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聖女が愛した偽物の婚約者

作者: 最条真
掲載日:2022/03/26

『金貨を拾ったら、持ち主に返しなさい』

 正しい大人は皆そう言うが、しかしそれは千載一遇のチャンスを逃しているとも取れているのではないだろうか。その金貨一つでなにかを変えられるかもしれない。


 返すことは、そのチャンスをふいにすることでもある。

 金貨は何に言い換えても良い。剣でも本でも、もちろん他者の人生だって。


 自分は今チャンスを得ているのだ。


 なにかを変えれるチャンス。平凡な自分を変えるための。

 もちろんそれは盗んだものであるし、持ち主が被害を受けることでもある。


 それが、何だ。

 だから、何だ。


 落とした方が悪い。盗まれる方が悪い。


 そんなチャンスがあったらよかった。


 勿論、そんなチャンス俺にはなかった。

 なぜなら、それらは全部死に際の妄想。

 眼前に迫る業火を前に、するのは後悔。


 もっと、


(もっと幸せに生きたかったなぁ)


 それを口に出すより先に、俺は灰になって死んだ。




 ◆




 聖女は大層愛に飢えているらしい。

 与えられたくもない『癒しの力』を天から授かった。

 神からの恩寵と、そう言い変えれば楽で。ただの子爵令嬢に過ぎなかった彼女は聖女になった。


 人間から、聖女へ。


 聖女が操る『癒しの力』。

 それは他者の傷を癒し、失くした四肢を再生させ、天に還った死者の魂を再臨させる神の見業。


 しかしそれは、見方によっては命を冒涜する行いであるらしい。


 ありとあらゆる傷を癒し、死を退ける聖女。

 その力を保有する王国は戦争に勝利し続け、世界は王国の一強になった、らしい。


 らしいらしいと言葉が続くのはそれは全て目の前の聖女から聞いた話であって俺に確信がないからである。


「アベル......慰めてぇ」


 アベル。そう、俺の名前だ。

 そして今俺に抱きついているのは齢十八歳だという金髪碧眼の美少女、もとい聖女。


 名前はマリアベル・プリティシラ。俺の婚約者でもある。


「大変だったな」

「でしょ? 頭撫でて」


 促されるままに、俺は頭を撫でる。

 さわり心地の良い髪だなとどうでもいいことを考えつつ、思う。


「なぁマリアベル」

「ん、なぁに?」

「......楽しいか?」

「嬉しいかな」


 俺ーー、アベルは彼女に蘇生させられた。

 聖女が司る『癒しの力』。それは誰のもととも知れぬ灰すらも、人間に還す力。

 癒しと言うには度が過ぎていて、それでもやはり誰かを救う力であることは代わりない。


 世間一般で俺はアベル・セオリュクス。公爵家の令息で聖女の婚約者。

 だけど、だけど。


(俺には、その記憶が一切ないんだよ)


『癒しの力』。その本質は想像を現実に再現するというところにある。

 敵国の大魔法によって焼け落ちた戦場。その中に散る灰をかき集めて、力を行使して、最初に思い浮かべたのがアベルの顔。


 だから、アベル・セオリュクスという男の容姿で蘇生を果たした。

 聖女となんら関わりの持たない、ただの一兵卒に過ぎない男の灰は。


 聖女の力では記憶を再現するところまでいかなかったらしい。

 故に、ただの一兵卒の男の記憶しかない、アベル・セオリュクスの容姿を持った別人はそこに蘇生した。


(どうすりゃ良いんだよ)


 この事象を転生と呼ぶか、憑依と呼ぶべきか俺には分からない。

 でも、別人だと打ち明ける勇気なぞ俺は持ち合わせていなかった。

 聖女の婚約者。おまけにこの体は公爵家の令息。そもそも俺にして見れば打ち明ける必要などなかったのだ。

 紛れもない千載一遇のチャンスであるからだ。


 かわいらしい婚約者と、高いスペックを誇るこの体。

 生前のアベルという人物の行動を模倣するだけで、俺は幸せになれるのだ。


 そう、幸せに。


 前世、とでも呼ぶべき俺は孤児だった。

 孤児院で育てられた。俺には剣の才能があった。

 剣を使って金を稼ぐ手段があって、実力を見込まれ騎士団にスカウトされ、戦場で死んだ。


 下らない人生だった。

 友人はできなかった。誰かに愛された経験なんてなかった。金はあっても幸せにはなれなかった。


 だから、良いよな?


