愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
「こんな結婚生活にしがみついちゃって、馬鹿みたい。あなた、自分が惨めとか思わないの?」
義理の娘の言葉に、私はさっと血の気が引きました。へなへなと力が抜けて座り込みたくなります。結婚して以来の私の努力は、空回りしていただけ。もちろん、そんなこととっくの昔に気がついていたのですが。
「あーあ。お父さまもどうしてあなたなんかと結婚しちゃったのかしらね。もうちょっと他にいなかったのかしら」
「奇遇ね。実は私もずっとそう思っていたのよ」
目を逸らしてきた現実に向き合えば、自分の立ち位置がよくわかります。社交界の貴公子に拾われた、お飾りの妻。内向きの仕事どころか、年の近い継娘の世話すらろくにできない役立たず。
「ええ、本当に。馬鹿みたいね」
頑張ろうと思い続けていた気持ちが砕け切った後に残ったのは、なぜか笑い出したくなるような爽快感でした。
***
『アイビー嬢、どうか僕と結婚してほしい』
『エリックさま、喜んで』
社交界の憧れの君であるエリックさま。彼からのプロポーズを受けた時が、私の人生で最も輝いていた時間でした。地味で目立たない壁の花どころか、壁の蔦が注目を浴びたことがそもそもの間違いだったに違いありません。
『地味で陰気臭い』
『正論ばっかりで可愛げがない』
『見ているとイライラする』
祖母によく似た顔立ちの私のことを、息子である父も嫁である母も毛嫌いしていました。妹ばかりを可愛がる両親のもとに、居場所などありません。かといって、子ども嫌いの祖母もまた私を引き取ることをよしとはしませんでした。
行儀見習いという形で親戚宅に預けられたものの、厄介払いだったことは明らか。後ろだてのない私に誰が優しくしてくれるでしょう。雇われた侍女たちよりも厳しく当たられ、そのくせ給料など出ようはずもないのです。そんな私が、付き添いで参加していた夜会で、エリックさまに見初められるなんて夢物語としか言いようのない出来事でした。
『一目見たときにわかりました。僕には君しかいないと』
情熱的とも言える愛の言葉は、社交界の話題になりました。私を嫌い抜いた両親や妹でさえ、喜び勇んであちこち私を引っ張り回したものです。祖母は自慢の孫だと鼻を高くし、親戚は行儀作法を教えたのは自分だと胸を張っていました。
彼らの掌返しに思うところもありましたが、それでも初めて人生の主役になれたことが嬉しかったのです。落ち着いて考えてみれば、エリックさまが私を選んだ理由など簡単にわかったでしょうに。
『きっと君となら、僕は幸せになれると思うのです』
今思えば、彼は「幸せにする」とは言いませんでした。そういう意味では、確かに誠実で正直な方だったのかもしれませんね。「僕は幸せになれる」、その意味を捉えられなかった私は結婚してすぐに、理想と現実の落差に苦しむことになったのです。
***
「アイビー、どうして君はリサと仲良くできないんだ」
「申し訳ありません。けれど……」
「言い訳は聞きたくない。リサからの文句を聞くだけでお腹いっぱいなんだよ」
「……はい」
「まったく、とんだ見当違いだったな。あの厳しい老婦人のもとで暮らしてきたのであれば、誰に対しても人当たり良く暮らせると思っていたのだが。まさか君がこれほど口やかましい人間だったとは」
「それは彼女のために……」
「疲れているんだ。ひとりにしてくれ」
エリックさまには、奥さまの忘れ形見である一人娘がいらっしゃいました。そのわりに、あまり関心がなさそうなのです。もちろん、不自由のない暮らしをするだけのお金は十分与えられています。けれど、それだけでは足りないものがあるのではないでしょうか。
