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悪役令嬢にされたので推理してさしあげますわ

作者: 中華鍋

恋愛じゃないよなー…となったので推理カテゴリに。

お前ちげーよとなりましたらご指摘いただければ。

ゆるく頭を空っぽにしてお楽しみください。

 午後から降り始めた雨は止まず、分厚い雲が空を支配している。昼間なのに部屋は薄暗く魔導ライトを使わないと、お互いの顔も見にくい状況だ。


 そんな中、公爵令嬢であるソフィアは、学園の廊下を歩き生徒会室の前で立ち止まる。

 数回深呼吸をして、ノックを三回。向こう側から許可する声が聞こえ、ドアを開いた。


「ごきげんよう」

「シンシアか」

「はい」


 部屋の中は薄暗く、ローテーブルの上にある魔導ランプの灯だけが、煌々と輝いていた。

 天井照明を付ければいいものを、とソフィアは思ったが、いつもの生徒会メンバーなので仕方がないのかもしれない。



 部屋自体はそこまで広くなく、扉の先には質の良いソファが、ローテーブルをはさむようにして二つ並んでおり、その向こうには、大きな窓を背にして樫の木でできた書斎机が置いてある。何故か机には熊の置物が鎮座していたが……。


 ソファにはソフィアの婚約相手であるロバート殿下と、最近彼が熱を上げている男爵令嬢であるアンナが座っている。二人とも場を考えずにいちゃいちゃしていたようだ。向かいには次期侯爵のルーカスと、クリスの姿。また、殿下のソファには騎士団長の息子であるビリーが、まるで石像のように立っていた。

 彼らは皆、午後のお茶会を楽しんでいるらしい。積み上がった未処理の書類を見て、ソフィアは心の中で溜息をついた。


「お時間を頂戴してしまい、申し訳ございません

 今回生徒会室に来たのは殿下にお願いがあっての事です」

「ふん、どうせアンナに近づくなと言うのだろう?

 貴様はいつもいつもアンナを虐めているのだからな」

「ソフィア様……怖いわ……」

「大丈夫だ。俺が守ってやるからな」


 まるで悪者のようにソフィアを睨みつけるが、彼女は動じる事もない。手にした書類を渡そうと殿下に近づき――――そして、突然魔導ランプの灯が消えた。


「なっ――」


 昼間なのに深夜のように真っ暗になった部屋に、全員混乱の声が上がる。一体なんだと思ってロバートが魔導ランプに手を伸ばそうとしたが、直後ものが割れる音と悲鳴に目を見開いた。


「アンナ!」


 その声は彼の隣にいたアンナのものだったらしく、咄嗟に彼は肩を抱き彼女を庇うようにする。


 直後、魔導ランプの灯が戻り、全員が全員驚いたような顔をしていた。


「ソ……ソフィア様が……私に殴りかかって……」

「なっ!! どこまで愚劣なのだ! 貴様は!」

「いえ、私は何もしておりませんわ」

「黙れ! アンナへの動機は貴様しかいないだろう!」


 ――あ、そこは自覚なさっているのですね。


 とソフィアは表情を変えずに思った。虎の穴に入ったのだから、何か言われると思ったのだがここまでの茶番をやると思わず笑ってしまう。


「何がおかしい」

「いえ、殿下もそこまでのお知恵はあったのかと驚いているのですわ」

「貴様っ!」

「怒りを覚えるのは結構ですわ

 ですが、私は電気が消えてから一歩も動いておりません」


 堂々と告げたところで、クリスが声を荒げた。


「ま、窓が割れているんだ! お前が姑息な手を使って暴漢を雇ったんじゃないのか!?」

「まぁっ!」


 そこまで悪役に仕立て上げられるとは!