 アベル・セオリュクス。知らない人間の容姿と立場を使って、幸せになっても。




 ◆




 夢を見た。

 一人の人間が目の前に立っている。


 俺だ。アベル・セオリュクス。

 俺が成り代わった人物。


 珍しい黒髪黒目。整った顔立ち。冷徹な支配者を思わせる男。

 服装は、不思議なことに戦場に赴く時の軍服だ。


『ーーーーー』


 何かを、言っていた。

 耳では聞き取れなかった。


 違った。耳を塞いでいたから聞こえなかったのだ。

 なぜ耳を塞いだのか。聞きたくなかったからだ。


 自分以外の自分の存在なんて許容できる訳がない。


 きっと、目の前の俺ーー、いやアベル・セオリュクスは。


『返せ』


 おそらく、こう言っている。


 人並みの罪悪感はあった。

 自分がアベル・セオリュクスという男の人生を代弁する資格なんてないことは分かっていた。


 許して欲しいというつもりはない。

 罪を贖うつもりもない。ちゃんと地獄には落ちるから。



『起きて』



 可愛らしい婚約者の声が聞こえた。

 夢から覚める。目の前の男とは、さよならだ。


「じゃあな、アベル・セオリュクス」


 できれば、二度と会いたくない。




 ◆




「紅茶の味はどう?」

「ああ、すごく美味しい」


 それは良かったと、くすりと微笑んで彼女ーー、マリアベルは笑う。

 俺がアベル・セオリュクスという人間を演じることになってからとうに一年が過ぎていた。


 セオリュクス家の中庭にて、茶会は開かれている。

 白いテーブルの上には、彼女が淹れた紅茶と、彼女が作ったお菓子。


 用意する筈が、作ってきたと言って気かなかった。

 紅茶もまた同様で、淹れたいと懇願されて仕方なかったのだ。


 めっちゃ美味しい。さすがアベル・セオリュクスの婚約者ーー、もとい俺の婚約者。できた女だと内心で微笑む。それで美少女だというのだから非の打ち所もない。


 戦争も終わり、世界が平和を取り戻している中、聖女の力を使う機会が極端に減った彼女はそこらへんの女の子と変わりのないように見えた。


 使う機会といったら、誰かが包丁で指を切ったレベルの些事なもので。


「どうしたのアベル。私の顔ばかり見て」

「いや、何でもない」


 聖女と呼ぶには、普通の女の子らしすぎた。


(可愛い)


 美少女で、俺に尽くしてくれて、可愛い。

 惚れない理由なんてどこにも存在しなかったのだ。


 惚れたからには、幸せにしてやりたいと思う。

 傲慢かも知れないが、そう思う。


 俺という人間がアベル・セオリュクスという人間を演じるようになって一年は経つが、それでも意外なのは自分が意外と成りきれているということだった。


 最初の方は、蘇生に伴う記憶の劣化。そう周囲には嘘を付いて、学んだ。

 教えてもらった。アベル・セオリュクスなら、こんなときどうするのか。


『アベル様ならーー』


 自分の側仕えを名乗るメイド。俺の容態を見て痛ましげに頭を下げ、色々と教えてもらった。事実、アベル・セオリュクスという人間を構築する上で役に立ったのは彼女の知識が大半だ。