彼女が恥をかかないように、全力でサポートしなくては。そう思ってあれこれと彼女に話をしてきましたが、それは彼女にとっては煩わしいただのお節介でしかなかったようでした。
『放っておいて』
『今やろうと思ったの』
『それくらい、言われなくてもわかってる』
それでも私はあれこれ言うのをやめられませんでした。行儀見習いに行ったはずなのに何も教えてもらえず、人前でたくさんの恥をかいてきた私には、不必要な苦労はしないほうがいいと思えてならなかったからです。
私には、こんな風に親身になってくれる家族なんていなかったのに。そんな嫉妬……いいえ、怒りでしょうか。子どもに向かって抱いてはいけない想いさえ持っていました。そんな人間だから、義理の娘は私を軽蔑していたのかもしれません。
「リサの好きにさせればいい。あの子ももう16才、いい大人だ。婚約者だっているんだ。別に今さら慌てて淑女教育を見直す必要だってないだろう」
「そう、でしょうか」
「僕は今夜は帰らない。先に休んでおいてくれ」
結婚してからわかったことですが、エリックさまには常時複数の恋人がいらっしゃいました。ですから、義理の娘に母として受け入れられなかった私は、本当に出番などなかったのです。
夜会は、エリックさまがその時々の恋人たちを連れて行きます。もちろん、この家で茶会を開けばまた私なりの関係が作れるのでしょうが、お飾りの女主人に声をかけるような奇特なご婦人方はいらっしゃいませんでした。
それでも、私はエリックさまを愛していました。あの灰色の家から連れ出してくださったエリックさまは、私にとっての光でしたから。
「君も好きに過ごしてくれたまえ。子どもさえ孕まなければ、好きな男を囲ってくれてもかまわない」
私が望んだのは、こんな生活ではなかったのに。鬱屈とした想いから解放してくれたのは、一見残酷にも聞こえる義理の娘の言葉だったのです。
「こんな結婚生活にしがみついちゃって、馬鹿みたい。あなた、自分が惨めとか思わないの?」
愛されたいと思うから、苦しいのです。かつての暮らしよりは、遥かにましな生活をさせてもらっていることは間違いありません。だから、諦めればいいのです。
どうせ彼らは他人なのだから。わかりあえなくたって、仕方がありません。世の中には、どうしようもないことだってたくさんあるのです。
理解してしまえば、それは目の前がさっと開けるような心地がしました。
***
義理の娘にばっさりと批判されてから、私の生活は一変しました。それは、彼女との関係にもはっきりと表れています。
「わたし、今日はこれを着ていくわ」
「あら、そうなの。この時期にしては寒そうだから、風邪を引かないように気をつけてね」
「……季節外れとか、茶会にふさわしくないとか言わないのね」
さらりと流した私のことを、見知らぬ生き物でも見たかのように見つめてきます。今まで口うるさく注意していたのだから、そう思われるのも仕方がありませんね。私はもう頑張ることは諦めたのです。良き同居人として、彼女のことを見守るだけ。
「だって、リサはそれが着たいんでしょう。だったら自由にしたらいいわ。素材や色にはふさわしい時期や場というものがあるけれど、私が知っているものはあくまで一般的なものだけ。あなたが行く茶会では、その格好が良しとされるのかもしれない。だから、自分で決めたほうがいいと思うの」
「失敗したらどうするの?」
「自分で決めたのだから、そこは仕方ないなあと甘んじて反省してちょうだい。大丈夫よ、あなたにはしっかりとした婚約者がいるのだし、ちょっと失敗したくらいで結婚できなくなるなんてことはないわ。必要なら、いくらだって私が頭を下げるから。子どもの失敗をフォローするのも、親の役目だもの。それでも心配だったら、彼の意見も参考にしてごらんなさい」
「……ちょっと考え直してくる」
