紫煙
夜風にあたりながら、煙草をふかしていた。辺りは静かで、物音さえしない。街の明かりが遠くに見え、紫煙がゆっくりと流れては消えていく。
そんななかに、警笛が鳴り響く。
驚いて見上げた夜空には、星々に照らし出されながら、何両あるかさえわからないほどの汽車が一つの線のように浮かび上がる。
私はその不可思議な光景に戸惑いながらも、それをただ見つめていた。決しては恐怖をしたわけではない。ただ、その非日常的な現実に魅了されていたのだ。
世界には知らないこともある。信じられないこともある。そんな感情を忘れ、冒険心さえ消えた私には、その世界はあまりに眩しく感じたのだ。
どれほどの時間が過ぎたか。私はその世界に浸りながら、何かを思い出そうとしていた。しかし、それは手元の痛みと共に現実へと戻った。
手元に目を向けると、火のついた煙草が指先で熱を発していた。
再び見上げたそこには、もう何もない。
興味も好奇心も、それら全てが儚いものだ。忘れがたい経験も、やがては劣化しては埃をかぶるのかもしれない。
子供の頃の夢さえも、いつしか年を重ねれば答えがわかる。
私は煙草を取り出すと、また火をつけた。紫煙をくゆらせながら、その合間に見える夜空の向こう側に夢の続きを探した。
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