 こういうときはこうすると、主人の思考を熟知したような口振りで彼女は言う。

 武勇伝なども交えて『なにか思い出しませんか』と聞かれる度に首を振る。それはなかなか精神にくる。


『お前は偽物だからはやく本物を返せ』


 そう言われている気分だった。

 それで彼女にありがとうと返すと、彼女は頬を赤らめる。


 きっと、アベル・セオリュクスという人間を好きだったのだろう。


 申し訳ないと思う。でも存外に見えてないのだなとも思う。


『今の仕草、アベル様らしかったです!』


 そんなわけないだろうが。俺は偽物だ。

 聞きかじりの知識でそれっぽく演じただけ。それがメイドにはアベル・セオリュクスその人のように見える。


 両親にしてもそうだった。

 三男なのが幸いしてか俺が記憶を失ったのをそこまで気にしていないようだった。


『今は体を休めることに専念しなさい』


 そう言われた。

 メイドに聞いた知識を両親の前で披露したら、体の調子が戻ってきたかと言われた。


 そこまでで思うのは、人間は簡単に騙せるということ。

 表面上で物事を判断して、その表面を俺が演じて見せればアベル・セオリュクスという人間が戻ってきたと勘違いする。


 人間に求められるのは外面で、内面はそこまで求められないんだなと。

 簡単な世界の真理を、また一つ理解した気がした。


 騙すことに罪悪感は減っていった。

 俺が演じても、アベル・セオリュクスが完全に帰ってきたとしても、彼らの反応は差異がないように、思えたからだった。


 目の前の婚約者は別にして。

 彼女には罪悪感があった。


 なぜだろうと、考えてみたらすぐに分かった。


 俺が彼女に惚れているからだ。

 だから、彼女には嘘を吐きたくない。


 自分は存外、勝手な人間なのだと自覚する。

 嘘を吐かないと、続けられない関係なのは分かっているだろうに。


 彼女の前だけでは誠実な人間でありたかった。

 心の底から幸せにしてやりたいと思ったから、彼女が不幸になる嘘は吐きたくなかった。


 でも。


(俺は、臆病だから)


 もし、自分がアベル・セオリュクスという人間ではないことを周りが知ったときどんな反応をするのだろう。


 蔑まれるだろうか。殴られるだろうか。殺されるだろうか。


 そして、なによりーー、


 彼女に、嫌われるだろうか。


 惚れた弱み、という奴か。

 おそらく使い方を間違ってるんだろうな、これ。

 内心で笑いながら、改めて思う。


 彼女には、嫌われたくなかった。


 何があっても、絶対に。

 接していく中で、自分が勝手に好きになったその少女には。


「ねぇ、アベル」

「ん、なんだ?」

「ふふっ、呼んでみただけ」

「そうか」

「好きな人の名前を呼ぶのって、楽しいのね」


 苦しかった。顔には出さないように努めた。


(嫌われたく、ねぇな)


