第十四話 『夜中の課外授業』
『パディールナ山脈』の麓━━
山間に挟まれたように存在する『欲望の森』の最奥には、その名称を象徴するかのような、ある大きな樹がそびえ立っていた。
その巨木から生える枝葉は他の植物とは明確に違い、月明かりに反射して眩いまでの黄金色を放っている。
『金葉樹』と誰かが名づけたその樹は古くからそこにあり、樹齢は千年ほどは超えているのかもしれない。
人々に忘れ去られた森であるため、その樹の周囲には誰もおらず、危険種とされるモンスターの気配しかしない。
数百年以上も放置された場所なのだが…
いま、その金葉樹の目の前にはぼんやりとしたカンテラの明かりが灯っており、ぽつぽつと人影が立っていた。
「ほわぁ…きれー…」
自身より数百倍もでかい大樹を見上げていたのは、妹ルシラ。
「よくこんな場所知ってたね」
妹ルシラの隣にいたのは姉ルシラで、左方向に顔を向けた。
「懐かしいな」
そこにいたのはダインで、彼は言葉どおり懐かしそうに金色の大樹を見上げている。
「…すごい…」
さらにダインの隣にいたのはレフィリスで、彼女も目を丸くさせたまま、目の前の大樹に圧倒されているようだ。
彼等はある目的のために、静まり返った夜の時間、この忘れ去られた森へ訪れていた。
その名も、『夜の課外授業』。ダインが提案したことだ。
勉強熱心だが引きこもりがちなレフィリスのため、たまには外に出て肌で世の中のことを体感してもらおうと始めたものだ。
夜の落ち着いた時間に姉ルシラとレフィリスに家まで来てもらい、そして妹ルシラを入れて四人で世界中の名所を見て回る、という、ある意味で壮大なものだった。
徒歩の移動でなら実現不可能だっただろうが、姉ルシラが“創造”した乗り物がそれを可能にしてくれた。
魔力を物質化させて作ったという『雲のゴンドラ』は、姉ルシラが普段から移動に利用しているもので、導線は空にあるため移動距離は無限。運行スピードは自由自在に変更可能で、ワープすることもできる。
ここ『欲望の森』へも、その雲のゴンドラによって難なく来ることができたのだ。
「ね、ダイン。どうやってこの場所見つけたの?」
ルシラがダインに尋ねる。
ダインよりも数百…いや、数千倍も長生きしてきた姉ルシラだが、欲望の森のことも、金葉樹の存在も知らなかったらしい。
「親父たちと世界各国を旅してるときに偶然見つけてさ」
ダインはいう。
「どっちが早くコンフィエス大陸にたどり着けるか親父と競争したとき、たまたまこの森とこの樹を見つけたんだよ」
「すごいね、だいん!」
妹ルシラは両手を広げて騒ぎ出す。
「こんな金ぴかなばしょ、そうそうないよ!」
「まぁ運が良かっただけだけどな」
「いまも誰にも見つかってないのかな?」
「そうみたいだな。人が立ち入った痕跡はなさそうだし」
そうルシラと話しているところで、
「あの…持って帰ったり、しなかったの…?」
静かな声で、隣にいたレフィリスがダインに尋ねた。
「こういうのは、見つけたもの勝ちだって…海賊? の漫画で見たことあるけど…」
どうやらレフィリスにも、この金葉樹はお宝だという認識があるようだ。
「いやぁ、さすがに持って帰るのはな」
ダインは笑いながら、お宝に手は出さなかったと続ける。
「誰かのものっていう可能性もあったし、こういうことで金儲けしてもろくなことになりそうになかったからさ。何か嫌な予感もしたし」
「嫌な予感…?」
「ああ。ここにレフィリスを連れて来たのは、まさにこの樹に関係することでな…」
ダインがレフィリスに早速“授業”を始めようとしたとき、
「…うん。ダインが嫌な予感がしたっていうのは、合ってるかも知れないね」
金葉樹の幹に触れていた姉ルシラは、小さく微笑みつつダインたちのところに戻ってきた。