 これは物語に出てくる悪役令嬢を名乗ってもいいのかもしれない。

 見当違いも甚だしい考察に、ばらりと扇を広げて口元を隠す。


 ――書斎机の上に置いてある熊が、居なくなっていますわね……それに……。


 少しだけ部屋を見渡した後、ソフィアは早々にこの茶番を終える事に決めた。何しろ時間は有限なのだ。


「では、皆さまゲームをいたしましょう

 私が犯人だと決めつけたいのであれば、その矛盾を指摘させていただきます」

「ほう……?」

「そして私が犯人ではない、となった時改めて殿下に申し伝えたい事がございます

 もし私が犯人であれば断罪でもなんでもしてくださいな」

「いいだろう

 どうせ貴様がやった事なのだ

 言い訳くらいは聞いてやろうではないか

 貴様が犯人だった場合は、さっさと婚約破棄し、俺はアンナを妃に迎え入れよう」


 その言葉にロバート殿下は面白いとでも言うように呟いたが、周りにいる彼の取り巻きとアンナは驚いたように身じろぎする。


 ――茶番も甚だしいですわね。


 アンナ達の表情を見て、ソフィアは徹底的に潰す事を決めた。自分をこんな子供だましみたいなことで、陥れようとしても無理だろう。


「ではまず……外部からの犯行ですがありえませんわ」

「何故だ! 窓ガラスが割れているだろ!」


 ルーカスが叫ぶが、ソフィアは聞こえなかったフリをして続けていく。


「窓ガラスの破片が外側に飛び散っているのです

 外部からの犯行であれば、室内にガラスの破片が飛び散るはずです。

 それに、外は雨ですわ

 外から来たのであれば、絨毯が濡れているはずです」

「……」


 そこまで告げれば、全員が黙るが、勇気があるロバート殿下がアンナを抱きしめたまま口を開いた。


「だが、内部で割られたのなら、一体何を使って割ったんだ」

「おそらく書斎机にある熊の置物を使ったのでしょう。設置してあったものが無くなっております」


 そう告げれば、ビリーがさっと視線を逸らす。

 なんとわかりやすいことか。


「貴様が暗がりの中でその熊の置物を持ち出しガラスを割ったのであろう?

 その後、ドレスの中に隠したのだろう」


 だが、当然ながらロバートは納得しない。


「私がガラスを割った凶器を持っているとお考えであれば、ドレスでもなんでも脱いでさしあげますわ

 ――モニカ」

「はい、お嬢様」


 言われるだろうと予測していたので、ソフィアは外に控えさせていた侍女を呼び、ドレスを脱ぐ。

 白い肌が見え、パニエとコルセットがあらわになった。当然そこには熊の置物を隠せるスペースもない。

 嫁入り前ではしたないと言われようが、こちらはやってもいない罪がかかっているのだ。裸にだってなんだってなってやろう。


「な……ソフィア!?」

「これでお分かりになられまして?」

「く、くだらない! どうせモニカに渡したんだろ!」


 クリスが吼えたが、ソフィアは顔色一つ変えずに告げる。


「部屋が暗くなり、灯が戻るまで約10秒ほど

 その間私が入口から走って窓ガラスを割り、アンナ様を殴るのは不可能ですわ

 そしてモニカに凶器を渡す事も……」

「やってみないとわからないだろ!」


 クリスのその言葉に飽きれつつ、モニカが時計をロバートに差し出す。何も加工がされていない事を確認し、ソフィアが部屋の中を走り始めた。

 書斎机まで駆け、そこから窓ガラス、それからアンナの元へ行き、最後に扉の向こうに控えるモニカのところに向かう……。無駄に広い部屋を駆け抜け、同様の犯行が完了した頃にはゆうに20秒以上が経過していた。


「これでお分かりになりまして?

