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黄昏のミリアム  作者: 雅流
神殿
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天罰

神殿と呼ばれているのだから、どんなにか大層な施設なのだろうと考えてやってきたのだが、それらしき建物はここには一切見当たらなかった。


ここは、なんというか広場としか言いようのない場所だった。


広場の周囲にポツポツといくつかの小さな建物が散在しているが神殿と呼ばれそうな建物ではない。


特徴的なものは広場の中心部にあった。


骨組だけで壁のない家とでもいうのだろうかフローリングの床に柱を立てて屋根だけをつけたような建物が2つ設置されていた。


正確に言うと、建物というよりはそれそのものが広場のようでもあった。


一角にピアノが設置されているのと、いくつかのスツールのような椅子と低いテーブルが置かれている以外には何もない。


片方にはピアノが設置され、巫女を中心にして子供たちが集まっている。


もうひとつの建物には大人たちがそれぞれにくつろいだ様子で車座で話していたり、なかには横になってうとうとしていたりする者もいる。


全体として町の集会場と化していた。


「あの建物は孤児院です、孤児院と言っても大層なものではなくて単に寝泊まりができるだけというような物ですけれどね」


「生神様がどこかに出かけていたと思うと、帰ってくるときには孤児を連れてきたりするので今では6人ほどの孤児が預かられています」


「あそこは雨の日にピアノをいれておく納屋です」


「そしてもうひとつが生神様と二人の弟子、ピアノ弾きと巫女が住んでいる家です」


「あの二人の女性は楽名さんと一緒に住んでいるのですか?」


「そうですね、巫女は連れてこられてからずっと一緒ですし、沙耶さんは最初は親元から通ってたんだけど、すぐに一緒に住み始めたみたいだね」


「楽名さんは二人の未婚の女性と同棲しているのですか?」


「まあそういうことになるね、生神さんも独身だし本人たちがよければ他人がどうこう言うことでもないわね」


「巫女さんは孤児ですよね、でも三池さんの親御さんは娘さんがあそこで生活することについてどうお考えなのでしょうね」


「三池さんかい、まあ口には出して言いはしないけど娘が生神さんの一番弟子なんだ、そりゃあ内心は喜んでいると思うよ」


「楽名さんと結婚してほしいと思っているということですか?」


「いやあ結婚はしないんじゃないかなあ、訊いたことないからわからないけど」


「なにしろ生神さんだから、誰かと結婚とかはしないんじゃないかな」


「生神さんは誰かひとりのためにじゃなくて全ての人のためにいる人だから」


「なぜ皆さんここを神殿と呼んでいるんでしょうか?」


「神殿には見えませんけど」


「そうかね、でもまあ生神様がいるんだからやっぱり神殿なんじゃないかねえ」


「誰が神殿って呼びだしたのかなんて覚えてないなあ」


「あのふたつの建物は子供と大人とに分けられているんですか?」


「いや別にそういうわけではないよ、でも大人であちらに行くものはいないね」


「それはなぜなんですか? 楽名さんがそう決めたとか?」


「いや、あそこにはいつも巫女がいるから」


「巫女がいるから大人はあちらには行かないと?」


「まあそうだね、巫女は預言者だから」


「どうしてでしょう?」


「記者だからというわけではないですが、私なら預言は聞いてみたいですね」


「興味深いですよ、本当に当たるのなら訊いてみたいこともいろいろありますけどねえ」


「巫女に何か訊いたって無駄ですよ」


「巫女は訊かれたことに答えるわけじゃない」


「知らされたことを喋るだけですから」


「それにしたって興味深いじゃないですか」


「まあ子供たちはいいさね、だけど大人は誰だって人には言えないような罪の意識のひとつやふたつはあるものだからね」


「もしかして、いじめっ子が天罰で死んだことと関係が?」


「まあそうだね、それもあるかもしれないね」


「それも・・ということは他にも天罰がくだったことがある?」


「それで皆、天罰を預言されるのが怖くて巫女の側には寄らないとか?」


「以前はね、この町の住人はマナーが悪くてね、ゴミの収集日とかを守らなかったり、きちんと決められた場所に置かないので散らばったりとかね、そういうのがあちらこちらでねえ」


「生神さんはそういうのを片付けて回ってたな」


「そういうのを見ていてね、だんだんとそういう人は減ってきて、ここに神殿ができて生神さんのことを知る人が大半になってからは、まったくそういうのがなくなった」


「だけど守らない人もいてね、重田さんという人なんだけど、いっつもゴミをケースの中にいれないで、その横に置いていくものだからカラスがきて突いて散らばって汚くてね」


「犯人はわかってるんだから、文句を言いにいくと「俺だという証拠があるのか」ってこうだよ」


「みんな頭にきてさ、現行犯で捕まえてとっちめてやろうとか相談していたんだけど、生神様が「腹立たしいと思うことがあっても赦したほうが町は平和です」っていつもの通りに言うんでさ、まあそのままになってたのよ」


