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黄昏のミリアム  作者: 雅流
シバニエ
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黒い予感2

先生に出会って、私は秘密を抱えながら生きていく運命から解放された


けれども預言はいつも黒い影をまとっていて、それが変わることはなかった


その黒い予感はいつも私の心の中に棲みついていて、不安といらだちは私の心をささくれだたせていた


私は常にいらだっていて、私の心の大部分はそれに占められていた


そういう意味では真に私の精神を救ってくれたのは沙耶だった


先生が沙耶を連れてきたあの日から、私は再生をはじめたのだった


預言がまとわせている黒い予感に端をはっする私の心のささくれは、言ってみれば画用紙に描かれた一本の波線のようなものだ


その波線のひとつひとつの頂点と底のとんがりが私の心の壁にぶつかってザラザラと音をたてていたのだ


沙耶の演奏は心に染み入ってきて、波線の凹みをその音色で埋めていく


波線そのものがなくなってしまうのではないけれど、沙耶の奏でる不思議な音色が隙間を埋めてくれるのでザラザラがとても小さくなって心が穏やかになるのだ


それは私だけではない


先生と沙耶、私、それから子供たち


先生の使徒である者のうち沙耶と私以外の子供たちは全員が触れずに物を動かす者たちだ


彼らはその能力と引き換えに心に傷を持っている者ばかりだった


ある者は時に暴力的であり、またある者は引き籠りであり、ある者は自傷の癖がぬけなかったりした


私と同じように心にあるささくれがそれらを引き起こしていたが、沙耶の演奏によってそれらは劇的に改善して今ではどの子供も私たちとどこへでも行動をともにすることができた


私は年下の沙耶に対して何と表現していいのかわからない複雑な感情を抱いていた


私を救ってくれて、今もいつも救い続けていてくれる沙耶を見つめていると私は鼓動が早くなるのだ


沙耶の存在そのものが大切でかけがえのないものに思える


私は沙耶のためであれば必要であるなら自分の命さえも差し出しても構わないと本気で考えていた


私はある日その気持ちを沙耶に伝えてみた


それに対して沙耶は救われているのは自分のほうだと言った


沙耶は子供のころから天才ピアニストと言われていたが、悩みがあった


彼女は常に頭のなかに騒音を抱えていたのだ


人々と触れることによって騒音はひどくなり、ついには彼女は普通に演奏することすらできなくなった


実際に彼女の心はいつもまとわりついている騒音のために崩壊寸前だったのだろう


騒音は彼女の周囲にいる人々から発せられていた


周囲の人々の心の動きが沙耶には騒音となって聞こえるのだ


ピアノ教師の沙耶に対する羨望と嫉妬、親の過剰なまでの期待の気持ち、そういったものが音となって彼女におしよせてくる


沙耶にはそれをどうすることもできなかった、心が壊れる寸前に先生が私を見つけてくれたといった


ミコの騒音は今まで聞いたことがないくらい轟音だったわと沙耶は笑って言った


私はとても恥ずかしかったが、彼女は笑っていた


あそこの子供たちの音も今までのどれよりもひどい音ばかりだった


「だけどね、あんまりにもひどい音だったからピアノでそれを打ち消すことを覚えたの」


「あなたたちの音は特別だった、あなた達が私を救ってくれると先生は知っていたのね」


彼女は私たちの音にあわせてピアノを弾いたらしい


上手にあわせると私たちの音と沙耶のピアノの音はお互いの波を埋めあって消えていく


それが完全に同調したときに彼女の頭の中は完全な無音になるらしい


「あなたたちに出会えて私は初めて音のない世界、静寂を知ったの」


「それは何よりも素晴らしい経験だったわ」


「だからミコや子供たちに感謝されると私はとても罪悪感を感じたわ」


「だって私がピアノを弾くのはミコや子供たちのためではなくて、ミコたちを利用して自分が静寂を得るためにしていたこと、自分のためにしていたことだったから」


沙耶は言った でも私はミコみたいに「いい人」ではないからね、みんなに感謝されるのならそういうことにして黙っていたの


「今までね」


そう言って、沙耶はいたずらっこのようにクスリと笑った


沙耶はその年令になって子供のときから夢見ていたように先生と体をあわせるようになった


それは自然なことだった


先生は私たちの頭の中がわかる

子供のころからずっとそれを沙耶が心待ちにしていることもしっていたはすだから


先生は人々が幸せになることを一番に望む人だから


沙耶が先生と初めて体をあわせた次の日の朝


沙耶は隣の部家で寝ていた私のところにきて言った


「ねえミコはなぜ先生としないの?」


「なぜって。。。そんなこと考えたことなかったから」


「私がこうなっても、それでも考えない?」


「私は全然考えないけど沙耶は先生がほかの人とそうなっても平気なの?」


「それは仕方がないわ、先生がしたいんじゃなくて私が望んでいるからしてくれただけだから」


「先生は私だけのためではなくて全ての人のためにいる人だからね」


私にはよくわからなかった


私はそもそも何かがしたいという感覚がわからないのかもしれない


私には先生がいて沙耶がピアノを弾いてくれればよかった


先生が第一の使徒となるトムを連れてくるまでは

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