普段あれこれ注意している時にはどんなに場違いな格好でも着替えないくせに、本人の選択を尊重すると着替えようとするなんて。なんだか不思議なものです。
「アイビーは茶会には出かけないの?」
「残念ながら、お飾りの妻に招待状なんて届かないのよ」
「じゃあ、代わりに自分で茶会を開けばいいじゃない」
「呼ばれたこともないのに、全然お知り合いじゃない方を呼ぶなんて恐れ多いでしょ」
本当は結婚なんてしていないのではないかしら。そう思うくらい、私は誰にも声をかけられません。もしかしたら気がつかない間に、透明人間に進化してしまったのでしょうか。
「普段は家の中で何をやってるの?」
「庭を散歩したり、本を読んだり、刺繍をしたり。いろいろよ」
「刺繍が得意なのね」
「全然」
「何それ。毎日何が楽しいの?」
「美味しいご飯が食べられて、ゆっくり本を読めるだけで幸せよ。友達はいないけれど、今はあなたがおしゃべりしてくれるわ」
「……わかったわ。今日の茶会、あなたも一緒に連れて行くわ」
一体どういう風の吹き回しでしょう。まさか、リサが私を外出に誘うなんて。
「何しているの、さっさと着替えて。せっかくだから母娘コーデにするわよ。ううん、わたしたちの年齢的に、姉妹コーデでもいいわね」
「ちょっと待って。相手の方も、招待していない人間が来たらびっくりしてしまうわ」
「本来なら声がかかって当然なのに? ひとりぼっちが好きならこのままでいたら」
ひとりは嫌いではありません。誰かを不愉快にさせることも、誰かに怒られることもありません。家に帰ってから、終わりのない反省会をする必要だってないのです。
けれど、せっかくの誘いです。今断ってしまったら、もうリサは私を誘ってはくれないでしょう。それはなんだかとても寂しい気がしました。
「……一緒に行ってもいいかしら?」
失うものなどなにもありません。これ以上、嫌われることだってないのです。少しだけ、勇気を出してみることにしました。
***
それ以来、私はリサといろんな場所に顔を出すようになりました。話してみれば、気さくな方が多いことに驚きます。とはいえ今でも時折、場違いな気がしてしまうのですが。
「本当に来てよかったのかしら」
「またその話? この間の茶会だって買い物だって、別に問題なかったでしょ」
「ええ、そうね。みなさんとても優しいのね。いきなりお茶をかけられたり、嫌味の応酬になったりしなくてびっくりしたの」
「アイビーったら、大衆小説の読みすぎよ」
私の両親や親戚の振る舞いを見たら、リサは腰を抜かしてしまうかもしれませんね。でもそんな意地悪にリサがさらされていなくて、ほっとしたのもまた事実です。リサは口は悪いのですが、とても優しい女の子なのです。
「そうかしら。でも、ここではワインをドレスにかけられる可能性があるわね」
「堂々とかけてくる相手がいたら、わたしがつぶしてやるわ」
「お願い、騒ぎは起こさないでね」
私がおどけてお願いのポーズをとっていると、意外な人物に声をかけられました。てっきり私のことなんて、無視なさると思っていましたのに。
「まあ、エリックさま」
「君も、参加していたのか」
「はい。侯爵家に招待状が届いた後、私にも是非にとお声をかけていただきまして。せっかくなので、参加させていただきました。すみません、私が参加したことで何か不都合が生じましたでしょうか」
「……いや、構わない」
言葉とは裏腹に、どうにも顔色の冴えないエリックさま。そんなエリックさまの腕には、なんともわがままボディな美女が絡みついていました。
「ごめんなさい。エリックはわたくしと一緒にいたから。奥さま、ひとり寂しくお過ごしだったのではなくって?」