「この金葉樹にまつわる歴史は、割とグロテスクなものかも知れないよ」
“能力”を使って金葉樹から過去の事象を分析したルシラは、そのまま昔あったことを話し出そうとしたが、
「ルシラ、悪い。その先は俺に話させてくれないか?」
ダインがそういって止めた。
「レフィリスには、歴史的事実に基づくものだけでなく、それに関連した人の心の移り変わりってものを知って欲しいからさ」
ダインたちと一緒になるため、いまも必死に勉強を頑張るレフィリス。
そんな彼女のため、ダインもダインで彼女に“人間とはどういうものか”を真面目に教えたいようだ。
「あはは。そうだね。分かったよ」
ダインの気持ちを十分に理解していた姉ルシラはまた笑う。
「ダインこそ、人間のそういった部分を沢山見てきたもんね」
「ああ」
「ニンゲンは、みにくいもの!!」
突然、知った風に割り込んできたのは妹ルシラだ。
「れふぃちゃん、大事なのは良い人、悪い人の見分け方だよ!」
「見分け方…?」
「うん! 世の中にはいろんなひとがいるからねー」
レフィリスより一足先にこの世の歴史について勉強し、学校に通って様々な人たちと接するようになったルシラには、ある程度その見分けがつくようになったのだろう。
「だいじなのはちしきと観察! ね?」
「そうだな」
頷いたダインは妹ルシラの頭を撫で、笑いかけた。
「人の感情ってのは複雑だからな。ある意味で面白くて、またある意味で厄介だ。その点、モンスターのほうが分かりやすい部分もあるな」
ダインが言い終えたそのタイミングで、背後の草むらからガサガサと音がした。
草木が掻き分けられ、間からぬっと巨大な何かが現れる。
出てきたのは、体長十メートル以上はあろうかという、とてつもなく巨大な犬型のモンスターだった。
その真っ白な体毛からして、一級の危険種である『インフェルノウルフ』だということが分かる。
どうやら金葉樹のあるこの広場を寝床にしていたようで、ダインたちを見るなり身体を硬直させ、次に姿勢を低くしながら唸り声を上げ始めた。
『グルル…!!』
牙を剥き出しにしており、明らかに警戒している。
その全身は筋肉で盛り上がっており、爪も長く鋭い。
同じく危険種である『キングバグベアー』と肩を並べるほどに強力で、一般人が相対したならばまず助からない状況だったのだが…、
「だいじょぶだよ!」
見上げるほどに大きなモンスターの前に、妹ルシラは移動して両手を広げた。
「ここには、れふぃちゃんのお勉強できただけだから! 何も取らないし、何も壊さないよ!」
そういってインフェルノウルフに笑顔を向ける。
“彼”にとってみれば、ルシラなど相手にならないほど矮小な存在だろう。
ともすれば絶望的な光景に見えなくもなかったのだが、身構えていたインフェルノウルフはルシラをジッと見つめた後、突然牙を引っ込めて真顔に戻った。
低くしていた姿勢も通常に戻し、唸り声もなくなる。見るからに敵対心を失ったようだ。
「うんうん、分かってくれたね! いーこいーこ!」
まるで人懐っこい犬を撫でるかのように、ルシラは自分の背丈と同等ほどはある、モンスターの大きな口元を撫でだす。
先ほどの警戒心はどこへやら、彼は素直にルシラに撫でられている。
妹ルシラの、モンスターと意思疎通ができる能力はまだまだ健在のようだ。
レフィリスの課外授業で様々な土地に訪れ、そこで様々なモンスターたちと遭遇してきたが、すぐに打ち解けあうのはルシラの能力と笑顔のおかげに他ならないだろう。
とそのとき、インフェルノウルフが現れた草むらがまたガサガサと揺れだした。
そこから凄い勢いで何かが飛び出してきて、二つの小さな影がルシラの周囲を回りだす。
『ガウガウッ!!』
その影は二匹の小さなインフェルノウルフたちだった。