 自分が、彼女の愛した人間ではないと知ったら。

 きっと、その笑顔を向けられることもないのだろう。


 だから。だから、今日も演じる。


「マリアベル」

「なぁに?」


 誰からも好かれる、アベル・セオリュクスという男を。


「愛してる」


 きっと、色男ならこういうときこんな言葉をいうんじゃないだろうか。

 知らないけど。自分が想いをただ、彼女の伝えたい身勝手な行動に他ならないけど。


「ふふっ」


 彼女は笑う。頬を染めながら、恋をする乙女のように。



「私もよ」



 それがとても辛いのに、それでも何故だか愛おしい。




 ◆




「ねえ、アベル」


 月に一回。それが俺と彼女の会う頻度。


「大好き」


 中庭で茶会をしたり、ショッピングに言ったり、海に行ったり、どうでもいい話をたくさんする。


「アベルは私のことどう思ってる?」


 好きだ。好きで堪らない。手を繋ぎたい。キスだってしたい。抱き締めたい。


「愛してるよ」


 それらの全てを、俺はしたことがない。怖いからだ。自分が彼女を幸せにする資格があるように、思えなかったから。


 幸せになりたかった筈なのに、いつしか彼女を幸せにしてやりたいと思うようになった。そこで気づいた。自分には、資格なんてないことに。


「だったら、キスくらいしてくれてもいいんじゃない?」


 だって、俺は偽物だ。アベル・セオリュクスという人間の容姿と立場を持って、あとはどうでもいい男の記憶はあるだけの偽物。


「それは、無理だ」


 俺は彼女に嘘を吐き続けている。

 自分は偽物であること。ただ、あの戦場にいただけの。

 彼女の男と、一緒に戦場にいただけの。一切君と関わりのなかった男。


 それが俺で。


「なんで?」


 その問いに、答えるだけの勇気が俺にはない。

 だって、


(嫌われてしまうから)