「そしたら、ある深夜にね、巫女と重田さんが揉めてるんだよ」


「巫女はいつも神殿にいて滅多にあそこから出ることはないのに、なんだって真夜中にわざわざ一人で町までやってきたのかわからないけどねえ」


「そこにゴミを捨てていると天罰がくだります」って、


「それを聞いた重田が怒ってね「人を脅す気かふざけるな」って、町の者が集まってくるまでずっと怒鳴ってたらしい」


「現行犯で見つかったくせに逆ギレっていうのかい、ひどいもんだよ」


「それで天罰がくだったと?」


「すぐには何もなかったんだけどね、重田はそれからもわざとのようにゴミを外側に捨てていたし」


「でも一週間後に自宅で首をつって死んでた」


「会社をリストラされたとかで悩んでたらしい、それでゴミとかも社会への腹いせとかそういう感じだったのかねえ」


「でもそれは天罰でもなんでもなくて、ただの自殺では?」


「まあそうかもしれないね」


「でも重田の話をすると大きい声じゃ言えないけど、みんな天罰がくだったって言ってるし、そう思ってる」


「いつ何を言われるかわからないからね、巫女の近くに寄る奴はいないねえ」


「生神様や沙耶ちゃんが一人のときは、みんな寄っていろいろと話しかけたりしているけど、巫女と一緒のときには大人は誰もよらないよね」


「楽名さんは、なんで生神と呼ばれているんですか?」


「自分で神の遣いだとか名乗っているのでしょうか?」


「生神さんはそんなこと言わないよ、なんでも「赦せ、赦せ」とか言うばかりで」


「巫女みたいに何か変わったことを言うわけでもないしね」


「ここに皆が集まっているのだって、生神さんが何か言って集めたわけじゃなくて皆が勝手に集まってくるようになっただけだし」


「それではなぜ生神と?」


「まあなんていうのかね「福の神?」」


「なんだか知らないけど生神さんの話を聞きにここに来ると、いつの間にかいい感じになるっていうのかなあ」


「三池さんと中村さんの親父さん同士はいがみあってたのが今じゃあ、親友みたいな仲だし」


「沙耶ちゃんの病気はなおる」


「登校拒否の子供は一人もいなくなったし、先生によるといじめの投書もまったくなくなったらしいよ」


「ゴミはどこにいってもきれいに整理して捨てられているし」


「斎藤さんとこの婆さんはほとんど寝たきりに近かったのが、噂を聞いて車いすで何回かここに連れてきたら、車椅子をおりてあそこの神殿で座るようになって」


「今じゃあ杖はついてるけど自分で歩いている」


「まあ医者に言わせると動こうと思えば動けたのに、動かないから筋肉が衰えてただけだっていうんだけどさ」


「本人は「生神さまのおかけだ、ありがたや」って拝んでるよ」


「まあ言いだせばキリがないけど、何をするってわけでもないのにここに集まってきてる者はたいてい何か思うところというか、いいことがあったんだろうな」


「でもほら神様に祈ったりとかそういうのじゃないし、楽名さん自身に近寄るとなんかご利益があるんだろってことになって誰ともなく生神さんって呼びだしてね」


「何か教えを広めるように勧められたりとか、寄付を勧められたりとかそういうことはないんですか?」


「ないねえ、宗教っていうの、なんかそういうのじゃないから」


「何か相談しにぃっても「赦したほうが気が楽になりますよ」とか、そんなことしか言わないしねえ」


「ここに来いとか、何かお経を読めとかそういうのもないしねえ」


「でも、ここの施設だって、それなりにお金はかかっていますよね?」


「楽名さんは収入とかはどうされているんでしょう?」


「ああ神殿はね、三池さんと鈴木建設が作ったの」


「鈴木建設?」


「社長がね息子が登校拒否だったんだけど、未来くんって言うんだけどね


ここで沙耶ちゃんのピアノ聞くようになってから学校に行くようになったって喜んでね」


「ピアノが弾きやすい、聞きやすいようにって、誰に頼まれたわけでもないけどあの神殿を作ったのよ」


「三池さんも娘の演奏のために鈴木さんが作ってくれるってんで協力したらしい」


「鈴木さんは「商売じゃないから」って断ったみたいだけど三池さんが「娘のために俺にも協力させろ」って言ってきかなかったらしい 笑」


「だけどほら、あそこ巫女がいすわっちゃっただろ」


「それで大人たちが神殿の外で居場所がなさげにしてるんで、鈴木がもうひとつ作るかってね、それでみんなで金だしあって」


「まあそんな感じかな」


「でもあのふたつだけじゃ狭くなるかもしれないねえ」


「鈴木さんに誘われて町会議員の中村さんもここの常連になってたんだけど、この前議員の連中全員を見学に連れてきていたんだよ」


「帰った後に議員連中で盛り上がって、天気のいい日はここで青空議会をやろうというような話になっているらしい」


「なんか嫌なんだけどねえ、ここはみんながのんびり楽しくしているところだろう」


「議会とかさ、ほかでやってくれっていう感じだよ」


「でもねえ生神様は議員だってみんなと同じなんだから、来たい人は誰でも来たらいいし、みんなも赦してあげたほうが町が平和になるっていうからさ」


「生神様にそう言われちゃうとねえ、なんだって生神様の言うこときいておくといい感じになるからなあ」


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