「いえいえ、エリックさまがいつもお世話になっております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げれば、美女さんが身につけているアクセサリーを私に見せつけてきました。よくわかりませんが、とても高価であることは間違いないようです。
「ねえ、見て。これ、エリックが買ってくれたのよ」
「とてもお似合いですね。エリックさまの瞳と同じ色で、本当に素敵です」
「……何なの、あなた馬鹿にしているの?」
「まさか、とんでもありません」
エリックさまの大切な方ですから、失礼のないように対応したつもりだったのですが、どうも何か失敗してしまったようです。お怒りになる美女を前に困っていると、リサが助け船を出してくれました。
「ねえ、アイビー。わたし、喉渇いちゃった」
「あら、じゃあせっかくだからあちらに用意されたワインを頂きましょうか。今回の夜会のために、とっておきを用意されたと聞いているわ。すみません、エリックさま、失礼させていただきますね」
「ああ……」
エリックさまは、お連れさまをなだめることもなく呆然としていらっしゃいます。私が言うのもなんですが、不機嫌な女性を放置しておくのは良くないと思うのですが。
「アイビーは、お酒強いの?」
「実は飲んだことがないの。酒豪だったらどうしましょう」
「アイビーが酒豪とかないわ。このネックレスをかけてもいい」
「まあ」
おしゃべりに花を咲かせる私たちのことをエリックさまがじっと見つめていたなんて、まったく予想だにしていなかったのです。
***
ここ最近、エリックさまが屋敷にいらっしゃる時間が増えました。どうやら先日の夜会でお会いしたダイナマイトボディな美女とは別れてしまったようです。なるほど、それならようやく妻としての役割を果たせますね。
「アイビー、これは一体……」
「エリックさま、どうぞおかけになってください。こちらは、東方から取り寄せた紅茶です。香りが芳醇で、甘いお菓子によく合うんですよ」
「そうよ、お父さま。せっかくアイビーがお茶会を主催しているのだから、しっかり参加してくれなくちゃ」
「君たちは一体、いつの間に仲良くなったんだい」
私とリサは目を合わせ、お互いに小首を傾げてみせました。リサが私をバッサリと切って捨ててくれたおかげで仲良くなったと伝えても、わかってもらえるのでしょうか。
男性の世界では、殴り合いから友情が芽生えることもあるようですし、意外と納得していただけるかもしれませんね。
「それで、彼女たちは君の友人かい?」
「いいえ。エリックさまの恋人候補の皆さまです」
「は?」
なぜか口をあんぐりさせるエリックさまに、得意満面で女性陣をご紹介していきます。セクシー美女からスレンダー美人まで、選り取りみどりなのです!
「私たちが書類上の夫婦であることは周知の事実ですし、エリックさまを紹介してほしいという女性は多いのです。とはいえ、無節操にご紹介するのもよろしくないでしょうから、こちらである程度ふるいにかけさせていただきました」
「き、君は一体何を!」
「お父さま。アイビーから見てお父さまがどんな風に見えるか、おわかりいただけたかしら?」
なぜか顔を赤くしたり青くしたりお忙しいエリックさまに、呆れ顔のリサが腕を組んで何やら言い募っています。ここ最近、父娘の会話も増えたようで嬉しい限りですね。
***
父娘の関係が改善されたからでしょうか、なぜかエリックさまは私にもちょくちょく話しかけてくださるようになりました。
「アイビー、週末の夜会だが君も参加予定だろうか」
「はい」
「良かった。それでは、今回は僕がエスコートさせてもらおう」
「ええと、エリックさま。申し訳ないのですが、すでにお相手が決まっておりまして」
そもそも、エリックさまの夜会のお相手はいつも恋人の皆さまですし。全員のご都合が悪いなんて、そんなことあるのでしょうか。もしかしたら、女性の日が重なってしまったとか?