 自分がそう言ったところで、信じてくれないかもしれないけど。


「なぁ、マリアベルーー」


 俺は。


「言いたくないなら、言わなくてもいいんだよ?」


 そんなに優しくしないでくれ。


「だって、私はーー」


 言わなくていい。



「貴方のことが、大好きだから」



 それは、アベル・セオリュクスという人間であって、俺ではない。


 手を繋ぐことも、キスをすることも、抱き締めることもなく。

 気づけば、彼女と俺が初めて会って五年の月日が流れていた。




 ◆




 自己の存在の定義付けを、人はどうやって行うのだろうか。

 アベル・セオリュクス。その男を演じるうちに。俺は。


 いつもの茶会が、開かれる筈だった。


「ねぇ、アベル」


 言うな。


「最近、」


 言わないでくれ。



「ーー疲れてない?」



 そう彼女に聞かれるくらいには、俺という人間はボロが出てしまうようだった。

 なぜボロを出してしまうのか。考えてしまうからだ。自分はこのままで良いのか。


 演じたままでいいのか。

 それは彼女に相応しいのか。

 彼女を好きなくせに、嘘を吐き続けて良いのか。


 アベル・セオリュクスという外面があって、彼女と初めて関係が成立しているのに。


 嘘を吐くのに疲れたなんて、馬鹿なこと言ってられない。


「大丈夫だよ」


 嘘を吐く。疲れた。全部言ってしまいたい。

 自分は偽物だと。言えたらどんなに楽なんだろう。


「嘘」


 記憶がないのに演じている。

 彼女を好きになって、好かれるために演じている。

 彼女を幸せにするために、演じている。


 自分がただ、幸せになるためだけに演じていれば。

 きっと、苦労はなかったのだろう。


 彼女を幸せにしてやりたいと、そう思って演じていると。

 ただただ、吐き気がする。


『返せ』


 彼が、アベル・セオリュクスが、夢に出てきたのは何年前だろう。

 それでも、あのとき、彼が言いたかったであろう言葉が頭にこびりついて離れない。


『返せ』


 返してやりたかった。できることなら、お前に、彼女を幸せにしてやって欲しかった。


『金貨を拾ったら、持ち主に返しなさい』


 前世の母の教えが頭によぎる。

 気づいたのだ。俺は。他人から盗んだもので、幸せになろうとして。


 それで、やっと気づいたのだ。


 他人の借り物で満足している限り、俺は一生幸福にはなれないのだと。

 分かっていたのに彼女に想いを抱いてしまった。


 なんで愛おしいと思ってしまうんだろう。


 自分が愛する人に、嘘を吐くのが。辛くて、たまらない。

 死ぬべきだった。俺は。


 あの戦場で、灰になって。

 そのまま風に吹かれて消えてしまえれば良かった。


 死にたかったのだ。

 辛くて、たまらないのだ。

 嘘を吐き続けるのが、こんなに痛いとは知らなかった。


 死にたくて、辛くて、痛くて。


「なぁ、マリアベル」


 あの日の続きを、今言おう。

 彼女に遮られて、怖くて。言えなかったあの言葉を。



「俺はアベル・セオリュクスじゃない」



 偽物なんだ。



「ずっと演じてきた。あのとき灰から還った俺は君の婚約者のアベルじゃなくてどこにでもいるような男だったんだよ」



 幸せになりたかった。



「どういうわけか、その男としての記憶だけあって。なぜか容姿はアベル・セオリュクスそのままで、訳の分からないまま立場はあって」



 演じてきた。



「そして、君に恋をした」



 幸せにしてやりたかった。

 もう限界なんだ。君に嘘を吐くのは。


 君の前で、もう一度だって嘘なんか吐きたくない。

 偽物が、恋をする資格なんて最初からなかった。

 俺は、あのとき、あの場所で、死んでおくべきだったんだ。


 なのに、なんで。



「やっと、言ってくれた」



 俺は、アベル・セオリュクスじゃないのに。

 なんで君は、そんな屈託のない笑みを浮かべられるんだろうか。




 ◆




 実は、知らないと思うけど。

 前までの貴方は、正直私は苦手だった。


 だからと言って、嫌いではなかったけど。

 どちらかと言えば、好ましい部類であることは確かだ。


 毎年、私の誕生日には花を贈ってくれるし、戦場だろうと近況はしっかり手紙で報告するし、会いたいと言ってくれる。


 嬉しかった。


 愛おしいとはまだ思えなかったけど、きっといつか好きになる人なんだと思った。


 なのに、彼は死んだ。

 戦場で。敵の最後の大魔法で。

 敵の決死の大魔法。それを、自分達の国の領土でやるとは思わなかった。

 

 要は、焦土作戦。追い詰められた敵が行った最悪の戦術。

 それで私の婚約者が。焼かれて、灰になって。


 いつか好きになる人だった。


 辛かった。苦しかった。

 でも、それと同時に会いたかった。


 もう一度、一目会って。

 言って欲しい言葉があったのだ。


 態度で示すような人だったから、未だにその言葉は貰っていない。


『愛してる』と、その一言が欲しかった。

 私は、身勝手な女だった。


 彼と、もう一度会う。

 その方法は、私が持っていた。


 灰を集めて、力を行使し、蘇らせた。


 灰の状態から人間を復元するのは初めてだった。

 自分でもできて、流石に疑問に思った筈なのに。


 それでも、喜びが勝った。


 彼とまだまだ、交わしたい言葉があったのだ。

 彼に言って欲しい言葉があったし、私も言いたいことがあった。


『態度だけじゃなくて、言葉でも示して欲しい』って。


 どんなめんどくさい女だよ、と流石に自分でも思った。

 でも、態度だけでは不安だから、確かな言葉が欲しかった。


 だから、慰めてと言って彼が素直に応じたときは驚いたし、彼からその言葉が出るとは、予想していなかった。


『愛してる』


 嬉しかった。私は言葉を返した。


『私もよ』


 少しずつ、気づいたことがある。

 おそらく、蘇生前と後では彼の性格が変わっていること。


 態度で示す人だったのに、ちゃんと言葉にする。


 そのくせ、繊細な花瓶に触れるようにして、私を丁寧に扱うところは少し、似ていたけれど。


 でも、違ったのだ。

 決定的に。なにかが。


 すぐに分かった。

 でも、それを私は口にすることはなかった。


 私が彼に過敏に触れてはまずいと、そう思ったからだった。


 それは、彼にとどめをさすような、決定的な言葉な気がして。

 結局私は、この時までなにも言わなかった。


「なぁ、マリアベル」


 目の下には隈ができて、生気がなくて、どうしようもなく縋るような目で。


「俺はーー」


 彼から語られる内容を、私は知っていた。

 知っていたのに、言わなかった。それが彼をひどく追い詰めていた。


 ひどい女だ。重ねて思う。だって、そうだろう。



「やっと、言ってくれた」



 なんで(聖女)貴方(偽物)を愛してしまったんだ。




 ◆




「なぁ、なんで」


 弱々しい言葉だった。


「俺はアベル・セオリュクスじゃない。なのに、なんで」

「愛してる」


 それに被せるように、彼女は答える。


「最初から気づいてたのに、私は言わなかった。怖かった。今の貴方の方が好きだって、そんなことを言ったらダメだと思って。自分でも嫌な女だって分かってる。言わずに苦しめていたのは、自分の方だった」