どうやら親子連れだったらしい。
「あははっ!」
じゃれてくる二匹にルシラは笑顔で応じ、舐めてきては撫で返してを繰り返している。
そんな光景を横目にしつつ、母親だったインフェルノウルフはのっそりと歩き出した。
ダインたちには敵対心どころか興味を失ったかのようにあくびをし、落ち葉が積み上げられた場所で足を折り曲げ、横になって身体を丸める。
「おねーちゃん、ほら、きて! 可愛いよ! あはは! わぁっ!?」
じゃれられすぎて途中で転んでしまったルシラだが、子供たちは倒れたルシラの頬をなおも舐めている。
彼らにとっては、ひと目見た瞬間にルシラたちは安全だと分かったのだろう。
「おねーちゃん! あはは! ほらー! あははは!」
「もう、しょうがないなぁ。じゃあダイン、レフィリスのお勉強、頼んだよ」
姉ルシラは笑いながら妹のところまで歩いていく。
「ダイン、この樹は危ないの?」
主役のレフィリスは、ダインが何を話してくれるかに興味があるようだ。
「よし、じゃあ…立ったまま勉強ってのもなんだから…」
落ち着ける場所は無いか周囲を見回したダインは、気持ち良さそうな場所を発見し、そこまで歩いていく。
「ちょっと背中借りてもいいか?」
“もふもふの塊”に向けて声をかけると、その一部がムクリと起き上がった。
インフェルノウルフの母親はダインたちを一瞥しただけで、再び前を向いて丸まる。
明確な返事はなかったものの、好きにしろといっているのは何となく伝わった。
なのでダインはそのまま腰を降ろし、見るからにふわふわしてそうな塊に背中を預ける。
綺麗好きで水浴びの習慣があるインフェルノウルフの体毛は見たままもふもふしており、意外にも木の実を主食にしているからか体臭はきつくなく、逆にフルーティだ。
高級な羽毛布団に包まれたようで、ダインの口から思わずため息が漏れる。
「レフィリスもほら。気持ちいいぞ」
自分と同じようにしろと促すと、「うん」とレフィリスも毛玉にもたれかかった…が、小さい彼女には些か体毛が長すぎたようで、もふもふの塊の中に入り込んでしまい、一瞬同化してしまった。
「はは、レフィリスにはまだ少し早かったかな」
ダインは笑いながらレフィリスの手を引いて助け出し、自身の前に座らせた。
こちらへ寄りかかるようにさせながら背後から腹部に腕を回すと、レフィリスの口から落ち着くようなため息が漏れる。
「レフィリスはさ、『錬金術師』ってのはどんなものか、習ったことあるか?」
ダインは黄金色に輝く金葉樹を見上げながら、目の前の真っ白な頭部に向かって問いかける。
「どんなものも金に変える魔法を使える人のことなんだけど」
「うん。知ってる」
ダインの腕に自身の真っ白な手を重ねながら、レフィリスは頷く。
「でもすごく難しい魔法だから、使える人は少ないって書いてあったけど…」
妹ルシラより後に“産まれ”、背丈も小さいはずなのに、レフィリスの話し方は出合った頃よりはっきりとしている。
口調が滑らかなものになってきたのは、“現世”というものに慣れたのか性格ゆえかはわからないが、知識を多く身につけたのもあったのだろう。
「その錬金術がどうしたの?」
「いや、以前この場所を偶然見つけて、この金葉樹のことが気になったから色々と調べて分かったことなんだけどさ…」
ルシラたちと子供ウルフたちの騒がしい声を聞きつつ、ダインは続ける。
「この金葉樹はさ、当時少なかった錬金術師の中でも特に才能があった『レヴィンテント』って人が作ったものらしくてな。渾身の出来だったみたいだけど、それが多くの火種を生んじまうことになったんだ」
「火種?」
「そう」
それからダインはレフィリスに、金葉樹を巡る様々な“事件”について語り始める。
その金葉樹は誰のものか。