 それに、私が仮に同じ動きをしたとしても、ビリー様が後ろに控えているのですから、気配で気づくはずですわ」


 暗に、気づいてないわけないわよね、という脅しである。ビリーは無言でこくこくと頷いた。


「では一体だれが」

「あの短時間でやるとなると、一人では到底無理ですわ

 犯人は複数人でしょうね」


 ソフィアが最終宣告として言えば、ロバート以外の顔が真っ青になる。


「……」

「アンナ? 顔が真っ青だが」

「だ、大丈夫です!」


 それでも尚言わない彼らに、彼女はとうとうあきれ返ってしまった。


「ねえ、アンナさん、ルーカスさん、クリスさん、ビリーさん

 私を陥れるのは楽しかったでしょう?」

「!!」


 ソフィアが判決を下し、四人の身体がびくりと震える。ロバートは彼らの状況を見て、犯人を察したようだが、それでも信じたかったのだろう。


「い、言いがかりはやめないか!」

「これだけ私が犯人ではないという状況証拠がそろっているのに、今更言いがかりですの?」


 短時間で犯行は無理、外部の者も来ていない。となると身内での茶番劇しかないではないか。扇で口元を隠し、バカにしたような目で見つめれば、とうとうビリーが膝をついた。


「も、申し訳ございませんでした!!」

「ビ、ビリー!?」

「俺が……俺たちがやりました」

「やっと白状したわね」


 自責の念に駆られたのか、熊の置物を握りしめたビリーは訥々と語り始める。

 曰く、アンナが「自分の寵愛を受けたいのなら、ソフィアを陥れろ」と。

 曰く、アンナが「生徒会室で彼女がやったように見せかけろ」と。

 曰く、アンナが「ソフィアを犯人に仕立て上げれば、殿下も喜ぶ」と。


 お粗末すぎて笑えない内容に、ソフィアの意識が若干遠のいた。素養がない男爵令嬢には、ソフィアを陥れるなど無理な話だろう。


「アンナ……君は……」

「も、申し訳ございません!

 ロバート様! わたし、わたし……ソフィア様にロバート様が取られてしまうのが……」

「少し黙ってもらおうか、そこにいる三人もだ」


 アンナは自分の分が悪いと判断したらしい、即座に「つい嫉妬してやちゃった、てへ」という雰囲気をかもしだしたが、さしものロバートも百年の恋が冷めたらしい。

 もとより、アンナにお熱でなければ、理性のある有望な王族の一人だったのだ。


 そう「だったのだ」。


「ソフィア……すまなかった……」


 アンナから手を離し、まるで今までの事は悪い夢だと言わんばかりにソフィアの手を取る。

 パニエとコルセットのみのソフィアだが、二人のその状況はまるで絵になっている。ロバートは今までの事を誠心誠意謝罪し、もう一度ソフィアとやり直そうとしていたのだが――――ここで目の前の婚約者から雷が落とされた。


「殿下、本日生徒会室に来たのは

 貴方との婚約を破棄するためですわ」

「――――――へ?」


 さも当然のように告げるソフィアに、ロバートは固まる。


「というか、今まで破棄されないと思っていたのですか?

 素養もなく、マナーも知らず、さらには婚約者がいる殿方にベタベタしていたあの阿婆擦れに味方し

 私の話を一切聞かずに説教したのですよ?」

「あの……その……」

「ま、さ、か、謝って済むとでも思ったのですか?

 口約束ではなく、私と殿下は契約されていたのですよ?

 何の罰則もないとお思いで? すでに陛下とお父様には破棄の申し出は通っております

 貴方の処遇は陛下にご確認くださいませ」

「そんな!!」


 ソフィアの猛攻は更に続いていく。殿下に攻撃が向いており、今のうちに……と、そっと逃げ出そうとした四人にもソフィアは容赦しなかった。


「そこの殿方三人も、悠長にお考えではないでしょうね?

 私が婚約破棄するのですから、すでにあなた方の婚約者も動いていますわよ

 廃嫡も検討してことですわ」

「ひいっ!!」


 それはまさに死刑宣告も同然だった。

 最後に、ソフィアはアンナに視線を向ける。


「アンナ様、貴方のお父上がお冠でしたわ

 娘が男をとっかえひっかえしているのですからね

 このまま修道院行きか、厳しい女学校に入れるとお考えとのことです」

「い、いやあー!!」


 こうして、生徒会室の茶番劇はあっという間に風の噂となり、メンバーはそれぞれの親にこってり絞られた後再教育という形となったのである。


 ちなみに――


「モニカ、婚約破棄してしまったし

 これからは探偵にでもなろうかしら……」


 などと言う公爵令嬢の姿があったとかなかったとか。

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