「訳わかんねぇよ。俺は偽物で! 君を幸せにする権利なんてなくって。ずっと駄目な奴のままだった。あのとき、戦場で死んだまんまの俺からなにも進歩してない! なんで、君が......」


 訳が分からなかった。感情の収まりが付かなかった。言わなければいけないことと、聞かなきゃいけないことがいっぱいあった。


 それでも、それでも。


「貴方のことを、好きになっちゃったの」


 その一言で、全部救われたような気すらして。

 訳が分からなくって、涙が溢れて止まらなかったのだ。


 吐きそうなくらいその日は泣いて、彼女に慰められて。

 最終的に膝枕までされて。


 また夢を見た。


 目の前に、男が立っている。

 アベル・セオリュクス、その人だ。


 謝りたいことがいくらでもあった。

 贖いたかった。この罪を。許してくれというつもりはない。

 ただ、この罪と、向き合いたいと、そう思って。


 今度は、耳を塞がなかった。


『幸せにしろ』


 男は笑っていた。


 どういう意味なのか分からなかった。

 俺は演じた。アベル・セオリュクスという人間を。

 取り繕って、あまつさえ彼女に恋して。それで、幸せにしろだなんて。


 虫の良すぎる話だ。


『存分に生きろ。俺の分まで』


 良いのかよ。そう聞いてみた。


 彼は笑みだけを浮かべた。


 それでも、その男はそれ以上なにかを喋るつもりもないようで。


 俺は、夢から覚める。




 ◆




 彼女と結婚する。

 夢のことを話して、それで『君のことを幸せにしたい』と言って。


 純白のドレスとティアラで着飾った彼女は綺麗だった。


 それを、見せてやりたい相手がいた。


 アベル・セオリュクス。天から見守っているであろうその男に。

 返しても、返しきれそうにない恩を持つ男に、見せてやりたかった。


 草葉の陰で、見てるだろうか。


 お前が幸せにする筈だった女は。これから俺が幸せにする女は。


「それでは、新郎新婦誓いの口づけを」


 神官にそう言われ、彼女とキスをする。


 これから、彼女と手を繋ぐし、キスをするし、勿論抱き締める。

 それで良いって、言ってくれたのはお前だから。


 だから、お前の分まで俺は彼女を幸せにする。


 教会の鐘が鳴る。

 結婚成立を知らせる独特の鳴らしかたの鐘。


 参列者が立ち上がって拍手をする。


 目の前の、彼女は笑った。


「愛してる」


 俺もだよ。


 そういって彼女を抱き締めた。




四時間で書きました。

人間って八割がた見た目で判断するらしい。つらたん。

見た目は同じなのに中身が違う的なことを書こうと思ったら徹夜していた。

自分でも意味が分からない。異世界恋愛にハッピーエンドが少ないのも良く分からない


アベルくんが聖人過ぎる。彼は不器用な男でした。

別の男に女を取られてそれを許すようなもんですよね事情は色々あるにしろ。ガチ聖人。詳しい舞台設定は気が向いたら活動報告に載せるかもしれません。


人は死ぬかもしれませんが私はハピエン厨です。

実質連日投稿。毎日投稿してる人これって頭おかしいよね。


またどうせかくんでお気に入り登録お願いします。

あと良ければ評価ブクマ感想も。作者の原動力です。できればよろしくお願いします。


徹夜明けなので文章がおかしいです。寝ます。

では、また。

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[良い点] 理屈じゃないところ シンプルに好き
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