所有権の主張に始まり、論戦を経て血なまぐさい争いにまで発展した。
そしてその争いがまた別の火種を生み、知人、友人、親族まで巻き込むほどの数多くの悲劇を生んだ。
相次ぐ争いの中で次々と生まれる恨み。復讐心。終わらない怨嗟。
欲望に目が眩んだ人間は理性というものがなくなり、どんな非道で残虐なことでも平気で実行するようになる。
この日ダインがレフィリスに教えたのは、人間は如何に欲深くて、そして如何に罪深いものか、というものだった。
「や、やっぱり、地上は…この世界は、怖い…」
案の定レフィリスは怯えきってしまっている。
レフィリスを人間恐怖症にしてしまってどうするんだという突っ込みがどこからか飛んできそうだが、しかし地上に降りて他の人間に接する機会があるならば、その危険性についても必ず知っておかなければならないことだ。
人には誰しも良い面と悪い面がある。
良いところばかりを見て、悪い面に目を瞑っていてはいつか裏切られる可能性があるし、いい面しか見ないというのは決してお互いのためにならない。
そのことを分かって欲しいから、人間と接することでどんな“リスク”があるのかを、授業という名目でしっかりとレフィリスに説明した。
が、当然悪い奴ばかりでは無いということも付け加える。
「もちろん、この樹にまつわる話は悪いものばかりじゃなくてだな…」
ダインはさらに続ける。
金の枝葉を巡って人情の輪が広がり、病弱だった子供の命が救われたこと。
義賊の気まぐれによって浮浪者が家を持つまでに復活し、その彼が他の浮浪者たちに積極的に声がけをして社会復帰への手助けを始めたこと。
負の連鎖があるのなら、正の連鎖もある。
人々が持つ優しさは、時としてありえない奇跡をも起こすと説明すると、
「人間は、良い…? 悪い…?」
人間がどういう存在なのか分からなくなって、とうとうレフィリスは困惑してしまった。
「どっちの心も持っているのが人間ってもんなんだよ」
考え込むレフィリスの頭を撫でながら、ダインはいった。
「悪い事を一ミリも考えない奴なんて滅多にいない。欲望なんてものはほとんどの人が持ってるもんだし、アニメやマンガといった創作物に出てくるような聖人なんて、現実にはほとんどいないと考えてもらったほうがいい」
「そう、なの…?」
「ああ。どんなに優しくて良い奴だって、そのときの周りの環境や状況によっては悪い奴に変貌したりする。金に目が眩んだり、悪い誘いに乗ったりな。金葉樹のこの輝きを目の前にして、善人が悪人に変わっちまったようにさ」
ダインの台詞を聞きつつ、レフィリスは無言のまま金葉樹を見上げている。
「つまり何を伝えたいかっていうとだな、レフィリスにはあまり誰かを信用しすぎるなってことだ」
レフィリスを抱き寄せ、優しい語り口調でダインは続けた。
「その人に何か少しでも違和感があったら、まず疑いを持って欲しい。どんな奴にだって悪い部分はあるんだってことを知って欲しいんだ」
「ダインも?」
即座にレフィリスが切り返してきた。
「ダインも、悪い事を考えたりするの?」
確かに、ダインの言う“誰でも”は、ダイン自身も含まれている。
「もちろん」
だから、ダインは変に隠すこともなく答えた。
「楽して金儲けしたいなーとか、物欲とか沢山あるぞ?」
レフィリスは思わずといった様子でダインの方を振り返る。
少し驚いたような表情だったが、
「そう…なんだ…」
と、彼女の声のトーンが下がって、また前を向く。
感情の変化が乏しいので分かりづらいが、テンションが下がってしまったようだ。
きっと、ダインの返答が彼女が望んでいたものではなかったからなのだろう。
「俺もそれこそ聖人なんかじゃない。至って普通だからな」
落胆したようにも見えるレフィリスに向け、ダインは笑いながらいう。