「いやしかし、僕たちは夫婦なのだから」
「大丈夫です、エリックさま。先日も申し上げました通り、私たちが書類上の夫婦でしかないことは、すでに皆さまご存知のこと。今さら、おしどり夫婦を演じる必要などありません」
どちらかといいますと、「演じる意味がない」という方が正しいような気もしますが、まあそれは置いておきましょう。
エリックさまは、口をはくはくと開いたり閉じたり。確かにパートナーがいない状態というのは、外聞が悪いもの。とはいえ、エリックさまがお声をかければ、すぐにお相手が見つかると思うのですが。
「この間まで女性をとっかえひっかえしていたくせに、娘と後妻が仲良くなってからアイビーの良さに気がつくなんて最低よね」
「いや、違うんだ!」
「もうリサ。お父さまにそんなことを言ってはダメよ。私がエリックさまの好みに合わないのだから仕方がないもの」
「それは違う、僕は君のことが!」
あわあわと言い訳を繰り返すエリックさまの隣で、リサがぷっくりと頬をふくらませています。
「じゃあアイビーは、わたしの婚約者がお父さまみたいにいろんな女性の間をふらふらしても我慢しろって言うの」
「リサと彼の関係は、こういう形式的なものではないでしょう。大丈夫よ。ちゃんと好きな気持ちを伝えて、相手を大切にしていたら、こじれることなんてないわ。心配しないでも大丈夫。いいえ、いっそ、その心配だという気持ちを相手に伝えてみたらいいのよ。リサはいつもしっかりしているから、そんな風に実は心配していると知ったら、彼は逆に嬉しくなるのではないかしら」
リサの唇が、ゆっくりと弧を描きました。
「そうよね、お父さまみたいなクズじゃあるまいし、彼なら心配することないわね。でも気持ちは伝えた方がいいから、さっそく今から訪問するわ」
「あら、いきなりね」
「いきなりでも喜んでくれるもの。さあ、アイビーも行くわよ」
ぐいぐいとこちらを引っ張るリサ。どうやら、私が行くことは決定事項のようです。
「私が行く意味は」
「だって、彼のお兄さんってばアイビーにいつも会いたがっているもの。いいじゃない、どうせ夜会でもエスコートしてもらうんだし、ゆっくりお茶でもして親睦を深めておいたら」
「リサの婚約者の兄が、アイビーのエスコート相手なのか?」
「ええそうなの。お父さまと違って、彼はアイビーのことをとっても大切にしてくれるの。婚約者もいない独身だから、問題もないし! そもそもアイビーはお父さまより、わたしたちの方が年が近いのだから、話もぴったり合うのよ。お父さまは、この間のお茶会の美人さんたちと楽しんできたら? 病気にだけは気をつけてね。ああ、やだやだ、ばっちいわね」
「こら、リサ! すみません。ですが、本当にご病気だけには注意されてくださいね」
なぜかがっくりとうなだれるエリックさまを置いて、私たちは屋敷を後にするのでした。
***
「ねえ、アイビー。あなた本当にお父さまと離婚しなくていいの?」
「ええ、私は今の生活で十分に幸せなのよ」
けれど、リサは私の答えにどうも不満そう。そう、この子はとても優しい子なのです。
「お父さまもどうしてあなたなんかと結婚しちゃったのかしらね」
「単に条件がちょうどよかったからかしら」
「でもアイビーはくそ真面目じゃない。お父さまが提案した形式的な結婚は、金さえあればいいみたいなタイプじゃなきゃ向いてないの。まったくお父さまったら、もっと性格の悪い女性を選ぶべきなのに」
「そんな女性が義理の母になるのは地獄では?」
「追い出すから大丈夫!」
にっこり笑顔のリサは、やっぱりたくましいですね。
「お父さまと離婚するなら、彼のお兄さまと再婚して!」
「婚約者さんのお兄さまも、私のような傷物の年増を勧められても困るに決まってるわ」
「白い結婚なのは、みんな知ってるもの。それに、義理の母娘より、義理の姉妹のほうが年齢的にもちょうどいいじゃない」
はじけるように笑うリサは、なんだかとても楽しそう。
実は今でも私は、エリックさまのことが嫌いではないのだと言ったなら、彼女はどんな顔をするでしょうか。
馬鹿な女だと呆れるかしら。クズ男に惹かれてはダメだと叱られるかしら。
エリックさまが私のことを気にかけていらっしゃるのは、自分になびかない女が珍しいから。私がエリックさまの好意を受け入れたなら、きっとあの方は私をまた忘れてしまうでしょう。だから私は永遠に愛することをやめたまま、あの方の近くで生きていたいと思うのです。
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