。それを活かし、マスターはよく果物を混ぜ加えた紅茶に利用している。でも今回は単品で。湯通ししたポットに茶葉を掬い取ると、すぐにお湯を注いだ。少しでも温度が下がらないように、今回は計量しない。さっきと同じくらいになるよう、目分量で整える。
お湯を入れた瞬間から茶の成分が色水として広がっていくのが目に見えた。このままずっと変化を見ていたい気もする。だが蓋をしなければ温度は下がってしまう、せっかく沸いたお湯を使ったのに台無しだ。そっと蓋を被せる。
少し手を迷わせてから、アメリアは黄色い砂時計を反転させた。
ようやく息がつけた。他人に飲ませるものとなったら、さっきとはまた違う緊張を感じていた。
ふとマスターに一瞥をやる。彼は立ったまま後ろの食器棚に体重を預け、くつろいだ様子でこちらを見守っていた。視線がかち合うと、無邪気な子供のように笑う。
「楽しみだね」
「今度は大丈夫ですよ。ちゃんときっちりやりましたもの」
「えっ、ほんとに? おまじないはかけなかったけど、本当によかったのかい?」
その言葉にアメリアはまたも顔を赤くした。わたわたと腕を動かしながら、乾いた口で言い返す。
「今度はマスターが見ててくれるからいいんです! 大丈夫なんです!」
「なんだ、そうなのか。うーん、残念だなあ。あれだけでアメリアの淹れたお茶はぐっとおいしくなるのにさ」
「もう、からかわないでください!」
「いやいや意外と小さなまじないも馬鹿にできないものさ。始祖の魔術師いわく、超常の魔術を扱うのは斯く遣れば斯く成るべし、と信じることから始めて――」
「もういいです、結構です! マスターのいじわる!」
アメリアは腕を組んでそっぽを向いた。その耳にマスターの大きな笑い声が響いてくる。からかいも茶化しも、今に始まったことではない。それに亭主が自分を心底愛してくれているとは知っているから、本気で怒る事もない。
さらりさらりと硝子の中にて黄色い砂が降り積もる。それに併せてポットの中では、カメラナのお茶がじわりじわりと幸福の味をつくりあげている事だろう。
そう、おまじないなんかに頼らなくても、紅茶をおいしく作る事はできるはず。ちゃんと勉強を続ければ、いつかきっとマスターに負けず劣らずの茶師になれる。アメリアは作業台に並ぶ呈茶の道具を眺めながら、気持ちを新たに入れ直したのだった。
葉揺亭 本日のメニュー
「カメラナ」
蜂蜜を溶かしたような自然な甘みを含んでいるのが特徴の紅茶。
もちろんストレートでおいしいが、ミルクやレモンなどともとても相性が良い。
この甘みを活かし、フレーバーティやブレンドにもよく使われている。