「やましいことを考えるときもあるし、何だったらいまこの目の前にある金葉樹を持ち帰ったら億万長者になれるんだろうなーとか、正直想像しちまうよ」
再び金葉樹を見上げるダイン。
月を覆っていた雲が動き出し、再び月明かりに反射しだした黄金の輝きを眺めつつ、「でも考えるだけで、実際にしたことはないよ」と彼は続ける。
「実行しようとも思わないし、そんな気すら起こらない」
「それは…どうして?」
「多分、俺自身が満たされている環境に置かれているからなんだと思う」
「満たされている環境?」
「そう。常識のある両親に育てられ、優しくて友達思いのシンシアたちに囲まれ、他人のことを考えられる余裕ができたから、悪い事を考えてもそれを実行に移さなくて済んでるんじゃないかってな。もちろん環境だけじゃなくて、自分自身の意思もあるけどさ」
「他人のこと…」
「そうだ。世の中悪い奴は沢山いるが、良い奴はそれ以上にいるのがいまの世界なんだと思ってるよ。じゃなきゃとっくにこの世は滅んでるだろうし、人間なんていう存在もなくなってた」
「人間…」
レフィリスはダインと同じように金葉樹を眺めながら、彼が言ったことを繰り返し呟いている。
ダインが伝えたかったことのどれぐらいを彼女は理解してくれただろうか。
この絹糸のような髪に包まれた、小さくて可愛らしい頭では、どんな想いや感情が巡り巡っているのだろうか。
「人間ってのは同族の俺から見ても不思議でさ、時にはとんでもない奇跡を起こしたりもする」
「奇跡…?」
「レフィリスを救い出せたのがそうだよ」
ダインはいう。
「俺一人の力じゃどうにもならなかった。シンシアたちと、そのシンシアたちの後ろにいた沢山の人たちの力のおかげで、俺はお前をあの“闇”の中から救い上げることができたんだよ」
いまレフィリスがここにいること自体が、人々の善意によって起こされた奇跡だとダインはいう。
「確かに俺は悪いことを考えちまうときもあるけどさ、家族とかシンシアたちがいてくれる限りは、そういった悪い方向…悪堕ち、みたいなことにはならないと言い切れるよ。みんなから沢山の恩をもらっちまったから、その恩を少しずつでも返していかなきゃならないしさ」
俯いたレフィリスは、そのまま考え込んでいる。
「お前にはまだ難しい話だったかな?」
ダインは再び笑い、「ま、でも難しく考える必要はないよ」といった。
「自分の直感を信じたらいい。何が好きで何が合わないかなんて人によるんだし、人間という存在が良いか悪いかなんて誰にも判断できない。決まったものなんてないんだよ。ついでにいうと俺が話したことも持論に過ぎないんだし、間違ってるかもしれないんだからさ」
身も蓋もないことをダインは言うも、「うん…」と頷いたレフィリスは突然、
「レフィリスも、悪い子…なのかもしれない」
と言い出した。
「うん? どういうことだ?」
「レフィリスも、その…よくぼう? があるから…」
「え、何か欲しいもんでもあるのか?」
「うん」
普段心配になるほど大人しく、無表情が多いレフィリスに欲しいものがあるとは、ダインですら知らなかった。
「何が欲しいんだ?」
だから気になってダインは尋ねたのだが、
「ダイン」
レフィリスは再びダインの方を振り返り、はっきりとした口調でいった。
「ダインが欲しい」
…ダインは数秒固まってしまう。
「な、なるほど、そういうヤツか…」
ちょっとした変化球を受け、ダインは戸惑う。
「レフィリスは、悪い子…」
彼女は少し落ち込んだ様子だ。
「あ、あーいや、何も物欲が悪いことじゃなくてな…誰かが好きで欲しいっていうのも、真っ当な感情というか…」
ダインによる、レフィリスへの道徳の授業はまだ続く。
そんなダインの戸惑った様子を、姉ルシラは妹と遊びつつも微笑ましく見つめていた。